第九十話

/*** カズト・ツクモ Side ***/


 念話の着信?で起こされた。

 昨晩は、念話で指示を送り続けて疲れてしまった。ロングケープ街につながる街道に作っていた石壁が完成したのだ。それと同時に、ロングケープ街から退避していた獣人の所に、支援物資が届けられた。


 どうやってこの距離を運んだのか・・・答えは簡単だ。オリヴィエとリーリアとクリスが、街道をまっすぐに支援物資を格納して、駆け抜けてきたのだ。アトフィア教の敗残兵が居たが気にしないで突っ切ってきたようだ。

 今回は、オリヴィエが暴走した。活躍の場面だと思ったようだ。

 俺からの連絡を受けて即座にオリヴィエが動いた。ミュルダ老とヨーンに話して、防衛隊が消費しなかった物資を途中まで持ってきてもらって、残りを3人で駆け抜けてきた。


 そして、石壁の前で俺に連絡してきた。


 エントとドリュアスに言って、体力的に問題なさそうで協力的な者たちを集めて、石壁まで移動させて物資を受け取らせる。

 ロングケープ街の外にできている集落に運ばせる。多分、1週間程度は持つだろう。


 物資は他にも運ばれてくる。こちらは竜族に運んでもらっている。

 コルッカ教からの物資が2割くらいで残りはペネム街からだ。集落にだけなら2~3週間は持ちこたえるだろう。集落に集まった者たちが、持ち出した食料もあるので1ヶ月位ならなんとなりそうだ。


 昨晩はここまでで終わった。

 オリヴィエとリーリアとクリスが俺たちが泊まっている宿に来て疲れていたのかすぐに寝てしまった。


 今朝起こされたのは、違う報告だ。

 会議場に押し込んだ領主達が大喧嘩を始めたらしい。手足が拘束されているので、口喧嘩だから余計に醜い。ヴェネッサに聞かせられないのが残念だ。


 ヴェネッサは昨日の事がショックで立ち直れていないようだ。

 俺の得ている情報から考えると、今日は何も無いとは思うが、明日はひどい状況になると思う。その次はそれ以上に酷い状況を目にする事になるだろう。


--- 翌日


「ヴェネッサ。お前に見せたい聞かせたい事がある。来るか?」

「行きます」

「そうか、後ろの二人もだな」

「はい」「もちろん」


「わかった、今からお前たちの名前を偽装する。後で戻してやるけど、しばらくその名前で過ごせ。お前たちが聖騎士だって事を隠したほうがいいだろうからな」

「わかった。配慮感謝する」

「いや気にするな。それでは、”シロ”・”ハツ”・”チュン”だ。偽装できたと思うから確認してくれ」


 どうせ、最長でも1週間しか使わない名前だ。

 適当すぎる気がするが気にしたらダメだろう。


「リーリア。クリス。お前たちは、オリヴィエとエリンと一緒に集落に向かってくれ」

「かしこまりました」

「わかりました」


「カイ。ウミ。ライ。それに、シロとハツとチュン。石壁に移動するぞ」


 俺の肩にウミが乗って、すぐ後ろにハツとチュンが続く。次に、シロが続いて、最後にカイが居る。ライは、俺が持つカバンの中に入っている。

 今日は、馬車での移動になる。

 大げさかと思ったが、多分向こうでの事を考えると、帰りはシロ。ハツ。チュンは歩けないだろう。そこに放り投げていく事も考えるが、まだ入り口にも立っていない。是非地獄を味わって欲しい。それでも意見が変わらなければ、船に乗せて帰ってもらおうと思う。

