第八十七話

/*** カズト・ツクモ Side ***/


 俺たちが乗っている船は、前世?の記憶では、クルーザよりも少し小さめの船だ。居住スペースはエント達が急ごしらえしたようだ。


 眷属から行軍の様子や聖騎士の情報が続々と届けられる。


 両軍の行軍情報を得ながらタイミングを図っている。


 突撃部隊に居るリーリアや後衛部隊に居るクリスとも、数カ所の”念話中継魔核”を通して繋がっている。


 今回の戦いで俺が1番懸念していたのが情報伝達の方法だ。念話は便利だが到達距離に制限がある。魔力が、距離と通話品質?に影響を与えるのかはまだわかっていない。実験は行っているが、入力パラメータが多くうまくまとめられていない。

 調整を加えても、念話の到達距離問題は解決しなかった。


 個々の能力に依存するのなら、中継点が作れないかと思って試行錯誤を繰り返した。

 今までは、エント達に念話を固定して中継点というか交換台の役割をやってもらっていた。

 エントたちは問題ないと言ってくれていたが、サイレントヒルやブルーフォレストの様に俺たちの勢力範囲内なら大きな問題ではないが、そうでない場合にはエントが討伐されてしまう危険性がある。俺の身内が殺される可能性がある場所に派遣するわけには行かない。


 モルモット達に念話を埋め込んで、地中に埋めてしまおうかと思ったが、生命活動が途切れると、中継点としての役割も終わってしまう事が判明した。


 魔核に固定してもそれだけでは中継点として意味がない事もわかった。


 技術に明るい人なら、”多段プロキシ”で解ると思う。わかるよね?

 多段プロキシの時には、接続情報を連結させる必要がある。同じ様に念話の接続先を指示してつなげる事ができないかと思ったわけだ。エントが交換台をやってくれているときには、1番近いエントにつなげれば、後は中継するエントが相手までつないでくれた。


 連結する方法は、レベル6目印スキルを使う事で解決した。中継として機能できなかったのは、”中継名”がわからなかったからだ。


 レベル6目印で、中継点に名前が付与できる。

 そして、名前をつなげる事で、多段プロキシの様に相手につなげる事ができる。魔核に付けた目印や念話を、隠蔽する事で名前がわかっている者しか使えなくする事ができることもわかった。


 最低でもレベル6魔核で二つ以上のスキルスロットがないとダメだが・・・情報伝達という意味では必須なので必死で作り続けた。

 俺にしかできない事なのはわかっている。できたものから中継範囲を確認しながら、設置を行っていく。設置は、岩などに擬態させる。岩が無いような場所では、地面の中に埋め込んでいく。


 盗まれたとしても、盗んだやつを補足する方法も考えた。

 目印で探索を行う事もできるが範囲外に居るときには反応しない。しかし、元の役割が中継点である事から、中継名がわかっているので、念話で中継名を最終目的にする事ができる。

 その中継点での会話を聞くことができる副作用に気がついた。あとは接続先を探っていけば、徐々に絞り込みができる。絞り込んでいく状態で、探索の範囲内に入れば補足は簡単にできる。


 中継点の設置は、この戦いに間に合うように手配したがギリギリだった。行軍の道筋に沿って設置できただけでも大きな成果だと思っている。


 そのおかげで、俺たちは情報伝達という一点で聖騎士を上回っている。


 防衛隊は、予定よりも一日早く、聖騎士よりも2日早く予定の場所に陣をはる事ができた。獣人たちが急いだという事もあるが、荷物になりそうな物を竜族が運んでくれた事も大きい。

 予定よりも早く着いた事で、戦いが有利に進められる場所・・・高地・・・に陣をはる事ができた。


 防衛隊に着いていたエントから、罠を作る許可が欲しい旨の連絡が来て承諾した。

 効果的な落とし穴の作り方や、相手の心を折る罠を作成するように指示を出した。手前に堀を作成して、堀を飛び越えた先に落とし穴を作ってもいい。

 馬系の魔物に騎乗している聖騎士だから、足を狙った罠でもいい。少しの段差が連続で続くような場所や、こぶし大の石と同じくこぶし大の穴を大量に作っても、馬の速度を緩められる。走りやすい場所を残しておいて、馬の頭上くらいに糸を張ってもいいだろう。

