第九十三話

/*** カズト・ツクモ Side ***/


「それでは、ライマン老。ロングケープ街を頼むな」

「はい。代官を勤めさせていただきます」


 結局、出立が2日伸びてしまった。

 ライマン老との話し合いもだが、前領主たちが起きて騒ぎ出したからだ。黙らせる事は簡単だったが、黙らせるよりもそのまま檻に入れて連れ出す事にした。街中を引き回した結果、見事な囮役になってくれた。


 まずは、街の中で前領主たちの罪を公表した。その上で、ライマン老が領主代行になる事が発表された。


 夜に、前領主たちを助け出そうと忍び込んだ者たちが居た。領主の手足となって動いていた奴らや、捕らえられている者たちと利害関係が一致している奴らだ。しっかりと捕らえて、一緒にペネム街に送る事になる。


 スーンに依頼してエントとドリュアスたちを武装させて、ロングケープ街に送ってもらった。護送する事になる集団が到着した。

 そのままアーティファクト(偽物)と鎧や武器を持って、ペネム街に出発したのだ。


 街を出て少し行った所で、アトフィア教の信者や司祭たちが襲撃を仕掛けてきた。

 本当に学習しない人たちだ。全員捕らえて、隊列に加わってもらった。


 当初、檻が3つだった物が、この時点で檻が7つに膨れ上がっていた。


 この情報は、隠さずに近隣の村々にも届ける。遠方にも商隊を通じて話しが広がるようにした。


 ここまでは、前領主や襲撃犯たちの末路、最終的には、実験区送りになる人たちだ。変わったスキル持ちも居たので、新しい実験ができそうだ。


 その後、移住希望者をリーリアとオリヴィエとクリスが、ヨーン率いる突撃部隊と共に裏街道を進んでペネムに向かう事になる。こちらは、魔蟲が護衛についていく事になる。

 オリヴィエを隊長に指名した。ヨーンでは、リーリアとクリスを止められないのが主な理由だが、オリヴィエがすごく嫌そうな顔をしていたが、適任者が他に居ないので俺の命令という事で決定した。


 リーリアとクリスが暴走しても、オリヴィエがいれば大丈夫だろうと、”俺は”考えている。オリヴィエに頑張ってもらおう。


 オリヴィエからは定時連絡がしっかりと入ってくる。

 一度目の休憩の報告を聞いてから、俺たちもロングケープ街を出る事にした。


「いろいろ無茶言っていると思うがよろしく頼むな」

「委細お任せ下さい」

「何かあれば、ヴィーラントに相談してくれ.。ヴィーラントも頼むな」


 ヴィーラントは、ライマン家の執事になったエントで念話が使える事と本人からの希望で、ライマン家で執事を行う事になった。


「はい。お任せ下さい。大主様」


 俺の後ろで、シロとフラビアとリカルダが従者の様に控えている。

 ライマン夫人のおもちゃになったのは、シロだけでは無かった。帰ってきた、ハツとチュンも同じくおもちゃになった。名前のことを聞くと、少し保留されて、シロと何やら話をしてから、名前の変更をお願いされた。

 ハツは、フラビアと変更した。チュンは、リカルダと変更した。改めて、年齢を確認すると、両者ともに23歳らしい(自己申告による)。種族は、人族だという事だ。話を聞くとシロの父親に仕えていてシロの父親と一緒に粛清された人の娘だと言っていた。それもあってシロの事を姫様と呼んで、人前では従者の様に振る舞うが3人だけになると姉妹の様になっているようだ。


 シロの父親は、アトフィア教の枢機卿だったが、獣人やエルフといった人族以外との交流を行わないのは、アトフィア教の教えに反するのではないかと言って粛清された一派のトップだった。融和派と呼ばれていたらしい。融和派は、シロの祖父・・・現教皇から粛清されて、数を減らしていた。壊滅的な状態になっているという話だ。


 シロやフラビアやリカルダが、獣人に対しての忌避感が少ないのは、融和派からの教育を受けていたからのようだ。他にも、シロの部隊には融和派が居て、その者たちを通じて総本山に居る融和派の支援する事を約束して送り出した。その後”姫様をよろしく頼む”とまで言われてしまった。

 ロングケープ街からの商隊で支援を行うのは明らかにおかしな気がするので、他の大陸を経由しての支援をする事に決めた。


 こんなことをしていたら・・・あっという間に時間が過ぎてしまったのだ。


 ちなみに、シロは髪の毛を切ったことを、フラビアとリカルダから思いっきり責められていた。自害を装うのはいいが、それならなぜ相談しなかったのかと言われていた。

 二人も、シロに続いて自害した事にする為に、髪の毛を切った。遺髪として帰る融和派の者に渡していた。ふたりとも、親兄弟が居ないから問題ないと言っていた。3人とも、アトフィア教のシンボルも渡していた。