 自分たちがしてきた事が少しでも解れば、自分から”なにか”言ってくるだろう。


 1時間くらいかけて石壁まで移動した。


「どうだ?」

 門番をしているエントに声をかける


「大主様。予定通りです。あと、2時間程度で来ると思われます」

「そうか、どのくらい集まりそうだ?」

「今までの報告では、多くても200くらいだと思います」

「200は、今日中に来そうか?」

「はい。間違いなく」


「それ以外は?」

「・・・大主様の予想通りです」

「そうか・・・やはり、マシな方がこっちに向かっているのだな」

「はい」

「わかった。クズどもの動きは見張っておけ」

「はっ」


「どういう事だ?」


 シロ=ヴェネッサが俺に聞いてくる。


「お前の仲間たちがこっちに戻ってきているって事だな」

「それはなんとなくわかる。数だ、200とか言っていなかったか?」

「あぁ200程度だな。マシな方は」

「マシ?」

「明日になれば解る。そうだ、お前たちに剣だけは貸しておく」


 3人に剣を渡す。


「・・・」

「それで、俺に切りかかっても構わない。そのかわり、しっかりと考えてからにしろよ?」

「ふっふざけるな。そこまで私たちはクズではない!」

「それならいいのだけどな」


 3人の女を見回す。

 仲間が来ているかもしれない。それがどんな形でも・・・だ。嬉しいのか、心配なのか、いろんな感情が混じり合っているようだ。


「気になるのなら、塔に登って見ているといい。声かけたければ声をかければいい。今のお前を見て隊長だった人だと信じてくれるかはわからないけどな。カイ。見張っていてくれ、逃げ出したら構わない殺してしまえ、その程度なら今後も必要にはならないだろうからな」


 カイから了承の返事が来る。


 俺たちが到着してから3時間が経過したくらいから、続々と聖騎士達が石壁の前に集まりだしている。

 数人だった頃は、石壁を見て絶望の表情を浮かべている。


 10人を越えて、30人を越えた辺りから文句を言い出す。

 自分たちはアトフィア教の聖騎士だ。門を開けて迎い入れろと・・・。食料をもってこいとまで言い出している。


 塔の上に居る、シロたちに向かって、奴隷が俺たちを見下ろすな・・・女だと解るとすぐに来い可愛がってやるとかいい出す。


 全員がクズだとは思わないが、クズの割合が多すぎる。

 それとも、集団心理なのか?自分達のほうが”人数”が多いと思って強気に出ているのだろうか?


 聖騎士が100名くらいに膨れ上がっている。

 まだ半分にも満たないが、それでも数は力だと思っているようだ。秩序もなにもない。塔の上から、食料を投げれば味方同士で奪い合いを始める。小集団に分かれていがみ合う。

 食料が少ないと文句をいう。


 塔から3人が降りてきた。見ているのも、聞いているのも耐えられなくなったのだろう。


「どうだ?」

「貴方はこれを私に見せたかったのか?」

「いや、これは始まりだよ」

「始まり?」


「あぁそうだ。シロでも、ハツでも、チュンでもいい。答えてくれ、お前たちが持っている剣でこの石壁を突破できると思うか?」

「無理だな」

「200名が集まればどうだ?」

「それは、全員が剣を持つという事か?」

「そうだ」

「門に攻撃を仕掛ければもしかしたら・・・私ならそう考える」

「そうだな。これから集まる100名は、逃げる時に馬車に乗り込んだ者たちだ」

「え?」

「馬車は、獣人や奴隷に引かせていると報告が来ている」

「そっそんな馬鹿な事があるか!聖騎士が馬車に乗って居るなぞあるわけがない!それも牽かせているのが、魔獣ではなく、獣人や奴隷になぞあってはならない」


「俺が街道沿いに馬車だけをおいておいた。最初に来た100名は馬車に乗らずに徒歩で逃げてきた。これから来る100名は馬車に乗っている。俺の言う事が信じられないのなら自分の目で確認すればいい。後1時間もしたら到着するようだからな」

