第百三十三話


 前世・・・では無いのだが、死んで生まれ変わった事にした。その方が説明がしやすかったからだ。


 同じ宇宙なのかわからないが、広大な宇宙の中の、小さな地球という星の、小さな日本という国の、さらに小さな小さな街に住んでいた事を説明した。

 この世界よりも文明が進化していた事や、スキルカードが無い事や、ダンジョンがなく、種族は人族しか居なかった事。魔物もいなくて、代わりに動物が居た事。沢山の国があって、人族が50億人以上居た事を淡々と説明していく。


 シロは、黙って俺の告白を聞いてくれている。

 俺が作っている料理やスキル道具は、前世の記憶を頼りに再現している物だということも説明した。俺が考えた事ではなく便利に使っていた物をこちらのスキルで再現しているだけだと説明した。


「幻滅したか?」


 シロは怪訝な表情を浮かべて、少し考えてから

「カズト様。お聞きしたい事があります」

「なんだ?」

「もしかして、神に・・・女神様にお会いになりましたか?」

「・・・あぁ会った。さっき言った、地球の神と、スクルド神だな・・・あと、神託だけだけど、ウルズ神の声も聞いた事はある」


 シロが何か考えている。

 少し冷えてしまった珈琲を口に運ぶ。


「あっそうでした。少しお待ち下さい」


 シロが立ち上がって、キッチンに入っていく。

 5分くらい経ってから、湯気が出ている新しく淹れた珈琲を持ってきてくれた。


「気にしなくてよかったのに・・・でも、ありがとう」

「いえ・・・それで・・・カズト様は使徒様なのでしょうか?」

「ん?使徒って?」

「アトフィア教でも、コルッカ教でも、同じ扱いだと思うのですが、神から使命を帯びた者を”使徒”と呼びます。使徒様は、何らかの使命を行いながら、”人族を導く者”とアトフィア教では言われています。コルッカ教では”使徒は、神からの意思を伝え、全ての者を導く者”と言われていたと思います」


「違う違う。使命なんて言われていない。好きに生きろと言われただけだ」

「そうなのですか?」

「あぁだから、気にしないで好き勝手に生きて・・・シロに出会えた」


 なんか、納得しては居ないようだが、話を変えるようだ。

「カズト様」

「ん?」

「カズト様は、その・・・帰られるのですか?」

「ん?地球にって事か?」

「・・・はい」


 面と向かって言われると困ってしまうな。

 帰りたいかと言われたら、帰りたい・・・けど、それは”地球に行きたい”という感覚に近いかな。地球で暮らしたいかと言われたら今ではそんな気分は一切ない。


「ないな。俺の家はここだ」

「・・・でも、先程の話しでは、その・・・かなり・・・」

「そうだな。便利な世界だと思うよ。それに、俺の住んでいた街は危険な事はほとんどなかった。でも、ただそれだけだ」

「え?」


「なんて言えばわかるかな・・・なんでも自由にできるは、何も無いのと変わらない・・・って事だよ」


 空虚感とか説明が難しい。


「それに・・」

「それに?」

「向こうには、シロが居ないからな」

「え?」


 俺が言った事がわかったのだろう。

 まだ照れてくれる。


「あの・・その・・えぇ・・・と」

「それに、生まれ変わっているし、俺は俺だからな。カズト・ツクモだ。地球に戻れるとしても、こっちに帰ってこられないのなら、戻らないよ。シロと一緒に生きると決めたのだからな」


「・・・はい!」


 残念。シロはテーブルの正面に座っていて距離がある。

 話の流れてきてに、キス位はできるとは思うが、離れてしまっている。


 残念と思う気持ちが52%位だな。良かったと思う気持ちが48%くらいだ。秒で気持ちが変わっていっている。

 キスしたら多分・・・歯止めが効かなくなってしまうだろう。それでもいいと思う気持ちもあるが、ダメだと思う気持ちもある。今は、ダメだと思う気持ちの方が強い。それでなんとか踏みとどまれた。


「だからな、シロ。俺が突拍子もない事を言っても納得してくれよ」

「はい!」

「それに、これからもいろいろ作ったり、無茶な事をするかも知れないけど、よろしくな。奥様」

「・・・え・・・あっはい。カズト様!」


「シロ・・・二人だけの時は、様はやめてくれないか?」

「え・・・ダメでしょうか?」

「ダメじゃないけど・・・・”様”と呼ばれるよりは、”さん”やできれば呼び捨てがいいかな」

「わかりました・・・それでは・・・カズトさん」


 体中、真っ赤にして、湯気が見えそうな位に照れている。

 そんなシロを見ると、こっちまで照れてしまう。


 手をシロに伸ばそうとしたときに、カイから念話が入った。

『主様。お時間よろしいですか?』

『どうした?』


 シロにも念話が伝わるようにする。シロが近くに居る事が、カイにも伝わったようだ。


『シロも一緒なのですね。丁度良かったです』

『カイ兄様。何か有りましたか?』


『ライから、報告させます』

『あぁ』


『あるじ。眷属がいろいろ聞いたけどどうする?』


 動きが早いな

 今日の会議が終わってからまだそんなに時間が経過していないぞ?


