第百五十二話
「カズトさん?」
シロが俺の顔を覗き込んで心配そうに声をかけてきた。
確かに少しだけイラッとしたけど、そんなに態度に出たか?
「シロ。悪い」
「いえ、いいのですが、何か有ったのですか?」
隠す意味はないな
「スーンから連絡が入った。魔の森でスタンピードが発生した」
「・・・」
「今から、ログハウスに行くけど、シロもついてきてくれ」
「もちろんです」
「ステファナとレイニーにも準備させてくれ、もしかしたら、魔の森に調査に行く事になるかもしれない」
「はい。エリンちゃんとリーリアとオリヴィエはどうします?」
「スーンから連絡が行っているだろうし、言っていなくても、俺が動けばついてくるだろう」
「そうですね」
服を着替えて、ログハウスに移動する。
階段に移動すると、リーリアとオリヴィエが控えていた。ステファナとレイニーはすでにログハウスに向かっているということだ。エリンは後から来ると言っている。
カイとウミとライも一緒に行くようだ。
なんだかんだで、6人+エリンとカイとウミとライで動く事が増えてきている。
ログハウスの執務室に入ると、スーンがすでに居て、フラビアとリカルダを呼んでいた。すぐに、クリスとルートガーもやってくるという事だ。
「スーン。状況を教えてくれ」
「はい。沼地に居る種族からの連絡でした」
「沼地というと、リザードマンたちか?」
「はい。大主様が統一された事で、ユーバシャールとの関係が変わって、リザードマンたちも沼地での生活に満足しています」
「それは今はいい、それで?」
「沼地と魔の森の間には、壁が作られているのですが、この壁が攻撃を受けたために、リザードマンたちが確認をおこなったところ、魔物が大量発生していたというわけです」
「それでは、スタンピードかどうかはわからないよな?」
「その後、近隣に居たエントやドリュアスを使って、壁周辺を調べましたら、数ヶ所で同じ様に魔物の攻撃を受けた場所が確認できました」
「修復は終わっているのか?」
「問題なく終了しています。魔物に関しても適切な処置を行いました」
ここで、クリスとルートガーが執務室に入ってきた。
「ツクモ様。ゼーウ街の併呑おめでとうございます」
「ルート。嫌味か?俺が貰ってきた物では不服なのか?」
「いえ、素直に祝福しております」
「ツクモ様。夫の戯言をお許しください。ツクモ様が、ゼーウ街に旅立った日から、夫は心配しすぎて、頭がおかしくなってしまったのだと思います。ツクモ様が、スラム街と港で手を売った事を聞いて、先程まで、ツクモ様の考えを推測していたのでございます。愚かな夫を笑ってください」
クリスがすごく落ち着いた雰囲気でそう告げた。
ミュルダ老以外の初めての家族で嬉しいのだろう。ルートガーの隣にピタッとついて離れない。離れないのはいいが、言っている事はかなり辛辣な内容だ。
「スーン。魔の森の危機は一時的に下がったと考えていいのか?」
「問題ありません。ただ、私の確認が遅れて申し訳ありませんが、リザードマンや近隣で生活しているエントやドリュアスだけではなく、魔の森の素材を求めにやってきた冒険者たちの言葉では、数日前から同じような事が度々発生しているという事です。徐々に規模が大きくなっていると思われます」
「そうか、それであの数の提示だったのだな」
「はい」
「わかった、スーン。少し、情報を収拾してくれ、特に犠牲者の情報を集めてくれ」
「かしこまりました」
一旦、スーンが執務室から出ていった。
「さて、ルートガー」
「なんでしょうか?妻が言った事は、誇張はありますが、嘘ではありません」
「夫婦仲がいいようで何よりだ。それで、ルートの結論は?」
ゼーウ街に関しては、全面的にヨーゼフに任せる事にした。
ただ、俺個人への貸しを返す必要が生じている。スラム街は、落ち着くまでは、ファビアンが面倒見る事になるが、早い段階で人を派遣したいとは思っている。
『あるじ!モデストが、あるじに話があると言っているよ』
『モデストが?』
『うん』
「悪い。クリス。ルート。モデストが来る」
