第百二十七話


『ライ。ここに寝っ転がっている奴らを縛っておいてくれ』

『はぁーい』


「シロ。こいつらを死なない程度に治療してくれ、死なれても困るからな」

「・・・わかりました」

「何か言いたいのか?」

「いえ、コイツらは、カズト様の命を狙いました。それ相応の報いを受けて当然かと思います」

「シロ・・・ありがとう。でも、俺のために、コイツらを治療してくれ」

「・・・はい。かしこまりました」


 縛られている男が喚いているので、まず黙らせる事にする。

 冒険者を名乗っていた奴らは静かなものだ。それもあって、男の声が頭の中に響いて来る。


『カズ兄。コイツ煩いから殺していい?』

『ウミ。少し待て、殺すのは何時でもできるからな』

『わかった』

『カイもライもエリンも・・・俺は気にしない』


 さて、冒険者から話を聞こうか?

「おい」


「・・・」


「そうか、話せないか、じゃぁ必要ないな。殺すか?そう言えば、ゴブリンの餌が必要だったな?」

「待て!」


 シロが剣を俺が話している男の首に突きつける。

「”待て”だと?」


「シロ。控えろ」

「っは」


 剣をひいてくれる。

「話す気になったか?」


 シロが男をにらみつける。

 何時でも殺せる位置に立って剣に手をかけている。


 男の目が俺とシロを行ったり来たりしている。心が折れたな。


「・・・はい。なんでも話します。ですから・・・命だけは・・・俺の命だけは・・・お願いします」

「まぁいい。それで、さっきは面白い事を言っていたな。シロを寄越せとか・・・なんとか、俺のシロに手を出すつもりだったのか?」

「・・いえ、ちっちがいます・・・俺たちは、俺は・・・そうだ、あいつに命令されただけです。そうです、あいつが全部悪いのです」


 簡単に落ちるな。


「なんて命令された?」

「・・・」


「反対の手も使えなくしようか?」

「!!貴方がスキルカードを大量に持っていると教えられて、それで・・・」


「それで?」

「攫って・・・隷属したら・・・」


「なんだ・・・腕もいらないのか?それとも、目玉がいらないのか?しゃべる気がないのなら、喉もいらないよな?」

「!喋ります。なんでも言います」


「だったら、早く言えよ。まだ5人も残っているし、他の奴も拷問を受けたいだろう?待たせるのも悪いよな」

「!?貴方を攫って、つれていけば、レベル7のスキルカードをくれると・・・」

「それは全員にか?」


 全員が一斉にうなずく。レベル7が3枚。そんなに持っているようには思えないのだけどな。踏み倒す気まんまんだったのだろうな。


「俺の事はなんて言われていた?」

「??」


「俺は何者だと教えられた?」

「あっ!はい。カーマン商隊の関係者だと教えられました」


 大きくは外れていないな。

 ここで、リヒャルトが出てくる事を考えると、ゼーウ街の関係者である可能性が高いな。


「なぁ許してくれよ」

「そうだな。一生ゴブリンかオークと子供を作り続けるか、一生ヒルマウンテンで鉱石を掘り続けるか、男性器を切り落して奴隷として生きるか。好きな事を選べ」


 男たちが何やら言っているが興味がなくなってしまった。

 ライに言って口枷をして拘束しておこう。後で、自分たちの運命を決めてもらえばいい。


 最後に連れてこられた男の話を聞くことにしよう。それにしても、全員カイたちから漏れ出ている殺気がすごい。

 縛られている男は、どうやら俺の事を知っているようだ。さっきから、何か喚いている。いい気になるなとか・・・。


 縛られている男の肩を軽く小突いて上を向かせる。

 スキル岩で、首枷、足枷で、身動きが獲れない状態にしてから、ライに拘束している紐を解かせる。


 自由になった手で暴れるので、残念だけど、手枷を作って首枷と足枷と同じ様に地面に固定する。ついでに、身体の中心や股や脇も同じ様に固定する。