 馬鹿なのか?

 それとも、バレていないとでも思っていたのか?


『そうか、シロ・・・よりは、フラビアとリカルダと話をして、その後クリスとルートガーが裏取りしたほうがいいか?』

『ライ兄様。僕が、フラビアとリカルダに話をしておきます。お願いできますか?』

『うん。いいよ。カイ兄とウミ姉は、ステファナとレイニーをもう少し鍛えるって!』

『わかった俺は、洞窟かログハウスに居る事にする』

『はぁーい』


 これで、念話が切れた。


「シロ。それじゃ、フラビアとリカルダに伝言を頼む」

「わかりました」

「あぁ念話じゃなくて、直接伝えてくれ」

「はい!カズト様はどうされるのですか?」


 戻ってしまったか・・・。まぁしょうがないかな


「俺は、洞窟の整備をするよ。暫く先になると思うけど、ステファナとレイニーを控えさせるのだろう?」

「そうですね。従者として側に居させるほうが良いと思っています。お手間だとは思いますがお願いします」

「あぁ大丈夫だ。こっちはやっておく、フラビアとリカルダへの伝言頼むな。行ってらっしゃい」

「はい!!行ってきます!!」


 シロがログハウスを通って宿区に向かう。

 俺とシロの約束で、入ってきた所から出ていく事にしている。忘れる事もあるので、メイドドリュアス執事エントに覚えてもらっている。ゼーウ街対策という事もあるが、ペネム街が大きくなるに連れて、諜報活動を行う者たちが入り込んでいると考えるべきなのだろうと思っている。一般に公表している情報では、ログハウスが俺の家となっている。それもあって、出入りには注意を払っている。


 さて、従者の部屋だが・・・どこに作るのがいいのだろうか?

 シロの部屋に続きで作るのがいいのか?


 実際には、眷属にお願いする事になるけど、指標くらいは出しておかないとな。

 指示を出したら、スキル道具を作ろう。部屋に居る時位は快適に過ごして欲しい。二人部屋と思ったけど、プライベート空間があった方がいいだろう。


 部屋は、俺とシロの部屋が繋がる通路に、新たに繋がる通路を作って、その先に作る事にした。

 共有部分を作って、寝所は別々になるようにする。メイドドリュアスに確認して、風呂も作る事にした。排水の問題も有るのだが、ダンジョン側に流す事で解決する。今までと同じ手法だ。


 眷属に部屋づくりの指示を出す。


 ついでに、自分用のスキル道具を作る事にする。


 まずは・・・風呂!


