第百二十六話


 部屋の準備が整ったとリーリアから連絡が来たのは、5分くらい経ってからだ。


 俺が借りた部屋ではなく、新しくシロが泊まる部屋にテーブルと椅子とお茶が用意された。

 カイとウミとライの場所まで用意しているようだ。


 俺の横にシロが座って、リーリアとオリヴィエが後ろに控えるようになる。エリンは、カイたちと一緒に座っている。


 正面に少し緊張した面持ちでシロの従者となる二人が立って俺を見ている。


「旦那様。私達に名前を付けてください」


 エルフっ娘が頭を下げる。


 俺は、リーリアを見るがしれっとした顔をしている。

 なに、旦那様呼びをさせている?


「名前か・・・シロもいいのか?俺が名前を考えて?」

「はい。カズト様にお願いしたいと思っています」


 エルフ耳の娘を、”ステファナ”。猫耳の娘を、”レイニー”と名付けた。


「ステファナ。素敵な名前をありがとうございます。旦那様」

「ありがとうございます。旦那様から付けていただいたレイニーの名前を大事にがんばります。シロ様。よろしくお願い致します」


 まぁいいか。


「二人共、話を聞かせてくれ」

「「はい」」


「そうだ。シロ。これを渡しておく」


 魔核を取り出して、シロに渡しておく

「カズト様。これは?」

「スキル道具。隷属のスキルが付与されている。回数は二回」

「ありがとうございます」


 シロは受け取ると、二人の側に行く、それから、二人に何か話しかける。

 俺からは見えないが、二人が驚いている雰囲気が伝わる。


 シロは躊躇なくスキル道具を発動して、二人の隷属を解除していく。


「シロ様」「シロ様」


 シロは二人を抱きしめて泣き出してしまった。

 落ち着くまで待つことにした。


 シロが二人を離したのは20分位経ってからだ。


「シロ」

「カズト様。申し訳ありませんでした」

「いい。でも、隷属を解除してよかったのか?」

「はい。問題ありません。もし、二人がカズト様に害することがあった場合には、私が二人を殺します」

「わかった、二人もそれで問題ないのだな」


 二人がうなずくのを確認した。


「カズト様。二人を、私の義妹にしたいと思うのですがダメですか?」

「二人が問題ないのならいいぞ?」


 二人とも是非と言っているので、家名にあたる”ヴェサージュ”を二人にも付ける事になった。

 前の名前はどうすると聞くと、二人とも、自分たちを捨てた者が付けた名前はいらないという事だ。


// 名前:ステファナ・ヴェサージュ

// 種族:ハーフダークエルフ

// 性別:女

// 年齢:15歳

// 固有スキル:草木

// 固有スキル:命中向上

// 固有スキル:速度向上

// スキル枠:---

// スキル枠:---

// スキル枠:---

// スキル枠:---

// スキル枠:---

// スキル枠:---

// スキル枠:---

// 体力:F

// 魔力:D+


// 名前:レイニー・ヴェサージュ

// 種族:猫エルフ族

// 性別:女

// 年齢:15歳

// 固有スキル:体力向上

// 固有スキル:攻撃力向上

// 固有スキル:速度向上

// スキル枠:---

// スキル枠:---

// スキル枠:---

// 体力:D

// 魔力:H


 平均的だな。

 15歳で成人してすぐに売られたという所か?


「リーリア。この奴隷商には、同じ様に売られていたのか?」

「・・・はい。他にも数名15歳がいました」

「わかった、スキルカードと魔核を渡す。買い占めてこい」

「はっ16歳以上は?」

「余裕が有るようならリーリアの判断に任せる。・・・そうだな。オリヴィエも連れていけ、俺の名前を出してもいい。買えるだけ買ってこい」

「「はっ」」


 ステファナとレイニーは、俺の言葉を聞いて少しだけ安堵の表情を浮かべる。

 同郷の者や仲良くなった者も居るのだろう。シロの従者になる二人以外は、適性を見てからになるが、スーンとフラビアとリカルダたちに任せる事になるだろう。神殿区に入れなくてもいいのかと思ったが、奴隷商がしっかりとしていたのか、教育もされている上に心のケアもされている。売られた事も納得している”雰囲気”はある。ステファナやレイニーの様に、親や集落を恨んでいるのだろうが、その程度なら許容範囲なのだろう。自分たちが幸せになることで見返して欲しい。


