第百七十七話


「エーファ。無理するな。アズリとエルマンとエステルと変われ」

「はい!ティア。ティタ。下がりますよ」


 何度目かの交代を行った。


 今、83階層の踏破に挑んでいる。

 美味しいか、美味しくないか?と問われたら、かなり美味しい。あくまで素材という意味だけだ。

 出てくる魔物は、殆どが上位種か進化体になっている。素材もいい物が獲れている。

 魔核もレベル8が最低でレベル9が混じり始めている。


 それらの素材や魔核を使って手元にあるスキル道具を強化している。休憩時に入れ替えるだけでもだいぶ違ってくる。


 美味しくない所は、レベル9にしか存在しないスキルカードは出てきていない。レベル9には、”完全回復”があり、無効系があるはずだ。

 スーンやアズリや竜族の長から聞いた話なので、本当なのかはわからない。


 81階層に入ってからは、俺とシロが2列目に居て、最前列を交代して担当する事にしている。


 先程まで、エーファとティアとティタが担当していたのだが、今はアズリとエルマンとエステルに変わっている。

 次は、エリンとレッチェとレッシュになる。眷属達の底上げをしたほうが良いという話になって、エリンとアズリとエーファが交互に眷属達を連れて前線に立つ事になっている。


 探索には時間がかかるようになっているが、やっと85階層まで降りてきた。

 さすがに、中階層の様に一日で踏破ができなくなってきている。

 広さの意味ではなく、魔物の強さのレベルでだ。全員で戦えば、余裕で倒せるのだが、通路の幅やフレンドリーファイアの事を考えれば、前線にあまり多くの人員を割くことはできない。

 また、85階層からは、今まで出たフロアボスの進化種が出始めている。

 ベヒモスのような超大型ではなく、ギガントミノタウロスなどの通路の高さ的に問題ないものが中心になっている。


 カイとウミが言うには、吸収できる魔力もかなり多いようで、眷属達の成長も促進されるだろうという事だ。


 シロは、俺の横で眷属達に強化系のスキルを施したり、結界のサポートをおこなっている。


「シロ。どうだ?」

「はい。スキル道具を使って補助を行えば、それほどではありません・・・。が・・・」


 ”が”なんだよ。


「シロ。そこでやめるなよ。気になる」

「いえ、いいのですか?」

「なにが?」

「レベル8や9の魔核をこんな使い捨てにするような使い方をしてしまって・・・。それが気になってしまって・・・」

「そうだな。でも、使いみちが無いからな・・・・それ」


 そう、レベル6以降の魔核には使いみちが無い。

 使いみちは有るのだが、俺達以外には使う事ができないが正しい言葉だろう。


 今の所、俺以外には買う事ができないくらいの値段になってしまうようだ。

 そのために、レベル5程度の魔核なら手元に残しておく意味は有るのだが、それ以上になるとあまり手元に残していても意味が無い。特に、シロに渡したようなレベル8や9なんてスキルカードとの交換さえもできないだろう。

 カイやウミたちに吸収させても良かったのだが、あまりに一気に力を吸収すると力が身体に馴染むまでに時間がかかってしまうのだという事だ。吸収させる事もできない、売ったり、交換したりもできない。それなら使うしか無い。


