第九十四話

/*** カズト・ツクモ Side ***/


「カズト様」

「どうした?」


 シロから話しかけてきた。なにか有るのだろう。

 フラビアとリカルダは、エリンと一緒にライから受け取った肉の調理をおこなっている。

 俺がやっても良かったのだが、カイとウミとエリンに反対された。刺激が強すぎるという事だ。意味がわからない。


 フラビアとリカルダが喜々として準備を始めたのでそのまま任せる事にした。


「・・・あぁカズト様は、私たちを・・・」

「許したわけじゃない。だが、お前たちが考えて、アトフィア教が正しいというのなら、それは尊重しようと思う。ただ、”上から言われた”から、”神が言っている”からとか言って思考停止するようならその場で見捨てる」

「・・・考えるか・・今まで言われた事がない感覚です」

「そうなのか?」

「あぁ父ならなにか気が利いた事が言えたのかも知れないが、私たちは父が融和派だったために、忌避感が薄い・・・違うな。人族以外は、人族が導いてやらないとダメで、導くべき存在だと教わってきた。人族だけでこの世界は成り立たない。神が人族以外を作られたのには理由がある。だから、人族以外とも話をしてしっかり導かなければならない・・・。そう教えられてきた」


「なぁシロ。少しお前が感じている事と違う話をするけど・・・いいか?」

「・・・はい」


「シロ。俺たち・・・いや、人族含めて、ヒト型の生き物は、目が二つだよな?」

「・・・そうですね」

「まぁ怪我とかで失ったりするだろうけど、基本は二つ目だよな」

「はい」

「でも、例えば、ダンジョンの奥に、この大陸全員をあわせたよりも大きな街があって、その街まで行けたとする」

「・・・」

「その街は、二つ目のヒト型は一切産まれなくて、1つ目か3つ目は5つ目しか居ない街だとしたら、その街の住民からみたら、俺たち二つ目の生物はどう見えるのだろうな?」

「・・・」

「そうだな。アトフィア教の信者が100名でその街に言ったら、”1つ目や3つ目や5つ目”は魔物と断罪するかもしれないよな?」

「多分そうするでしょう」

「でも、人数は相手のほうが多いし、相手の常識から言えば、2つ目は魔物しか存在しないと思っているのかも知れない」

「あっ・・・」

「アトフィア教のやっている事が全部間違っているとは言わない。でも、種族が・・・見た目が違うから・・・だけが、判断基準なら、”人”を判断基準にするのは間違っていると思う」