 シンボルを預けたことで、3人は”アトフィア教”の信者である事を証明する方法がなくなった。この大陸で、ペネム街で生きていくという意思表示を帰っていく者たちにした事になる。


 髪の毛を切った事を、ライマン夫人に見つかって、二人もシロと一緒にめでたくおもちゃにされていた。


 シロは銀髪を短く切りそろえた。いろいろごまかしていた事が暴かれてしまったようだ。俺が、シロの年齢を16歳だと認識できなかったのは、シロがスキル変体を使って年齢をフラビアとリカルダに合わせていたからだ。少し大人びた雰囲気を出すようにしていたようだ。

 スキル変体もアーティファクトを使っていたようだ。ライマン夫人は、そのことを(直感で)見抜いてシロにスカートを履かせて、女の子らしい格好をさせた上で、スキル変体を解かせた。スキル変体のアーティファクトもシロの遺髪と一緒に持って帰ってもらう事になった。

 シロやフラビアやリカルダは、アーティファクトを俺に渡そうとしたが、俺にはそれほど価値が有るようには思えないので持って帰ってもらって、自害の真実味を見せるために使うことにした。


 おもちゃになって疲れ果てた状態で戻ってきたシロを見た感想は、”うん。女の子”だった。銀髪な事を除けば、ロシア系の美女高校生という感じになった。フィギアスケートとかさせたら人気が出そうな感じだ。おっぱいの大きさや筋肉に関してはノーコメントとしておこう。そうだな。シロ<フラビア<<<リカルダだが、1番大きいリカルダでも多分Cカップに届いていないと思う。これ以上考えると、3人の視線が何故か強くなっているのでやめておこう。


 フラビアとリカルダも、美女系のアスリートという感じに仕上がっている。素材が良かった事もあるが、すべては、ライマン夫人の手によるものだ。服装も、シロは”姫様”と言われたらそうだよねという雰囲気でまとまっている。スキル変体を解いた事で余計に幼く見える。


 ロングケープ街の事は、ライマン老にまかせて、俺たちは街を出て、ペネム街に向かう事にした。

 カイとウミはいつものようにしている。ライもカバンの中で寝ている。エリンは、なぜかシロになついている。シロも妹ができたようで嬉しそうにしている。


「シロ。フラビア。リカルダ」

「はい」「はい」「っはい」


 3人には、昨晩の段階で俺の名前を明かしている。3人が、アトフィア教に帰らない事を明言した事や、内部情報に関わるような事を含めて話す事を誓ったからだ。その上で、カイとウミとライとエリンの種族の偽装も解いた。

 鑑定を持っているのは、リカルダのようだ。泣きそうに・・・いや、実際に涙目になりながら、シロやフラビアに種族名を報告していた。殺されなかったのが奇跡だと言っていた。エリンの種族に関しては、鑑定結果を信じなかったので、明日・・・今日証拠を見せる事にしている。


 俺の名前を聞いて、フラビアが思い出したようにつぶやいた。

「姫・・・シロ様。カズト・ツクモの名前に覚えはありませんか?」

「え・・・ゴメンなさい。フラビア。貴女は知っているの?」

「いえ、知っているわけではありません。教会の資料に名前が出ていただけです。悪辣な獣人族をまとめる人物として・・・」

「・・・」「・・・ノーネーム殿?」


「あぁ気にしないで、立場が逆ならそう思えるのは当然だと思うよ。悪辣かどうかは、これから判断すればいい。それにしても教会はよく俺の名前を調べたな。表向きは、ミュルダ老やシュナイダーしか名前が出ていないと思うけどな」


「ノーネーム・・・カズト・ツクモ様。ミュルダ領主の孫娘に会いにいきましたよね?」

「あぁクリスがそうだ」

「え?クリス・・・って、先日いらっしゃった女の子ですよね?」


 フラビアが驚いている。


「どうした?」

「いえ、その・・・言い難いのですが・・・」

「あぁ父親の話だよな?」

「・・・はい」

「大丈夫。知っているし・・・あぁあのときだな。俺が、ミュルダの街・・・クリスの所に行く時に名乗ったからな」

「そのクリス嬢の父親が、獣人族をまとめているのが、”カズト・ツクモ”という人族だと話していたのが、宣教師たちに伝わって、ミュルダから追放された司祭が持ち帰った話になります。そのときの司祭の話しで、”カズト・ツクモ”は身長1m90cmを超える大男で、獣人族の族長を従えて、アトフィア教の教会を襲撃してきたという話になっています」