「シロ。二人はどうする?洞窟はまだ早いだろう?ログハウス・・・よりは、宿区か、ダンジョン区だろう?」

「ご主人様」


 シロが少し考えているときに、リーリアが何か意見があるようだ。


「ん?リーリアどうした?」

「はい。ステファナとレイニーですが、私が一時お預かりしてよろしいですか?」

「いいけど?どうしてだ?」

「はい。メイドの仕事と護身術を仕込みたいと思います」

「シロ。どうする?」

「・・・リーリア殿におまかせしようと思います。カズト様。その間に・・・」

「わかった。洞窟の拡張をしたいという事だな」

「はい。お許し頂けますか?」

「ゼーロとヌラと相談して拡張してくれ、ライ手伝ってやってくれ」

「はい。ありがとうございます」『わかった!』


 今日は、話はこれで終わりとした。

 二人は、シロに従って部屋に残るようになる。今日は、自由行動にする事になった。


 俺は、エリンとカイとウミとライで、冒険者ギルドに行く事にした。

 隣の部屋でくつろいでいた、ギュアンとフリーゼに行き先だけを告げておく。


 冒険者ギルドは、どこでも同じ様な作りになっているようだ。

 俺が今日来たのは別に冒険者として依頼を受けたいからではない。魔の森に関しての情報を知りたいと思ったからだ。


 受付で身分と名前を告げると、すぐに個室に案内された。情報共有はしっかりできているようだ。

「担当させていただきます。ラウファといいます。ツクモ様。本日は、どうされましたか?ギルドマスターをお呼びしますか?」

「いえ、必要ありません。今日は、森の事をお聞きしたくて来ました。何か情報があれば見せていただきたいのですができますか?」

「冒険者の方が閲覧できる物がございます。その資料でしたら問題ありません」

「わかりました。それ以外にも資料があるのですか?」

「はい。ギルドマスターが管理している資料がございます」

「そうですか、まずは一般的な資料をお願いします」

「かしこまりました」


 ラウファが部屋から出ていってから、大量の資料を持って戻ってきた。

 資料が有る場所で見ていても良かったのだが、冒険者がからんだりしたら、ギルドが崩壊しかねないという事で、部屋で読み込んでほしいと言われた。そのかわり、ギルドから職員が1人付いて、小間使いの様に使って欲しいと言われた。

 別に、小間使いは必要ないけど、俺がギルド内をうろちょろするほうが嫌なのだろう。気持ちよく使うために、妥協する事にした。


 資料はいくつかに分かれている。


・”魔の森”の地形とダンジョンに関して

 広さは、ブルーフォレストとサイレントヒルとヒルマウンテンを足したよりも広い。これは、カイの報告で解っていた事だが、驚いたのは、森の中に認識しているだけで、200近いダンジョンが存在している事だ。しかし、200のダンジョンで5階層以下で終わってしまっている物も多い。200のなかで生きていると思われる・・・”魔物を生み出している”ダンジョンは、30程度だと考えられている。ただ、調査されているのが、森の表層部のみで中心部や海側にはもっと沢山のダンジョンがあると考えられている。


・魔物に関して

 ブルーフォレストよりも格下の魔物がほとんどのようだ。

 強くても、ブルーボア程度だと思われる。また、200のダンジョンから出てきた魔物も居るようだ。調査は進んでいないというのが正しい認識のようだ。ただ、魔物に関しても、表層部だけの調査なので、中心部や海側にはもっと違った魔物がいると考えられている。