「そうですね」

「シロ。2つ目のアトフィア教の信者がその街で生きていけると思うか?」

「思えません」

「即答だな。まぁそのとおりだろうな。軋轢を産んで、どちらかが滅びるまで・・・人数的には、アトフィア教だろうけど・・・戦闘行為が行われるだろうな」

「・・・はい。そう思います」

「なぁそれが、人を救う為の考えだとしたら、悲しいよな」

「は・・・い」


 シロは、空を見上げて黙ってしまった。

 丁度、料理ができたという声が聞こえてきたので、話は”ここ”までにして、食事に向かう事にした。


 料理は・・・何も言わない。

 簡単に言えば、普段料理をした事がない男性がキャンプだからと張り切った末にできた物。だと、言っておく。

 二人とエリンの満足そうな顔を見て、俺はライがこっそりと渡してきた果物をそっと返すことにした。


 見張りのくじ引きが行われる事になった。

 最初、フラビアとリカルダが見張りを行うと言ってきたが、当初の約束通り、くじ引きで決める事にした。


 見張りを引き当てた、フラビアとリカルダが最初に見張りを行い。俺とシロが途中から交代する事になった。

「フラビア。リカルダ。よろしくな」

「はい。お任せ下さい」


 ライが出した馬車で寝る事になる。

 俺とエリンが一緒の馬車だが、今日はエリンはシロと一緒に寝ると言っているので、シロに任せる事にした。


 4時間後。

 ライに起こされた。シロは既に起きているのだと言っていた。


「ツクモ様。まだ、私たちが見張りをいたしますが?」

「ダメだ。フラビアもリカルダも休める時に休んで欲しい。まだこれから長いのだからな」

「・・・はい。わかりました」


 渋々という感じのようだが従ってくれるようだ。用意された馬車に向かっていく。


「カズト様」

「あぁシロ。待たせたようだな」

「いえ、大丈夫です」


 昼間の話がまだ引っかかっているようだ。


「カズト様。アトフィア教の教えは間違っているのでしょうか?」

「俺にはわからないよ。他人をどう考えるかだろうけど、見下して自分のほうが上と思うほうが楽だからな。さっきの話だけどな」

「・・・はい」

「俺には、もう一つの終焉が有るように思えるのだよな」

「もう一つ?」

「あぁ少数のアトフィア教の中から、大多数に乗り換える奴らが出てくるだろうな」

「え?」

「さっきの話では、自分の目を一つ潰して1つ目になってしまおうと思う奴が出てくると思うな」

「・・・」


「なぁシロ。人はなんで、自分たちと違うと言って排除して、他人と違うと言って気にするのだろうな」

「カズト様・・・?」

「アトフィア教だけじゃない。獣人にだって問題はある。生まれ持ったスキルで役割を押し付けたりする。反発する気持ちが有っても、”みんなの為”という言葉で1人に犠牲を強いる」

「差別・・・いや、排除してきた者としてですが・・・考えました。ロングケープ街で、移住をする者たちを見て、前領主を見て・・・そして、同じ考えだと思っていた・・・聖騎士たちを見て、カズト様・・・私を含めて、怖かったのだと思います」

「怖い?」

「はい。まだ自分でもわからないのですが、私はカズト様が怖かった。殺されると思った事もですが・・・あまりにも価値観が違いすぎて、私たちがしてきた事が間違っていたと考えるほうが楽に思えてしまいました」

「・・・」

「でも、カズト様はそれさえも許してくれませんでした。考えろと言われました」

「シロ」

「沢山考えました。でも、わからない事がわかった・・・だけです。私は思います。”みんなと同じ”は楽なのです」


「そうだな。考える必要も無ければ、自分たちが間違っているとも思う必要もないからな」

「そうです。アトフィア教は、獣人が怖いのだと思います。体力的な事もあります。1対1では勝てないのかも知れない。だから、人族だけでまとまる。獣人が怖いから排除する。近くに少数の怖い者がいたら、集団で排除する。排除するときにも、”怖い”を認めて排除すればいいのに、怖いを認められないから、排除する理由に縋る。それが”神”という事ならそれ以上考える必要はないでしょう」

「あぁそうだな。考えの放棄は楽だからな」


「はい。カズト様。アトフィア教の信者がまず教えられるのはなんだと思いますか?」

「・・・わからないな」

「それは、アトフィア教の信者である証を見える位置で身につける事と、信者である証を探す事です」

「そうか、信者であれば仲間である可能性が高いと言うわけか」

「そうです。同じ信者なら・・・も、通用しない事はわかっていますが、それでも1人で居るよりは安心できます」


「シロ。獣人も同じだぞ。種族が同じ者の近くは安心するし、近似種を求めてしまうからな」


「そうなのですね。獣人も人族と同じなのですね」

「あぁ同じだ。違う部分は個性だろうな」

「個性?」

「シロとフラビアとリカルダは、同じ人族で同じ環境で育ったのに、体つきや顔つきが違うだろう。可愛いのは間違いないけど、それも方向性が違うだろう。それと同じで、人族と獣人族が違うのは当たり前で、その当たり前は、”個性”という言葉になってくると思うけどな」