 チアルダンジョンに潜っている間に限って、スキル道具として有効活用する事にした。


 簡単な理由だが、箪笥の肥やしになるのはもったいないし、使うならこの形だろうという事で、スキル道具に仕立てている。

 ノルマとして、上の階層で得た魔核を全部使うまで探索を行う。


 自分で言っておきながら辞めておけばよかったと思っている。

 これが探索を遅くしている理由の一つだ。


「カズトさん。僕、使うたびに怖くて・・・。もう少し、レベルの低い物は無いのですか?」

「シロ。何度も言ったよな。レベル8や9なんて、このダンジョン以外では使い味がないから全部使うってな」

「はい。でも・・・」


 戦いの最中にする話では無いのは解っているのだが、シロがスキル道具を発動する役割になっているので、シロの意見として聞いておくほうがいいと考えた。


 この階層になってから、俺達を見ている魔物居るようだ。


「リーリア!」

「ご主人様。わかっております。エルマンとエステルに対応を頼みました」


「わかった。対応は任せる。オリヴィエ!」

「はい。マスター」

「どう思う?」

「監視の事ですか?」

「あぁ」

「まだわかりませんが、観察しているようには思えません」


 86階層になってから、隠密性が高い魔物が付かず離れずの距離で俺達を見ている。


 チアルダンジョンからの使者ならいいのだが、どうやら違うようだ。

「ご主人様」

「どうだった?」

「はい。隠密系のスキルが得意な魔物でした」

「俺達を見張っていたのは?」

「攻撃のチャンスを探していたようです」


 そうか、残念だな。

 ダンジョンからの使いかと思ったのだけどな。

 まだ、ダンジョンの攻略を続けなければならないらしい。


「そうか、ありがとう。エルマンとエステルも助かった」


 2人からも返事が返される。

 本当に頼りになる。


 正面では、エリンとステファナとレイニーが、キングコボルトを相手にしていた。

 コボルトの最上位種らしいが、進化体のほうが怖い。上位種は汎用的なスキルを使う事が少なく種族スキルだけを使ってくる。そのために、種族スキルを持たないコボルトやゴブリンは、上位種でもそれほど脅威にはならない。


 問題なく勝てるが時間がかかる。

 今は、時間は貴重ではないので、安全を取るようにしている。


 それにしても、レベル9にしか存在しないスキルカードが出てこない。

「オリヴィエ。次が90階層だよな?」

「そうなります」

「レベル9のスキルカードは?」

「ダメです」

「わかった、しょうがないよな」

「はい」


 ついに90階層に降りてきた。

 この階層には、階層主が居るだろう。戦いには慣れてきた事もあって、それほど苦労する事はない。

 シロもレベル8や9の魔核を使ったスキル道具をしっかりとつかえている。


 90階層に降りてから、2日かけて階層主の前までたどり着いた。


 オリヴィエに野営の準備を頼んで俺はスキル道具の調整にはいる。

 シロに渡しているレベル8や9の魔核を使ったスキル道具ではなく、レベル2や3の売りに出せるスキル道具の調整だ。シロの戦い方を見ていて思いついて作ってみる。


 使っている武器に付与する事ができるスキル道具。

 形の基礎はできている。あとは、どうやって着脱するのかが問題になっていた。シロが画期的というか、今までなんでやらなかったのか不思議なくらい簡単な方法で解決した。安いスキル道具では、魔核を2つ使っている。スキルを付与した低レベルの魔核と魔力の提供として用いる少しレベルが高い魔核だ。剣に、魔核を固定する場所を作る。そこに低レベルの魔核を着脱できるようにする。魔力は剣を使う物が提供すればいい。

 魔力が心配な場合には、レベルの高い魔核を剣につけてもいいだろう。

 補助的な起動になるので、ベヒモスで使った物よりは威力の面で心配だが、弱点属性がわかったときには有効に使えるだろう。


 他にもいろいろと使えそうなスキル道具を作った。

 階層主との戦いでは使わないとは思うが、時間ができた時に作っておこう。あとは、スキル同士の組み合わせで何が発生するのかも考えなければならない。実験区からもサンプルデータが上がってきているが、実戦で使った時のデータが乏しい。経験や浸かったあとのフィードバックは、91階層からの戦いで得られればスキル道具の開発や改良に役立つ。


「マスター。お食事の用意が整いました」

「ありがとう。皆は?」

「今、エーファが呼びに行っています」

「そうか、揃ったら食事にしよう」

「かしこまりました」


 ウミとエリンとアズリが、シロとステファナとレイニーを連れて狩りに行っている。

 ライもついていっているので魔物も全部持って帰ってくるつもりなのだろう。


 しばらくして、エーファが戻ってきた。

 シロとステファナとレイニーが疲れては居るようだが怪我をしたりしていない事から、無理はしていないのだろうと安心する。


 オリヴィエとリーリアが食事の説明する。

 今日は、ミノタウロスの肉を使ったステーキがメインだ。大量の野菜や果物は採取したが、それよりも倒した魔物のほうが多くなってきている。そのために、またしばらくは肉食生活になるようだ。


 眷属達は喜んだのだが、ステファナだけが少しだけ落ち込んでいた。

 肉も食べられるのだがやはり森の恵みのほうが良いのだろう。オリヴィエとリーリアに言って、料理に使うには在庫が心もとないだろうけど、食後にデザートとして少量出してもらう事にした。ステファナが少しだけ笑顔になる。


「ご主人様。お風呂はどうされますか?」

「そうだな。シロも限界みたいだから、先に入ろうかな?準備は大丈夫か?」

「はい。ご主人様のスキル道具で簡単になりました」

「それはよかった。改良型も問題なさそう?」

「はい。問題ありません」


 リーリアと少しスキル道具の使い勝手の話をしていたかったが、俺の奥さんが限界のようだ。

 食事をとるテーブルで寝そうになっている。船をしっかり大きく漕いでいる。


 そのまま寝かしても良いのだが、以前にそうしたら、翌朝機嫌が悪くなった。

 せっかくお風呂に入られるのに、綺麗な状態で寝たかったという事だ。


「シロ。シロ」


 完全に夢の中に旅立ってしまっている。

 さてどうしようか?