 開戦と同時に、敵陣地の周りを水で埋め尽くしてもいい。


 そんな罠をエント達が突貫で作る事になった。


 そうこうしている間に、突撃部隊も突撃場所に着いた。

 聖騎士達は突撃部隊に気がついていないようだ。


 ロングケープ潜入部隊である俺たちの方は、少しだけ問題が発生した。

 ロングケープには聖騎士は残っていないものと思っていたが、どういうわけか聖騎士の隊長と側近20名が残っている(らしい)。どうやら、内部で主導権の争いがあったようだ。隊長は、”獣人族を虐げている魔物を討つ”という名目で聖騎士が動いたという建前を信じているようだ。上層部と聖騎士に命令を出した者たちの目的である、獣人が持つ物の搾取と解放殲滅に反対していた。

 これだけ見れば、隊長は獣人の味方のように見えるが、大きく俺の考えと違う所がある。”よりよい主人”であろうとしているのだ。何も考えず疑問に思わずに、人族が唯一認められた存在だと信じ、人族である自分が聖騎士の隊長である自分が、間違っている人族や、神に認められなかった獣人やハーフ達を導いてやらなければならないと思っているのだ。


 明日の朝には聖騎士の本隊はストーンリバーを抜けるだろう。

 情報を総合して考えても、明日の昼過ぎには聖騎士達が陣をはって、戦闘状態に突入するだろう。


 優位な状況になっているのに、相手が陣をはって万全の体制になるのを待つ必要はまったくない。突撃部隊は、今日の夜作戦を開始する事になった。てっぺんを作成開始予定時刻に定めた。

 最終的な突撃のタイミングは、現場の判断に任せる事にしている。逃げ道を塞ぐのは愚策だが、こちらの被害が少なくなると見込めるのなら、ストーンリバーの岩を崩して退路を遮断する動きを見せても良いとは伝えている。


 今回の戦いは、俺たちのほうが確実に有利なのだ。

 聖騎士達は俺たちの正確な位置だけではなく数もわからない。その上で、奴らは”搾取”が目的なのに、”殲滅”が大前提になっている。俺たちは、ペネム街を守りきれれば”勝利”なのだ。殲滅の必要はない。より確実な勝利を狙うのなら、俺たちの戦力を正確に把握させない事のほうが重要だ。次の戦いも有るだろう。戦力がわからない状態にしておいたほうがいいに決まっている。ただ、そのために、仲間が家族が傷つくのなら隠す必要はない。

 ロングケープに残っている隊長と側近は捕らえたほうがいいだろうが、戦場に向かったやつは逃したほうが面白い報告をしてくれるかもしれない。


『大主様』


 潜入しているドリュアスからだ


『どうした?』

『はい。ロングケープの領主が、アトフィア教に協力すると宣言するようです』

『なに?それは本当か?内容は?』

『はい。明日の定例報告会の冒頭で宣言するようです。内容は、全容はわかっていませんが、街に居る人族以外の財産の没収、隷属化、及び 解放をうたうようです』

『そうか・・・明日って・・・まだ時間があるな』

『ありますが・・・どういたしましょうか?領主を暗殺しますか?』

『いや、領主には宣言してもらおう。このさいロングケープからもアトフィア教や似たような思想を根絶してしまおう』

『はっ私たちはどういたしましょうか?』

『獣人やハーフはどのくらい居る?』

『全部で、2,000を少し超えるくらいです。隷属させられている者は・・・申し訳ありません、わかりません』

『子供は?』

『申し訳ありません。把握できておりません』

『わかった、明日の定例会議が始まると同時に、俺たちはロングケープに停泊しているアトフィア教の船を攻撃する。できる限りの獣人とハーフを逃してくれ』

『かしこまりました。大主様。どこに逃しますか?』

『とりあえず、街の外に逃がせ!』

『はっ』

『強制してもいい。邪魔するアトフィア教の奴らは捕えろ。人族も、ひとまず捕えろ』


 さて、大仕事が増えたな。

 この際だ、この街も支配下においてしまえ。


 この大陸からアトフィア教を追い出すくらいの気持ちでやってしまえ。

 そっとしておいてくれたら、共存の道もあったかもしれない。でも、剣で力で従えようとするのなら、抵抗するのみ。俺は、無抵抗主義ではない。1発殴られたら10発殴り返すくらいの気持ちでやってやる。