「名前は?」


「あぁぁ!!早くこれを外せ!」


 短剣を一本取り出して、手の甲に落とす。


 喚き声が煩いから、結界を張って声がもれないようにする。


 オリヴィエに連絡して、この近くに人が来ないようにしてもらう。代官に筋を通しに行ってもらう。


「名前は?」

「何をする。痛え・・・早く治せ、俺様のぉぉぉそこの女、早く治せ!!」


 刺さった状態の剣を踏みつける。


 ぎゃぁぁぁと悲鳴が聞こえるが気のせいだろう。


「名前は?」


 あぁダメだ。

 気絶しやがった。


「シロ。スキル水かスキル氷を持っているか?」

「申し訳ありません」

「そうか・・・」


 縛られている男達を鑑定する

 1人がスキル水を持っているようだ。


 スキル水を奪って、気絶した男に水をかける。


 むせながら、男は意識を取り戻す。


「名前は?」

「だっ誰がお前のような奴に・・・」


「そうか、口がいらないようだな。それとも、名前を忘れたのだろうか?シロ、短剣をスネに刺せ!」

「はっ」


「やッやめろ」

「シロ!」


 シロが動きを止める。


「それで、お前の名前は?」


「ボドワン」


「家名は?」


「・・・ない」


「まぁいい。それで、なんで俺たちを攫ってくるように依頼した?」

「そんな事を」「そうか、わかった。シロ。そこの6人に剣を渡してやれ、コイツを殺せた者だけ助けてやる」


「まっ待て」

「はぁ?自分の立場が解っていないな」

「待ってください。俺も依頼されただけです」

「誰に?」

「・・・」


 手をシロに向けると、シロが短剣の柄を俺の手にのせる。


「誰に?」

「奴隷商です」


「どこの奴隷商だ?ユーバシャールやパレスキャッスルやパレスケープの奴隷商は、全て俺の管理下にある。名前を言えばすぐに調べる事ができる」

「・・・」


「どこの奴隷商だ?」

「ゼーウ街から来ていると言っていた。デ・ゼーウが後ろに居ると言われた」


「名前は?」

「しっ知らない。本当だ。お前と、子供を連れてきたら、レベル7を6枚で買ってくれると言っていた」


「俺たちを捕らえて、どこに連れて行くつもりだった?」

「パレスケープと言っていた」


「それはいつの話だ?」

「2日前に言われた」


「そうか・・・お前、騙されているぞ?」

「え?」

「だからって許すつもりも無いけどな。可愛そうな道具だな」


「・・・」


「これから、お前たちがどうなるのかの前に教えておいてやる。その奴隷商は、お前たちを殺すつもりだったはずだぞ?」

「そんなはずは・・・ない」


「パレスケープは、ゼーウ街の奴隷商だけではなく、商隊全てを排除したからな。パレスケープからゼーウ街に行く方法は無い」

「え?そんなはずは・・だって、捕らえてくれば、ゼーウ街で・・・そんな・・・」


 何らかの地位や金品でも餌にされていたのだろうが、同情はしなくて良さそうだな。そもそも、人を攫ってきて何かを得ようというのが間違っているのだからな。


「それで、パレスケープに行けばいいのか?」


 何かが壊れたかのように、ブツブツ言っている。

 使いっ走りが壊された感じだな。


「おい。ボドワン!」

「・・・」

「どこに行けば、お前を騙したやつに会える」

「教えたら、俺を許してくれるのか?」

「はぁ?なぜ、俺がお前を許すなんて発想になる?お前は、楽に死ねるか、苦しんで死ぬか、自分から殺してくれというまで責められるかのどれかだ!」


「・・・」

「いいぜ、言わなければ、第二、第三のボドワンが生まれるだけだろうからな。俺としてはそれでも構わないからな」


「わかった・・・お前たちを捕らえたら、”木漏れ日の雫”という宿につれていけばスキルカードと交換すると言われた」

「それはどこに有る?」

「ユーバシャール街の門の近くだ」


 さて、どうするか?