「はい」「わかりました」
『いいぞ』
モデストが影から現れる。
「ご主人様。ご生還お喜び申し上げます。そして、一族の者がお手間をおかけして申し訳ありません」
「いやいい。それで?」
「はい。ヤニックとアポリーヌから、ゼーウ街で顔が売れてしまって隠密的な情報収集が難しくなったと連絡が有りまして、そのご相談です」
「そうか、ヤニックとアポリーヌが居たよな」
少しだけ思案する。
「モデスト。偽ツクモと偽シロがまだ向こうに居ると思うから、ヤニックたちに連絡して、スラム街に屋敷と冒険者ギルドを建てさせろ。偽ツクモと偽シロを屋敷の主人にして、2人は執事長とメイド長だ。兼任として、冒険者ギルドのマスターをやらせろ」
「かしこまりました。しかし、よろしいのですか?罰を与えなければと考えておりました」
「2人は、よくやったよ。そうだな。スラム街から
「はっ」
「必要なら、コルッカ教かアトフィア教の穏健派に教会を建てさせて、孤児院を運営させろ」
「承りました。冒険者は?」
「近くの森があるだろう。素材集めや間引きを主な依頼としておけ」
「はっ2人に早速取り掛からせます」
「頼む。偽ツクモと偽シロの世話係も用意しろよ。口が堅そうなら、スラムからの雇用でもいいけど、問題になりそうなら、
「はっ」
モデストとの話はすぐに終わった。
俺とモデストのやり取りを聞いていて、ルートガーが何やら納得した様子だ。
「ツクモ様。パレスケープで船の増産を始めます」
「必要ないだろう?今回の作戦で使った船や、ゼーウ街から奪取した船を作り直せばいいだろう?これから作る船は、大型な船にする必要があるだろう?」
「大型?」
「今の船だと荷物が多く運べないよな?」
「そうですが、船が大きいと、海の魔物や海賊に襲われますよ?」
「それならば、護衛船を付ければいいよな?」
「護衛?」
「いいか、中規模な商隊の荷物が搭載が可能なくらいの船を作って、その周りを、ゼーウ街との戦闘で使った船で守らせる。それなら、問題はある程度解決出来ると思わないか?」
「そうですね。あっそれで、港ですか?」
そうなのだ。
港を抑えたかったのは、交易で必要になるからという事もあるが、大陸側の拠点に使いたいからだ。
大量の物資を運び込む港を抑えておけば、ハブ港としても使えるようになる。
これらの事をルートガーに説明するが、なんとなく概要は把握できたが、有効性がいまいちわからないようだ。
ハブ港の有用性を説明する。
「ようするに、港を一時的な物資の集積場にするおつもりなのですね」
「簡単に言ってしまえばそうなる」
「そこから、各地に運ぶのですね」
「そうなる」
なんとなく理解してくれたようだが、それだけじゃ無いのがハブ港の魅力なのだけどな。
丁度、話の区切りができたときに、リーリアとオリヴィエが紅茶を用意してくれた。
皆で、雑談を始めよかと思ったときに、スーンが戻ってきた。
聞き取りが終了したようだ。
「大主様。大変申し訳ありません」
「急にどうした?謝られるような事はないと思うぞ?」
「いえ、
「そうなのか?」
「はい。各地に散っている者たちから聴取したので間違いございません」
「頻度は?」
「最初は、3日1回程度だったのですが、最近では1日1回程度は攻めてくるようです」
「そうか、でも、スタンピードではないよな?」
「いえ、
本格的な調査が必要だな。
それに、シロの眷属を探す必要もあるからな。
「スーン。その魔物たちは意思はあるのか?」
「ありません。生まれたての魔物で、地上での交配も確認されておりません」
「そうか、意思ある魔物の保護を頼みたいけど可能か?」
「可能です。しかし」
「どうした?」
「移住場所の確保が必要です」
「そうだな。いきなり、チアルダンジョンやペネムダンジョンに入れるのは問題か?」
「ペネムダンジョンは避けたほうがよろしいかと思います。チアルダンジョンでしたら、獣人族の長に説明すれば大丈夫かと思われます」
「わかった、手配をしてくれ」
「かしこまりました」
さて、どうしようかな?