「・・・・」


「俺は、その100名が到着したら、聖騎士の人数分の剣と食料を渡そうと思っている」

「いいのか?」

「あぁ問題ない。絶対に、石壁は破られないし、門を突破できる者は1人も出てこない」

「なぜいい切れる」

「それがお前たちの教えだからだよ」

「な・・・に?」

「すぐに解るから見ているといい」


 エントが近づいてきた。

「来たか?」

「はい」


 エントの後ろから、ヨーンが姿を現す。


「嫌な役目を頼んで悪かったな」

「いえ、御身の為なら我らは命さえ惜しみません」

「だから・・・まぁいいや、帰ってから説教な!」

「ハハハ。わかっていますよ。自分の命と家族を大事にしますよ」

「最初からそう言えばいい。それで、報酬は何がいい?」

「そうですね。居住区にでっかい風呂とダンジョン区の獣人たちとの交流をお許し下さい」

「風呂に関してはわかった。獣人との交流?あぁそうか子どもたちを含めてだな?」

「はい」

「わかった大人1人で子供2人まで許そう。それでどうだ?」

「ありがとうございます」

「でも、これは、長としての願いだろう?個人としてはなにか無いのか?」

「そうですね・・・ゲラルト殿の打った剣が欲しいです」

「例のやつか?」

「はい。ダメでしょうか?」

「ダメじゃないが・・・いいか・・・あれな・・・長に渡す事になっていて、帰ったらその儀式が有るはずだぞ?」

「え?そうなのですか?」

「あぁわかった、ヨーンには別に同じ素材でナイフを一本打ってもらう事にする。それでどうだ?」

「あっありがとうございます」


 交渉成立。

 竜族の鱗を使ったナイフを一本作ってもらおう。

 柄の部分に、白狼族の紋章でも掘ってもらえば贈答品として十分だろう。


 俺とヨーンが交渉している最中に、3人は再度塔に登っている。


「ツクモ様。あの女性たちは?」

「あぁ聖騎士の隊長とその従者だ。俺が捕虜にしている」

「そうなのですか?それにしてはおとなしいですね」

「そうだな。いろいろ考えたのだろうな」

「へぇ奴らも考えるのですね」

「そりゃぁ考えるだろう。馬鹿はどこにでも居るけどな」

「そうですね。ツクモ様はどうなると思っておいでなのですか?」

「俺?さぁなぁ・・・それに、後で答えたほうがいいだろう?絶対に外れないからな」

「ハハハそうですね。俺もこれからそう答えさせてもらいますよ」


 実際、面白くもない結論になるのだろう。


 2時間が経過した。

 予告していたよりも遅くなったが、馬車が到達し始めた。塔の上で見ていた、シロが怒りで震えている。獣人だけではなく、近隣の村や集落から村人を脅して引かせている者たちもいた。


 ほぼ揃った頃合いを見て、ヨーンが塔に上がる。


”愚かで蒙昧なる聖騎士諸君。ロングケープは、我らペネム街が制圧した。臆病者で恥知らずな聖騎士達が乗ってきた船も破壊した。街に残っていた貴殿らの隊長も倒した”


 急遽作らせた聖騎士の兜に似せた物を石壁の上においていく。スパイダー種がうまい具合に固定していく。

 赤い色の液が垂れるというおまけ付きの兜だ。


”貴殿らはここで朽ち果ててもらう。後方には、我らの仲間が迫ってきている”


 なにか文句を言っているが大きなうねりにはならない。


”貴殿らは仲間を見捨てて逃げ出した臆病者だ”


”我らは臆病者ではない。貴殿らに最後のチャンスをやろう。この石壁を突破できた者は勇者と認め丁重に扱い、総本山に帰っていただこう”


 ふざけるなとかなんとか言っているが語彙力がないな。

 同じ様な事を繰り返しているだけだ。


 ”チャンスも何も俺たちは剣も無ければ食料もない”とか言っているやつが居るな・・・まぁ仕込みなのだけどな。


”わかった、勇敢な者も居るようだ。剣200本と食料を渡そう。今から4時間以内に石壁を突破できればよし、突破できなければ、我ら2,000が総攻撃を開始する”


 ヨーンが塔から降りてくる。

 同時に、剣と食料を何回かに分けて投げ入れる。


 醜いね。

 最初に剣を持った奴は、食料を独り占めしようと、剣を石壁に向けるのではなく、味方にむけている。


 やはりそうなったか・・・。

 上手く配分すれば、1週間くらいは持つくらいはある。それに、4時間と時間を区切っているのに、味方同士でいがみ合う。


 石壁を剣で攻撃しても無駄なのに、剣を振るう集団がいる。1人1本の剣を数本持って居る。ようするに、自分の力量もわからなければ、協調するつもりもない。自分が良ければそれがすべてなのだ。


、剣の入手を諦めて石壁をよじ登ろうとしている奴も居る。それも一つの作戦だと思う。俺は眷属やヨーンに邪魔をするなと言っている。

 登り始めた奴を、味方である聖騎士が引っ張っている。酷い者だと剣を投げつけている。他人が助かるのが許せないのだろう。


 獣人や隷属している人族に向かって、馬車ごと門に突っ込むように言っている奴が居る。

 有効な手段だとは思うが、命令の仕方が今までと同じなのだ。

 でも、獣人も隷属されている人族も脅されている村人も、気がついているのだろう。自分たちに命令している聖騎士が追い込まれていると・・・。明確なサボタージュには至っていないが一歩手前くらいにはなっている。そして、門には突っ込んできた馬車の破片が広がるだけでダメージにはなっていない。それどころか門の前に馬車の残骸が溜まって攻略が難しくなっていくだけだ。


 そんな命令を出した聖騎士を他の聖騎士が責める。最初はただの口喧嘩だったが、罵り合いに変わって、暴力沙汰になるまでそれほどの時間は必要なかった。死んだり、怪我をして倒れたりした聖騎士が増えれば、それだけ剣に余裕ができてくる事になる。