『マスター』

『丁度良かった、オリヴィエ。門の近くにある、”木漏れ日の雫”という宿があるらしい。そこに、眷属で情報を集めてくれ』

『はっ!ご依頼の代官には話を通しました』

『そうか、問題はなさそうか?』

『主犯格は別にして、冒険者は、ユーバシャールで受け取りたいという事です』

『ん?ユーバシャール区の代官が絡んでいるのか?』

『いえ、代官として・・・使い潰せる人が欲しいようです。隷属して、死ぬまでユーバシャール区で労役させたいようです。その分の対価は支払うと言っています』

『わかった。代官にこの場所を伝えてくれ、俺たちも”木漏れ日の雫”に向かう』

『かしこまりました。7名全員渡してよろしいのですか?』

『あぁ問題ない。道具に興味はない』


 問題が一気に解決した。


「喜べ、お前らの引き取りてが決定したぞ。ユーバシャール区の代官が隷属して、死ぬまで労役させる事になった。良かったな。ゴブリンの相手よりは少しだけましだろうな」


 7名が何やら喚いているが、口枷が邪魔して言葉になっていない。


「何を言っているのか理解できない。残念ながら俺は人が話している言葉しかわからないからな。獣のセリフを理解してやろうとは思わないからな」


 全員が動けないように拘束されている事を確認した。


「カイ。ウミ。ライ。エリン。それにシロ。後ろで偉そうにしている奴が居るらしいから、顔見に行くぞ」

『はい』『うん』『わかった』「はぁーい」「かしこまりました」


 移動を開始する。路地を戻って門に向かう。


 代官の動きが早いな。

 もう警備隊を動かしたのか?


 大通りに出た所で、警備隊とすれ違った。怪訝な表情を俺たちに向けるが、そのまま路地に入っていく。ユーバシャール区の代官は十分優秀なのだろうな。あとは、警備隊が腐っていない事を祈る事にしよう。


 木漏れ日の雫は、すぐに見つかった。

 こんな大通りに面している場所に捕縛した俺たちを連れてこさせようとしたのか?

 頭大丈夫か?考えが浅いのか、バカなのか?知恵なしなのか?それとも、よほどの大物なのか?


「マスター!」


 オリヴィエが執事服を着て、俺を待っていたようだ。


「どうだ?」

「はい。ライ兄の眷属に宿の中を探索してもらって、怪しい奴らを特定しました」

「そうか・・・それで?」

「はい。相手は、男女3名です」

「ほぉ?」

「”ツクモとかいう餓鬼を捕らえて”や”これで俺たちも幹部だ”とか言っていますので、間違いないと思います。殺しますか?それとも、抹殺しますか?簡単に殺さないでじっくり痛めつけてから殺しますか?」


 オリヴィエが静かに怒っているのがわかる。

 でも、殺すのは最後の手段にしたい。


「捕縛できるか?」

「たやすい事です」

「部屋の位置は解っているのか?」

「はい。2階の奥の部屋になります」


 宿屋がグルなら何らかの反応があるだろうから、先に捕縛しておくか・・・。


「わかった。オリヴィエ。捕縛しろ。その後、宿屋の主人に話を通してくれ」

「かしこまりました」


 すぐに動き出す。


「カズト様。私達はどうしましょうか?」

「カイとウミとライは周りを警戒してくれ、もしかしたら、まだ誰か潜んでいるのかも知れない」

『はい』『えぇぇーーでも、わかった』『うん!』

「シロとエリンは、一緒に来てくれ」

「はっ」「うん。パパを守るね!」


『あるじ。終わったみたいだよ』

「ありがとう。ライ」


 男女3人の拘束が終了したのだろう。ライに眷属から連絡が入ったようだ。


 宿屋に向けて歩き出す。

 今日で終わってくれたら、明日はゆっくりできるかな?


 オリヴィエが戻ってきて、宿側は何も知らないようだという事だ。


 宿の主人に、レベル5のスキルカードを3枚渡した。

 口止め料のつもりだが・・・大丈夫なようだ。


「行くぞ!」


 ピクニックに行く程度の緊張感しか持っていないが、2階の奥の部屋に入る。


 椅子に縛られた状態の二人の男と1人の女が目に飛び込んでくる。

 そうか・・・俺の事を知っているから、どこかで会っているのかと思ったが・・・。


「シュイス・ヒュンメルの息子か?」

「・・・」


 そうなると、もう二人も、ミュルダの関係者か?