「・・・・」


 シロがうつむいてしまった。

 なにか考え始めたのだろうか・・・。ブツブツ何かを言っているようだし、しばらくは話しかけないほうがいいだろう。


『主様。何か来ます!』

『魔物か?』

『いえ、人の様です』

『わかった、人数は?』

『二人の様です』

『わかった。カイ。ありがとう』


 まだシロはブツブツと言っているが見張りの仕事優先だ。

 俺の探索にも認識できた。二人の人族のようだ。


「シロ!シロ!」

「(可愛い・・・だって・・・私が?)はっ!はい!」

「人がこっちに向かっている。どうする?フラビアとリカルダを起こすか?」

「・・・カズト様。私と二人では難しい相手ですか?」


 多分、子供だと思う。

 対処は、正直に言えば俺だけで問題ない。


「大丈夫だ」

「それなら」

「シロ。行くぞ」

「はい!」


 剣を握りしめて、俺のあとをついてくる。


 もうすぐ接触するな。


 やはり・・・集落から出てきた子供なのだろう・・・。


「だれ?!」


 少し甲高い声だが男の子だろう。


「俺は、ツクモ。一緒に居るのはシロだ。君たちは?」


「カズト様」

「大丈夫だ。子供二人だけだ」


「僕は・・・妹を・・・助けて・・・お願いします」


 そこで気を失ってしまったようだ。


「シロ。妹の方を頼む。俺は、兄貴の方を抱きかかえて連れて行く」

「わかりました」


「軽い」


 シロが妹を抱えた。

 妹も、シロに抱きかかえられた時に、気を失ってしまったようだ。


「カズト様」

「わかった、急ぐぞ!着いてこれるな?」

「はい!」


 全速力ではないが、かなりの速度を出す。


『カイ!フラビアとリカルダを起こせ』

『はい』

『ウミ!近くに誰か居ないか探索してくれ、”靴を履いていない”者ならおそうな。それ以外は、拘束しろ!』

『わかった!』

『ライ!スキル体力向上とスキル分析とスキル分解を用意してくれ。あと、スキル回復は・・・ないか・・・誰か呼ぶか?』

『スキル回復。一枚あるよ!?』

『わかった、用意してくれ、あと、そば粉あるよな?出しておいてくれるか?』

『わかった!』


『主様。フラビアとリカルダを起こしました』

『ありがとう。エリンは?』

『パパ。起きているよ!』

『エリン。最悪、ペネムまで飛んでもらう』

『わかった!』


 野営地が見えてきた。

 フラビアとリカルダが火をおこしてくれている。ありがたい。


「シロ!どうだ?」

「カズト様。かなり呼吸が浅いです。それに・・・いえ、急ぎましょう」


 手遅れかもしれない。

 でも、やるべき事をやらないと後悔してしまうかも知れない。たった数日で・・・ここまでできるのか?

 もともと、ギリギリの生活だったのだろう。そこに、聖騎士の敗残兵がなだれ込んできた。食料を提供させたまでは間違いないだろう。


「パパ!」

「エリン。ありがとう。シロが抱えている女児を、ライの所に!ライ。まずは、治療を頼む。こっちの男児にもだ」


 シロは、そのままライの所に女児を連れて行った。エリンは、ライから受け取ったスキルカードを俺にわたす。


「シロ。女児に治療を使う。フラビアとリカルダ!お湯を沸かしてくれ」

「はい!」「かしこまりました」


『あるじ。この子。治療じゃ効果ない』

「わかった!シロ。女児を連れてきてくれ」

「はい」

「それから、馬車から布を持ってきて、男児と女児の服を脱がせて、新しい布で拭いてくれ!」

「はい!」

「フラビアとリカルダ。お湯を人肌よりも少し熱くして、二人の身体を拭いてくれ。傷があるだろうから、傷があったら、ライに見せろ。治療が使える」

「え?あっはい!」「わかりました」


 女児の前に行く

 やはり乱暴されている。骨も折れていそうだ。目はダメかもしれない・・・。


 スキル分析を発動。

 毒物はなさそうだ。よかった実験台にされたわけではなさそうだ。


 スキル体力向上。

 これは実験区での結果だが、治療を行う前に体力向上を使っておくと治りがよくなる。重症な場合に、治療を行ってもほとんど効果がない場合いは、体力向上を使ってから行ったほうがいい。

 スキル治療では、体力まで回復しない。スキル回復も同じだ。


 スキル回復!

 顔色が多少良くなる。だが、まだだダメだ。


 スキル治療!