 第二幕が始まる。獣人や村人たちは剣を持ち一箇所に集まり始める。数としては100を少し切るくらいだろう。

 でも、集団になっているのは力になる。剣を持たない者を後ろに下がらせたり、剣が使えない者が、剣が使える者に剣を渡して守ってもらう。戦う方法を知っている者は、戦うことを知らない者に生き延びる方法を教える。


 そして、次の幕があがる。

「ヨーン殿!我らを助けてくださらないか?」

「貴殿らを助けたら、貴殿らは我らに何をくれる?」

「絶対の忠誠を!」

「忠誠なぞいらない!」

「それでは・・・われの命の引き換えに、後ろに居るもの達を助けてくださらぬか?」

「なぜ?」

「われは、聖騎士に言われるがまま同胞を殺した。俺は、ここで罪を精算したい。後ろに居る村人たちは聖騎士に親子供を殺すと言われて手伝ったに過ぎない。だから、俺の命と彼らの命は等価ではない!頼む、ヨーン殿!」

「わかった。よろしいですよね。ノーネーム様」


 ヨーンには、俺の名前を”ノーネーム”と呼ぶように言ってある。


「ヨーンに任せる」

「はっ御身の為に!」


 ヨーンが自分の武器を持って、獣人たちの前に飛び出す。


「カイ。ウミ!」

『かしこまりました』『うん!』


 カイとウミは、ヨーンの両脇を固める様な位置に飛び出し、本来のサイズに戻る。


「ライ!」

『わかった!』


 ライが、獣人たちの所に向かう。


「ライ殿!貴殿ら、そのスライムは味方だ。ノーネーム様の眷属だ。武器を受け取れ、スキルカードも受け取れ、治療が必要な者は、ライ殿にお願いしろ!スキル治療を使ってくれる。けが人は後ろに下がれ!」


 明確な敵が現れた事で、聖騎士達は敵に向かう。


「聖騎士諸君。あまり前ばかりを見ていると、後ろで食料を独り占めしようとしている奴が居るぞ?」


 俺は、塔の上から、逃げ出しそうにしている奴や、食料を持ち逃げしようとする奴や壁を登り始める奴を指摘するだけで、聖騎士達が始末してくれる。団結すべき所なのに、元々”欲”で繋がっていた関係はこうなると脆い。確かに、主従関係も有るのだろう。でもここに”逃げて”来ているような奴に団結を求めるのは間違っているのかも知れない。