「ツクモ!!!!!!お前のせいで、オヤジは・・・」

「そりゃぁ災難だったな。それで?俺の事をつけてきたのか?ご苦労な事だな。その熱意を違う事に使えば、平穏に暮らせただろうに」


「そんな事ができるか?オヤジを・・・それに、パウマンの父親まで・・・。俺たちの・・・殺してやる!」

「喚いていろよ。お前たちは結局何もできなかったのだからな!最初から、自分たちだけでやればよかったのだ!デ・ゼーウに何を吹き込まれたのか知らないけど、結局お前たちも道具でしかない。使い捨ての都合がいい道具だな!」


「そんな事はない。俺は!」

「俺を殺すだけならチャンスが会ったかも知れないのにな、”幹部に取り立ててやる”とか囁かれたか?愚かだな。デ・ゼーウがお前のような馬鹿な道具を使うとは思えないけどな」

「そ、そんな事はない。俺は優秀だから、デ・ゼーウの幹部が俺たちを・・・一緒になって、お前を捕らえて、ミュルダを俺たちに取り戻せば・・・」

「それが夢物語だという事がわからない夢想家なのだろう?愚かにも程があるな」

「・・・俺は違う。俺は優秀だ。だから、オヤジも俺を・・・」


「お仲間は・・・そうか、女。お前は、プロイス・パウマンの関係者か?」


 女に睨まれてしまった。

 まぁ美人では有るけど・・・シロほどでは無いし、エリンの可愛さもない。


「そうさ。あんたが殺した、プロイス・パウマンの娘だよ」

「娘?奴に娘は居なかったはずだが?」

「・・・娘だよ」

「庶子・・・っておかしな表現だな。養子というわけではなさそうだな」

「・・・私は」

「あぁいい別にお前が何者でも関係ない。使い捨ての道具には興味がないからな。危険ではなくなれば、後は処分するだけだからな」

「待て!私を・・・そんな・・・道具じゃ・・・」

「道具だよ。誰に、何を囁かれたのか知らないけど、都合がいい道具だよ。まぁ都合がいい道具だけど、使い勝手は悪かっただろうな。結局、俺たちを捕らえる事も、殺す事もできないで、自分たちが捕らえられているのだからな!」


 もうひとりが気になる。

 さっきから、俺に向ける憎悪が全く感じない。二人に乗せられたという感じではない。


 ただの伝令か?使者か?

 まぁ考えてもわからないか・・・。


「カズト・ツクモ殿」


 もう1人が口を開いた。


「なんだ?」

「私を解放してください」

「なぜだ?」


 男を観察する。

 鑑定をしてみたが、名前に見覚えはない。

 年齢は二人よりも上の31歳と出ている。人族で間違いはなさそうだ。


「解放していただけるのなら、デ・ゼーウに”カズト・ツクモ”は敵対の意思はないと伝えましょう」

「はぁ?お前バカなの?」

「・・・私にこの様な事をした事は不問に致します」


「すごいな・・・」


 思わず感心してしまった。

 確かに、俺のために、ペネム街を危険に晒すのは愚の骨頂だと思うが、コイツの身分が何もわからない状態で、解放するなどできるわけがない。


「ミュルダの亡霊を動かして、俺たちに害をなそうとした人間が何を言っているのやら・・・何から何まで信用できない」

「そうですか・・・私を解放しないと、ゼーウ街が攻めてきますよ。いいのですか?」

「・・・構わない。それなら、それで撃退するだけだ」


 今度は、ゼーウ街から来たであろう男が絶句する。

 俺がここで引くと思ったのだろう。


 3人は、行政区・・・実験区に移送決定だな。


「エリン。誰か近くまで呼び出せるか?」

「パパ。大丈夫だよ。エリンが運んでもいいよ?」

「いや、エリンはシロと一緒に俺の近くに居てくれ」

「わかった!」


「オリヴィエ。悪いけど、この3人を行政区に移送して、実験区で情報を引き出すように伝えてくれ」

「かしこまりました」


 オリヴィエに指示を出して、代官にこの3人は行政区に運ぶ事を伝える。

 ユーバシャール区の外まで移動してから、竜族に乗せてオリヴィエと一緒に移動させる。実験区で、事情を引き出すようにする。スキル記憶を使っても良いだろう。

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