・調査範囲に関して

 現状森を覆うように石壁が作られているので、魔物が出てくる事がないが、地理的なこともあり、調査はほとんど進んでいないという事だ。200あるダンジョンも森の境界線と思われる場所から、数キロ圏内の表層部にとどまっている。

 調査が進んでいないのは、奥に入るための準備が難しい事もあるが、安全地帯を作ってもすぐに魔物が襲いかかってくるので、調査が進まなくなってしまうという問題がある。


・植生に関して

 ブルーフォレストとほぼ同じようだ。


 ほぼ、カイたちから聞いた話が追認された形になっている。

 ただ、ダンジョンの数が予想よりも多い感じだ。


『カイ。報告には、ダンジョンの数が200以上ありそうな感じだけど、そんなにあったか?』

『元ダンジョンを入れるともっと沢山あると思いますが、死んでいるのか、放棄しているのかわからない感じです』

『そうか・・・ペネムや、チアルの様な感じのダンジョンはあったか?』

『海沿いに一つありました』

『資料を読んでいると、俺がペネムダンジョンの6階層でやらせたのと同じ様な事をしているように思うのだけどな』

『わかりません・・・が、ダンジョンとしては、一つのような感じがしました』


 そうだよな。

 魔物の種類が一定のようだし、ダンジョンの中も外もそれほど違いがない。


 でも、コアが有るのは間違いなさそうだなのだよな


 チアルの子供なのか・・・それとも、はぐれなのかはわからないけど、攻略しないとダメだろうな。


 せっかく広大な土地で資源なんかもあるのだから、管理できる状態に持っていきたいからな。


 エリンはすっかり寝てしまっている。

 最初は、魔物の絵図を見て喜んでいたのだが、それにも飽きてしまったようだ。


「ラウファさんを呼んでください」

「かしこまりました」


 5分位して、ラウファさんが個室に入ってきた。


「ツクモ様。どうされましたか?」

「いえ、資料が読み終えたので、今日は帰ろうと思いまして、精算をお願いしたいのです」

「精算・・・ですか?」

「はい」

「・・・・???」


 え?無料?

 部屋を使って、結局3時間程度読み込んでいたし、エリンがカイやウミや自分の飲み物を頼んでいるし、俺も何回か飲み物をお願いしている。


「えぇ・・・と、部屋の利用料や飲み物代を払おうと思ったのですが?」

「あっ・・・そうですか・・・考えていませんでした」

「・・・そうですか、冒険者ギルドで、役職以外の人は何人いますか?」

「21名です。それに、ギルドマスターとサブマスターが3名で、全員で25名です」

「わかりました。それなら・・・」


 レベル4のスキルカードを21枚(2万1千円)とレベル5のスキルカード4枚(4万円)を出して

「これで、皆さんで何か食べてください」


「・・・え?よろしいのですか?」

「はい。部屋を占領してしまいましたし、資料も独占していましたから、皆さんにご迷惑をおかけしたと思いますのでそのくらいはさせてください」


 俺の顔を見てから、断るのも悪いと思ったのだろう

「・・・ありがとうございます」


 そう言ってちょこんと頭を下げた


「片付けますね」

「いえ、大丈夫です。私達・・・ギルドマスターにやらせます!!」

「え?あっわかりました。本日はありがとうございます」


 エリンを起こして、個室を出ていく。

 冒険者ギルドを出た所で、後ろから歓声が聞こえる。喜んでくれたようで良かった。解っていたら、甘味を用意したのだけどな。まぁ・・・声の感じから即物的だけど、スキルカードで良かったのだろう。


 さて、情報収集もできたし、後ろから付けてきているバカどもをどうにかしてから、宿に帰って休む事にするか・・・な。

 やっと定番のイベントが来た!