「旦那様」

「ん?」


 ステファナとレイニーが俺に声をかけてきた。

 どうやらシロをお風呂に入れてくれるようだ。


 よかった・・・?ん?


「旦那様?」

「あの・・・。ステファナ?なんで、ステファナとレイニーも服を脱ぐ?俺が入ったあとで、シロを入れてくれる・・・わけじゃないのか?」

「旦那様。私達は、奥様に怒られたくありません!」

「え?どういう?」


 ステファナが説明してくれた所によると、何階層か上で同じようにシロが寝てしまって、スタファなとレイニーに頼んでシロの身体を拭いてもらった事が有ったのだが、翌日にステファナとレイニーはシロに軽く小言を言われたらしい。俺と一緒にお風呂に入るために起こしてほしかったと、起きてこなかったら俺と一緒にお風呂に入れてほしかったと言っていたそうだ。


 それで今日その機会がやってきた。

 シロは”完落ち”している。揺すったくらいでは起きない。多分、風呂に入れるまで起きないだろう。起きたとしても、湯船に浸かった瞬間に寝るだろう。そういう意味では、ステファナとレイニーが居るのは嬉しい。嬉しいが、2人とも全裸になる必要はないよな?

 俺の精神力を試しているのか?

 2人の美少女が、シロを脱がしている。背徳的な気持ちになるのはしょうがないことだろう。


 2人がシロの身体を洗っている時に、シロが目覚めた。

 目覚めたのはいいが、2人に自分を支えさせながら、俺に髪の毛を洗ってほしいと言ってきた。2人が、俺の大きくなっている部分を見ないようにしているのが痛かった。

 シロを洗い終えて、2人はそのまま出ていくのかと思ったが、洗い場にとどまっている。


「・・・」「・・・」


 シロ・・・。面倒な状況にしてくれたな。本人は、湯船に浸かって気持ちよくなったのか、俺の肩に頭を乗せて、普段なら少しは隠すのに、隠さないで寝始めた。俺が一人でもシロを抱えてベッドまで連れて行くのはできる。できるのだが、テントまで距離がある。その間シロを全裸にしておくわけには行かない。2人がいないと困ってしまうのはしょうがない事だ。

 その2人が洗い場でじっとしている。


 しょうがないよな

「ステファナ。レイニー。湯船に入れ。身体を冷やして体調を崩されたら困る」

「はっはい」「うん」


 2人が湯船の反対側に入る。4人で入るには少し狭い。


「シロを任せる。もう少し温まったら、拭いてお前たちのテントで寝かせてやってくれ」

「かしこまりました」「はい!」


 先に浴室から出た。

 用意してあったタオルで身体を拭いて、温泉浴衣を着てテントに向かう。身体は火照っていたが大丈夫だ。何が大丈夫なのかは考えないほうがいいだろうが、大丈夫だ。不覚にも、ステファナとレイニーに大きくなった物を見られてしまった。問題は無いが、明日シロになにか言われるかもしれない。

 それでなくても、最後を2人にまかせてしまった。


 10分くらいして、シロが2人に支えられながらテントにやってきた。

 起きたらしいが身体を拭いている時にまた寝てしまったという事だ。意識があるのかはわからないが、テントで俺の横で寝ると言ってきかないそうなので、連れてきたと言っている。


 テントの前でシロを受け取った。

 シロを抱えてお姫様だっこしてベッドにつれていく。寝る位置ももう決まっている。


 寝る時は俺の右で、歩く時は俺の左側を歩く。

 だから、今回も俺の右側にシロを寝かせる。俺は、まだ眠くならないので、シロに布団をかける。


 1時間くらいスキル道具を作っていただろうか、そろそろいい感じで眠くなってきた。

 寝息を立てている愛しい奥様の横に入り込む。


 発光のスキルが発動しているスキル道具の魔力を切る。

 テントの中は暗くなる。ダンジョンの中は、意外と明るい。そのために、テントには遮光性ある素材を使っている。なので、発光のスキル道具を切ると暗闇に支配される。


 横から聞こえてくるシロの寝息を子守唄にして俺も目を閉じた。

 明日は、階層主との一戦が待っている。体調を万全にして望まないとダメだろうな。


 6人で戦うとなると、誰を連れて行くのかは、明日の朝食のときにでも相談すればいいよな。

 俺とシロは確定として、リーリアとオリヴィエとアズリとエリンかな。それか、もう少し試すとしたら、俺とシロとオリヴィエとリーリアとステファナとレイニーかな?

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