 よし効果が現れた。


「シロ。乱暴だけど、女の子を逆さにして揺すってくれ」

「え?」

「いいから早く!」

「はい!」


 シロが女の子の足を持って許すがダメだ。


「ライ!」

『はい』

「女の子の口から入って、喉に詰まっている者を取り出せるか?」

『やってみる』

「頼む!」


 ライが細長くなって、女児の口から入っていく


『あるじ!こんな物が詰まっていた』

「・・・」


 ライが持ってきた物を、シロに見せる。


「カズト様・・・これ・・・」


 子供の・・・歯だろうか・・・女の子の口からは血が流れているから、殴られでもして、歯が詰まったのかも知れない。

 シロも想像したのだろう。身体が小刻みに震えている。汚れた服を脱がした。二人とも下着さえも付けていない。そして、身体中にあざができている。それも新しいあざだ。剣で切られたであろう傷もある。足の裏は爛れていたのだろう。血が滲んでいる。女児も男児も切られたり殴られた様子はあるが、犯された様子はなさそうだ。何の慰めにはなっていない事には違いはない。罪状が、去勢してからの死刑から、ただの死刑に変わっただけだ。


「シロ・・・ツクモ様」

「どうした?」


 リカルダが二人の胸元を指差す。

 そこには、3人には馴染みがある印があざとなって残っていた。


 綺麗に拭いて、さらにライが治療を施す。

 あざも綺麗になっていく。体力向上をもう一回使っておく。


 女児は、体力が戻ってきたのか、顔色も良くなってきた。今は、身体を拭いて布を巻き付けている。今は呼吸も安定しているし、眠っているようだ。


 男児もあざが消えて、綺麗になった身体に布を巻いている。

 気を失っていただけのようだけど、体力も気力も限界だったのだろう。


「・・・うぅ・・ううぅぅん」


「カズト様」

「あぁもう大丈夫だろう」

「良かった・・・・」


 シロが座り込んでしまう。

 フラビアとリカルダもシロの側に来て、座ってしまった。


 男児が完全に目を覚ますまで少し時間があるだろう。

 そば粉を使った食べ物でも作っておくか・・・。ガレット風の食べ物でいいかな?


 シロやフラビアやリカルダも食べるだろう。


 作ってから、巻き込む物も用意する。


『カズ兄。周りには、何も居なかったよ』

「そうか、ありがとう」

『うーん』

「どうした?」

『うん。湖の近くから、嫌な匂いがする』

「嫌な匂い?」

『うん。油が多い肉を重ねて焼いているような感じで・・・なんかわからないけど嫌な匂いがする』

「ありがとう」


「シロ。疲れている所すまん」

「はっはい!」

「シロ。答えてくれ、アトフィア教では、裏切り者や同じアトフィア教の信者を殺すような時に、人を生きたまま火炙りにしたり、熱した鉄の棒で拷問するような事はしないよな?鎧を着せて逃げられなくしてから、火を付けたりしないよな?」


 表情が物語っている。


 考えが甘かった・・・食料を取り上げる位だと思っていた・・・が、ロングケープの街が近いのに、そこまでやるのか?


 剣を取り出した

「カイ。ウミ。ライ行くぞ!エリン。男児と女児を頼む。起きたら、ガレットを食べさせてやってくれ」

「パパ・・・エリンも・・・」

「エリンは、ここを守ってくれ。頼む。誰か来たら手加減する必要はない。だけど、この兄妹は絶対に守れ!」

「わかった」


 立ち上がった。


「カズト様。私も行きます!いえ、一緒に連れて行って下さい」

「いいのか?今、お前が考えている以上の状態かも知れないのだぞ」

「構いません。そのために、私はカズト様と一緒に居るのです」

「わかった。フラビアとリカルダはどうする?」

「「行きます!」」


 もう一度確認するか・・・3人の目を見るが必要なさそうだ。


「わかった。カイ。ウミ。俺たちを乗せて走れるか?」

『大丈夫です』『平気』


「フラビアとリカルダは、ウミの上に乗れ!シロは俺に掴まれカイに乗っていくぞ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る