 実際にイベントが発生する前にシロが合流してきた。


「カズト様!!」

「どうした?」

「リーリア殿に二人を預けて、ギュアンとフリーゼから、カズト様が冒険者ギルドに向かったと聞いて護衛役がいないと思いまして・・・」

「そうか、ありがとう。でも、もう帰るだけだぞ?」


『シロ。わかるな?』

『はい。隠れているようですが、全部で6名ですか?』

『主様。シロ。後方に1人いますから、7名ですね』

『だとよ。どうする?』

『返り討ち』『殲滅』『捕縛』『無視』『殺しちゃおう』


 誰がだれとは言わないけど、好戦的なのが3名いるな。


『わかった。それじゃ次の角を曲がって待ってみるか?ライ。眷属呼び出して後ろの奴をマークしておいてくれ』

『わかった!』


 今居るのは俺とエリンとシロとカイとウミとライだ。正直、7人位なら簡単に殲滅できる。


 角を曲がると、宿屋への近道だが、大通りから外れる事になる。

 襲ってくるのなら、次の角を曲がった先だろうと考えた。


『来ませんね』

『パパ。前に3人回り込んだよ?どうする?殺す?捕まえる?それとも、殺す?』


 エリン。なぜ二回殺すを言った?


『俺が合図を送ったら動いてくれ、シロとエリンは前の3人を、後ろの3人はカイとウミで頼む。ライは俺の側に居て、眷属で後ろに居る1人を頼む』

『はい!』『はーい』『かしこまりました』『うん!』『わかった』


 角を曲がった所で、3人が待ち伏せするようだ。

 うーん。面白くない展開だな。


 角を曲がったら、男が3人道を塞ぐようにニヤニヤして立っている。

 鑑定をしたが、1人以外は面白くなさそうだ。1人は、鑑定を持っている。


「ここは行き止まりだ!スキルカードを置いて・・・お、その女も置いていけ、可愛がってやる」

「は?」


「ギャハハ。強がるなよ!お前が、いいところの坊っちゃんなのは解っている。フォレストキャットを隷属化しているからって、上には上が居るってものだぞ!」

「そうだそうだ。そんないいオンナ連れて、ギルドで大量のスキルカードをばらまいたそうじゃないか?少し位、先輩の俺たちにもくれてもいいだろう?なぁ」


 後ろからも3人が姿を現す。


「もうひとりは?」

「はぁ?何言っている。恐怖で、頭がおかしくなったか?さっさと出すもの出せば、痛い目に合わないぞ!」


「・・・あなた達は冒険者なのですか?」

「そうだ!お前たち見たいな坊っちゃんにはわからないだろうがな、魔物を倒してお前たちを守っているのだぞ!」


「そうですか・・・わかりました」

「いい子だな。全部スキルカードを・・・」『やれ。腕や足や耳位ならなくなってもいいだろうが、殺すな!』


 俺の指示を受けて、皆が一斉に動き出す。

 鑑定持ちが居るのなら・・・あっそうだ。偽装したままだった。


 かなり弱く見えていたのだろうな。それに、もしかしたら、スキルカードが見えていたのかも知れないな。

 でも・・・冒険者を名乗っていた連中が、あっという間に地面に倒れる。


 シロが相手したやつは、シロが動いた事がわかった瞬間に剣に手をかけるが遅く手首から先がなくなっている。そのまま、シロは、左耳を切り落として、俺が与えた刀の剣先を目にむけている。


 エリンは、身体能力を発揮して、1人の膝を折れてはダメな方向に折ってから足の甲を踏み抜いて立てないようにした。もう1人の腰辺りを蹴り飛ばしてから、倒れた男の手の甲を踏み抜いて粉砕した、立てないで居る男の喉を踏みつけている。


 ウミは、1人をスキルを使って氷で足を串刺しにした。

 カイは、剣を持った男の肩から先を斬撃で切り落とした。

 最後の1人は、ウミがスキルで壁に飛ばしてから、カイが片足を斬撃で切り落した。


 ライの眷属によって拘束されて、男が連れてこられるまで5分もかからなかった。


 男は、瀕死の6人を見て、顔を青くする。


 さて、お話し合い尋問を始めようか?

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