 笑うしか無いな。

 自己保身の為に・・・そもそも、俺と会っていないのに・・・逃げてきた理由を探して、未知の”カズト・ツクモ”から逃げでも不思議ではない様な状況を作り出したのだろうな。情報が秘匿されているから余計に、その情報が信憑性を持って伝わったのだろう。


「ほぉ・・・それじゃ、俺が名前を名乗っても大丈夫だな。同姓同名だと思われるだけだろうな」

「いえ・・・あの・・・」

「ん?いいよ?なに?」


 まあフラビアがなにか言いたさそうにしている。


「ツクモ様は、男性・・・と言うよりも、女の子に見えるので絶対に一致しないと思います」


 そんな事はないと思いたいが、シロやリカルダだけではなく、エリンまでもがうなずいている。


「・・・まぁいい。アトフィア教は、俺のことをほぼ把握できていないのだな」

「はい。アトフィア教に伝わった情報だけですと、ヨーン殿のことを、”カズト・ツクモ”だと誤認識すると思います」

「そりゃぁいいな。ヨーンに変わりをやってもらおうかな」


 こんなやり取りをしている。


 そして、街道を戻る前に、エリンの種族関する誤解を解いておくことにする。


「エリン。この辺りなら大丈夫だろう」

「うん。パパ。小さくでいい?」

「あぁそうだな」

「わかった!」


 エリンが、竜に戻る。

 それを見て、シロたちは開いた口が塞がらない。


「ツクモ様」

「なんだ?」


 それ以降誰もしゃべらない。


『パパ。戻っていい?』

『あぁいいぞ』


 エリンが人の姿に戻る。

 少し前までは、竜の姿で居る事を好んでいたが、最近では人の姿で居る事が多くなっている。


「パパ!」

「エリン。かっこよかったぞ!」


 駆け寄ってきたエリンを抱きしめて頭をなでてあげる。

 固まっている3人は・・・しばらく放置が正しいかな。


 旅の準備は終わっている。

 シロたち3人にも剣を渡してあるし、ヌラ特性の下着も渡している。下着は、何気にフラビアが喜んだ。リカルダは、下着を鑑定したのだろなにか青ざめていて、なにかシロやフラビアに告げていた。

 3人の役割としては、どうやら、シロは神輿?なのだろう、フラビアが頭脳担当で、リカルダは鑑定を持っているが頭脳ではなく戦闘担当のようだ。


 そろそろ大丈夫だろう。

「おい。シロ!フラビア!リカルダ!」


「え?あっすみません。本当に、竜族だったのですね」

「リカルダの鑑定でも見ただろう?」


 皆の視線が、リカルダに集まる。


「えぇ出ましたよ。鑑定結果を皆に伝えましたよね?でも、姫様もフラビアも信じなかったですよね?私が悪いみたいに言わないで下さい」

「そうだな。でも、3人もこれで納得したよな」


 3人がうなずいてくれる。


「カズト様」


 シロだけは、俺のことをカズト様と呼びたいと言ってきたので許した。


「どうした?」

「カズト様のスキル・・・いえ、なんでもありません」

「そうだな。無事にペネム街にたどり着けたらスキルに関しての質問を受け付けるよ。どうせ、街に着いたらわかってしまう事も多いだろうからな」

「わかりました。もうそろそろ向かいますか?」

「そうだな」


 カイとウミとライとエリンとシロとフラビアとリカルダで街道をペネム街に向かう。

 石壁までは、馬車で向かう事にしている。そこから徒歩に切り替える。馬車だと目立ってしまうからだ。しかし、馬車はライが収納する事にしている。野営するときの寝床にしようと思っているからだ。馬車で行かないのは、馬車を引く魔物の手配ができなかった事もあるが、カイとウミが馬車をひいていると、襲撃時に対処が遅れてしまう可能性があるからだ。移動時のリスクをへらす事と、野営時のリスクを軽減する為の方策として考えたのだ。


 野営の時には、俺もシロも見張りを交代で行う事になる。順番もくじ引きで決める事が決まった。


 石壁までは何の問題もなく進む事ができた。カイとウミが全速力の1/10程度で進んでいる。

 ライマン老に石壁が必要なければ壊すと言ったのだが、せっかく作ったので、そのままにしておいて欲しいと言われた。石壁の警備などはロングケープの人間が担当する事に決まった。


 さてと・・・最初の集落は・・・・石壁から半日位の所に有るのだな。

 湖に面していて綺麗な場所だと説明された。


 移動距離の問題もあるので、今日は石壁を出た辺りで野営を行う事にした。

 慣れておく必要も有るだろうという配慮からだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る