 給湯システムを作る事にした。

 メイドドリュアスの仕事して居たのだが、プライベート空間の意味合いが強くなってきているので、俺とシロと従者の二人だけでできるようにしておこうと考えたからだ。

 給湯システム自体は既に作っているので難しい事ではない。温度調整が難しいだけなのだ。

 追々考えていけばいいだろう。まずは、風呂に入られるようにするのが重要だ。


 自分の部屋とシロの部屋用の二つを作る。

 従者の寝所用のエアコンも作っておこう。あとは、コンロも必要だろう。意外と必要になるスキル道具が多いな。


 自分の部屋を見回して必要そうな物を作っていく。


 一通り、作り終わった時に、シロが戻ってきた。

 フラビアとリカルダが、ライと念話を使った打ち合わせに入ったという。

 宿区に居た、クリスとルートガーにも連絡をしてくれたという事だ。二人も、今わかっている情報をまとめて、フラビアとリカルダに打ち合わせをおこなってくれるようだ。

 裏取りの必要も有るだろうから、結果がわかるまで数週間は必要だろう。


---

 あれから、1週間が過ぎた。

 ゼーウ街に情報を流していた者たちが絞り込まれてきている。ただ、警戒しているのかしっぽを掴む事はできていない。


 しかし、その間にもヨーンを主体とした迎撃部隊(偽)が組織されて、ロングケープに向かう事になる。

 建前としては、ライマン老の護衛として赴いて、ゼーウ街からの襲撃に備える事になる。


 やることは多いのだが、俺とシロは基本待機状態になってしまっている。

 襲撃を考えて、ログハウスに籠もっている状態で過ごしていたが、これでは襲撃犯が襲ってこないと考えを改めて、積極的に街に出る事にした。


 今日は、一度迎賓館で新しく代官になる者の任命をおこなってから、ブルーフォレスト内を散策する事にした。

 散策と行っても何か目的が有るわけではなく、管理されている庭を歩く感覚に近い。そのために、警戒心が薄くなっていることが演出できる。


 2時間位、シロと二人っきりを演出したのだが、襲撃犯が現れる事はなかった。

 暫く定期的な行動にしたほうがいいのかも知れない。襲撃犯が計画を立てられるようにしないと襲っても来てくれない。


 自然体で警戒を周りに見せないように、ブルーフォレストを散策していると、正面からイサークたちが歩いてきた。

「ツクモ様!」

「どうした珍しいな。森の中での採取か?」

「いえ、新しくパーティーに加わったメンバーの肩慣らしです」


 ナーシャの後ろに居たので気が付かなかったが、猫族のミーシャが一緒に居た。


「あぁぁツクモ様!カイ様とウミ様は?」

「ミーシャが久しぶりだな。カイとウミは、ダンジョンに入っているぞ?」

「えぇぇそうなの?」


 ミーシャが、イサークを見る。


「ダメだ。今日はこのまま帰る。ミーシャもだけど、俺たちも疲れている」

「そう言えば、イサーク、自由区にパーティーのホームを買ったのだろう?」

「えぇナーシャが宿区に欲しいと言っていたのですがね。俺たちの稼ぎでは自由区に持つのが精一杯でしたよ」

「そんなに高くなっているのか?」

「えぇ宿区は代官や商隊が買っていますよ。保養地にしているなんて話も聞きますよ」


「保養所?少し無理がないか?」

「そうですか?俺たちも、ナーシャ繋がりで、クリス嬢の家に行ったりしていましたが、保養所と言われても納得してしまいますよ。今は、クリス嬢とルートガー殿の話があって、行っていませんがね」


 ナーシャを睨むが”どこ吹く風”だ。


「そうか、ミーシャもパーティーに入ったのなら、これからダンジョンの攻略が進むな」

「え?あっそうだ。ツクモ様。ペネムダンジョンの話聞きましたか?」

「ペネムダンジョンの話?」


 オオム返しになってしまった。

 ペネムダンジョンは、クリスとルートガーに任せっきりで最近絡んでいない。


「えぇなんでも最近できたパーティーが破竹の勢いらしいですよ」

「へぇそりゃぁ頼もしい。どこの奴らだ?」

「本当にご存じないのですか?」

「あぁ・・・初めて聞いた。でも、攻略は進んでいないのだろう?」

「まぁそうですね。まだ上級ダンジョンの20階層辺りが最高じゃないのですかね?」


 ダンジョンには、10階層以下の初級ダンジョン、20階層以下の中級ダンジョン、そして30階層以上になっている上級ダンジョンとなっている。中級ダンジョンまでならイサークたちでも踏破できる事は確認している。

 上級になると10階層辺りで出てくる魔物が、中級ダンジョンのボスに匹敵するのだ攻略が滞っていくのは理解できる。


「へぇその新参パーティーか?」

「いえ、流石に俺たちを含めた攻略組ですが、新参パーティーは既に中級ダンジョンをいくつか攻略していますよ」

「へぇそうなのか?」


 イサークがチラっとシロを見る。

 ここで、シロを意識するのは、フラビアとリカルダだけど、二人はダンジョンアタックはしていない。諜報員を割り出したり、神殿区で戦闘の訓練をしている。


 そうなると・・・

「ステファナとレイニーなのか?」

「えぇそうですね。それに、パーティーメンバーには元奴隷と言っていましたが、ユーバシャール区から来た者が数名居るようですよ」

「へぇメリエーラ老の所の奴らかな?」

「あっそんな事を言っていました」

「そうか、もう中級をクリアしたのだな」

「そうですね。力押しのような感じはしませんでしたよ」


 二人にはまだスキルを固定していない。

 カイから出された宿題・・・命令?・・・は、ペネムダンジョンで、中級ダンジョンのクリアだ。


 単独ではなく、パーティーを組んでもいいが、パーティー人数と同じだけの中級ダンジョンを攻略してこいと言われていた。


 今のイサークの話を信じれば、二人はカイの宿題をクリアした事になる。

 明日にでも、状況を聞いて、シロの従者として最終的な仕上げを行う事にするか?

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