 事実、俺たちが手を下さなくても、聖騎士達は既に50名を割り込んでいる。この時点で、獣人たちと人数で逆転されてしまった事になる。


 俺は、ゆっくりと、シロ、ハツ、チュンが居る塔に移動する。


「どうした?助けに行かないのか?」

「・・・」

「行きたければ行っていいぞ?そのかわり、お前の今の姿を見て、仲間だとみなさないだろうな。奴らは、お前の肩書と名前に従っていただけなのだろうからな」

「・・・」


 従者の二人は必死になって、シロを抑えている。

 この二人は、本当にシロに従っているのだろう。


「どうした?お前は、どっちを切りたくて、剣を握っている?俺か?獣人か?それとも・・・」

「っク!!」


 表情がすべてを物語っている。


「まぁいい。そろそろ終わりにするか・・・あまりにも醜くて見ていられないからな」

「・・・なにを」

「終わらせるだけだ。カイ。ウミ。無力化しろ!」

『主様の仰せのままに』『わかった!』


 ピッタリ4時間。

 カイが最後に立っていた聖騎士の持っていた剣を叩き落として、そのまま首筋に一撃を加えた。


 結局生き残ったのは、獣人と村人が85名。聖騎士は、19名

 醜いにも程がある。1割しか残らなかった。


「この者達は?」

「安心しろ、死んだ者も含めて全員総本山に帰ってもらう」

「そうか・・・かん」「感謝しなくていいぞ、少し考えてみろ。もしかしたら、コイツらはここで死んだほうが幸せなのかも知れないからな」


「・・・」

「姫様。残念ながら・・・ノーネーム殿がいう事が正しいでしょう」

「どういう事?」

「考えてみて下さい。隊長である姫様は、ノーネーム殿の捕虜で庇護下にあります。総本山に帰られないと思います」


 チュンが俺の方を向いてそう言ってくる


「帰りたければ、俺が見せたい事を全部見せた後で帰してもいいぞ?」

「やめて下さい。姫様の立場では簡単に粛清されるような事は無いでしょう。無いからこそ、微妙な立場になります」

「そうだろうな。有力者の愛人にされるか、幽閉か・・・暗殺も考えられるな」

「・・・」


 ハツが言葉を続けるようだ。


「姫様。この中にあの裏切り者はいませんでした。隊長、副長が居ない状態で、この者たちだけで生きて帰ってきたら、枢機卿はどう判断するでしょうか?」

「そういう事か・・・そうだな。この失敗・・・敗北を誰かの責任にするか・・・違うな・・・遠征を無かった事にするに違いないな」

「はい。そうなると、生きて帰った者は・・・」

「粛清されるか、良くて奴隷だな」

「はい」


 ハツが俺の方を見て


「ノーネーム殿は、そうなる事がわかっているようでしたがなぜなのですか?」

「簡単だよ。ミュルダやアンクラムで、アトフィア教のやり方や信者たちを見てきたからな。神に縋る人々を食い物にしている奴らを・・・な」


 ヨーンが俺の方に駆け寄ってくる。


「ノーネーム様。どうしましょうか?」

「あっそうだな。街の近くに、獣人の集落ができている。そこまで案内してやってくれ、あと街中がそろそろ荒れ始めるだろうから頼むな」

「はい。はい。何を言ってもダメなのでしょう?」

「あぁ頼む。でもあと数時間で突撃隊が合流してくるからそうしたら、街中の清掃を頼んでもいいからな」

「わかりました。ノーネーム様はこれからどうされますか?」

「あぁこの3人連れて、ロングケープでやり残したことをしてから、ペネムに行こうと思う。街道沿いの集落や村に寄りつつな」

「・・・わかりました、誰かつけますか?」

「カイとウミとライが居るし、帰りはリーリアとクリスとオリヴィエとエリンが居るから大丈夫だと思うぞ」

「確かに、過剰戦力ですね」

「だろ?!」


 さて、一度街に戻るか・・・3人とカイとウミとライで、集落に向かう。集落では問題は発生していないという事だ。

 獣人の子供が俺に近づいてきた。


「ノーネーム様。お願いがあります」

「どうした?」


 猫族の子供のようだ


「僕のご飯・・・ロングケープ街でお腹空かしている子に食べさせていい?」

「どうして?」

「あのね。僕のことを汚いとか言っていた子がね。昨日は、泣きそうな顔していたの?僕が、お腹空いて泣いていた時と同じなの。だから、ご飯食べたら元気になってくれると思うの!」

「その子・・・君をいじめていたのだろ?」

「うん。でも、昨日は泣いていたの・・・いじめられるのは嫌だけど・・・僕、今お腹空いていないし・・・ノーネーム様がご飯沢山くれるから・・・あげちゃダメ?」


 小さな男の子のお腹が可愛く”くぅー”と鳴る。

 慌ててお腹を抑えて、耳まで真っ赤にする男の子。


 シロが、男の子を抱きしめる。俺も驚いたが、俺以上にハツとチュンが驚いている。


「大丈夫。それは、君が食べなさい。街の中の・・・その子は、私が・・・私たちが食事を・・・ご飯を届けます」

「お姉ちゃん。本当?」

「あぁ約束しよう」

「ありがとう!」


 シロが男の子を見送ってから立ち上がった。

 俺の方を向いて頭を下げた。


「ノーネーム殿。私の命と持っている物すべてを貴殿に差し出す。頼む、1食でいい食事を恵んでもらえないだろうか?」

「ヴェネッサは、それをどうする?」

「聖騎士として、先程の男の子をいじめていた子に会いに行く」

「それで?」

「”お前がいじめていた獣人からの頼まれ物”として渡す」

「そうか?それだけの為に、お前は命を差し出すのか?」

「あぁそうだ。あの子との約束だ」

「獣人の子供だぞ?」

「そうだ、ノーネーム殿。私は、今でもアトフィア教が間違っているとは思っていない。間違っていたのは、私や教皇や枢機卿ではないのか?”人族が導きなさい”神の言葉と言われている。私は、考えた・・・神は、”導け”とだけ言っている、先日から貴殿が私に見せてくれた光景がまさに導いていると見える。アトフィア教のやってきた事は迫害でしかない。父が正しかった・・・」


 最後の方は、自分の思考に入り込んでしまっている。

 もう少し刺激が必要なのかも知れない。丁度、リーリア達がきたので街に向かう事にした。

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