魔の森に、ダンジョンが点在しているのは知っていた。前に、カイたちが探索に出かけている。
ダンジョンを全部攻略していく必要が有るかもしれない。
冒険者を総動員してもいいかもしれない。
「それで、スーン。犠牲者は?」
「
「冒険者は?」
「確認できただけで、21名の未帰還者が存在しています。登録していない者を含めると、もっと居ると思われます」
そうか、やはり犠牲者は居るのだな。
冒険者だからと切って捨てる事はできない。
「スーン。家族が居るものには手厚い保護をしておけよ」
「大主様の御言葉に従って、神殿区やペネムダンジョン内での仕事に従事するようになっております」
「そうか、偽善だとわかっていても、やらないよりは、やったほうがいいだろうからな」
沈痛は面持ちで皆が俺を見る。
別に、皆を責めているわけではないが、ここに居る面子でエリンとライ以外は何らかの問題があった者たちだ。カイとウミも、なんでこっちの大陸にいたのかわからない。何らかの秘密が有るのだろう。
「スーン。どの程度の冒険者なら安全にダンジョンを攻略できる?」
「・・・」
「スーン?」
「大主様。そうですね。冒険者とは、イサークたちの事を言っていますか?」
「お!そうだな。彼ら基準でいい」
「無理です」
「は?」
「無理です。彼ら程度では、ダンジョンの攻略は不可能です」
「えぇーと。もう一度聞くけど、イサークたちで無理なの?」
「はい。そうですね。クリス殿とルートガーが完全武装して、従者たち全員に大主様からスキルカードを大量に貰ってから行けば、半数程度の犠牲で攻略が出来ると思います」
うん。ダメだ。
放置が一番の愚策なのはわかっているが、放置したくなる。
「スーン。ダンジョンコアがあるダンジョンの特定はできているのか?」
「もうしわけありません。中央のダンジョンだろうという程度にしか絞り込めていません」
『主様。ある程度でよろしければ、ライが調べる事が出来ると思います』
カイからの提案は、ライの眷属を大量に投入して、ダンジョンを調べるという事だ。もちろん、低階層のみだが、対応の違いから、ある程度は絞り込めるという事だ。
『そうか、ライ。頼めるか?』
『わかった。カイ兄の言っていた事をやってみる!』
そのためにも、どこかに橋頭堡を作る必要があるよな。
「スーン。俺の仕事は今溜まっているか?」
「大丈夫です。ミュルダ殿やシュナイダー殿が処理されております。クリス殿やルートガーが手伝いをしてくださっているので、問題はありません」
やはり、自分で見に行きたい。
わがままだろうか?
「俺が自分で行きたいけどいいか?」
スーンは、護衛が付けば問題ないという意見だ。
カイとウミとライは、自分たちがついていくから問題ないと言っている。
フラビアとリカルダは、渋々だが納得してくれた。そして、自分たちも行くといい出したのだが、それは却下した。シロの事が心配だって事はわかるが、フラビアとリカルダは、ワイバーンの繁殖やバトルホースの繁殖の要になってしまっている。現場を離れるのは良くない。それに、アトフィア教のローレンツとのやり取りも発生している。穏健派は基本的にこちらに要望を出してこない。出してこないから相手にしないでいると、いつの間にか強硬派や教皇派閥に食われてしまう可能性があるので、ローレンツが伝手をたどっていろいろ情報を収拾しながら、物資を援助している。見返りは、アトフィア教の情報だ。大陸に拠点ができた事で、活動はこれからもっと大きく、頻繁になる事が考えられている。それに、スキル道具の販売の管理も彼女たちが手伝っている。
フラビアとリカルダはメインの作業や業務は無いが、サポート役としていろんな現場に出ている。従って、前線に出てもらうには下の者を育てる必要がある。本人たちもそれがわかっているので、調査への同行ができない事を渋々だが承諾した。
クリスとルートガーは、もう反対はしない。
「よし、シロ。カイ。ウミ。ライ。エリン。リーリア。オリヴィエ。ステファナ。レイニー。魔の森に行くぞ!」
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