「カイ。ウミ。エリン。すまない。少し休んでいてくれ、ライ。スーンに連絡して、エントとドリュアスで手が空いている者を、ロングケープに向かわせて欲しい」

『うん。スーンは、もう準備ができているって』


「そりゃぁいい。早速・・・違うな。エリン。ライを連れて、ロングケープの街中に入られるか?」

「ライ兄を空から落とすの?ライ兄が大丈夫ならできるよ?」

『あるじ!大丈夫だよ。海に落として貰って、来ている子に助けてもらうよ』


 船襲撃の前準備を行う事にした。

 時間が無い中で、皆できる限りのことをやってくれたと思う。


 日付が変わる時間に、エーリックから突撃を開始すると連絡が入った。

 同時に、防衛隊の方では、篝火を掲げる。レベル5のスキル爆炎、雷弾を使った花火モドキを打ち上げる。竜族に適当なブレスを連発してもらう。これで脅しは十分だ。相手は恐慌状態に陥って、エント達が樹木スキルで作った罠にはまっていく。たった一日だったが、その間に工作兵よろしく落とし穴や茨を巻き付けた木の棒や板を配置している。

 後方をいきなり襲われて、前方からはわけがわからない攻撃。

 行軍で疲れている状態で陣もまともに作られていない。その上、上層部は”略奪”しか考えていないために斥候もまともに放っていない。


『ご主人様』

『リーリアどうした?なにか問題か?』

『・・・はい。私たちの出番がないままに終わりそうです』


『カズトさん。こちらも誰もエントさん達が作った罠を突破できていません』


『ご主人様。同士討ちをはじめました、どういたしましょう?』

『させておけ。どうせ、逃げ帰るにも、奴らが逃げられる場所なんて無いのだからな』


『はい。ブリット殿が戻ってこられました。物資の半分を拿捕して、半分を焼き払ったそうです』

『わかった。無理しないように言ってくれ』

『・・・』


『どうした?』

『ご主人様。ブリット殿が、再度の突撃を求めていらっしゃいます』

『なにかあるのか?』


『・・・ご主人様。ブリット殿が言うには、兵站部隊のほとんどが、獣人やハーフで構成されているので、俺たちの命をかけて救い出したいという事です』

『・・・・ダメだ。その理由では許可できない』


『ご主人様』

『なんだ』

『ブリットから、かなり安全に隷属されている者たちを救い出せる方法を考えました。実験させてもらえないでしょうか?と問い合わせです』

『リーリア・・・。いや、わかったブリットに伝えろ”お前たちの中から一人でも死んでみろ、次の街は、ブリット=マリーが街の名前で、死んだ奴らの銅像を作って、自分の命を顧みないで多くの者たちを救った英雄ここに眠ると彫り込むからな。嫌なら、絶対に生きて帰ってこい”とな』

『はい。かしこまりました』


 アトフィア教の奴らどれだけ獣人やハーフを隷属させている?


『カズトさん』

『どうした?』

『カミーユ=ロロットが、敵大将らしき人物を捕らえました』

『ほぉ・・・それは興味深い。生かしておけよ。それから、聖騎士の連中で捕らえた者は、ロングケープまで輸送させろ』


 大将クラスが一騎打ちに応じたのか?

 それとも、逃げようとしている所を捕らえたのか?


 前者なら心を折らないとならないが、後者なら逃してやってもいいかもしれないな。アトフィア教のやつらの相互不信の芽を埋め込むための苗床にでもなってもらおうかな。


『わかりました。それから・・・』

『なんだ?』

『こちらの犠牲者はゼロです。ブレスや”花火”に驚いて転んで怪我した者は居ますが、死者はいません。完勝です』

『よくやった。ヨーン=エリックとミュルダ老にもそう告げておいてくれ』

『わかった!』


 さて、本隊は片付いたようだな。

 逃げ出した奴らが戻ってくるのは、早くても2日後。明日一日でロングケープを落とせばいいんだな。

 それほど難しいことではないだろう。


『あるじ!街に入ったよ!今からエントとドリュアスを呼ぶね』

『あぁ頼む。エント達には事情の説明を頼むな』

『うん!スーンがやっているから大丈夫だよ!』


 それなら安心だ。

 さて、エリンも・・・おっ帰ってきた。


「おかえり」

「パパ。ただいま。今日はどうするの?」

「今日はこの後仮眠を取って明日は一日忙しいと思うからな」

「うん。わかった。パパ。一緒に寝よう!」


 そういってエリンは俺の手を引っ張って行く。


「わかった。わかった」


 寝床では、カイとウミは既に丸くなって居る。

 俺も準備されている寝床に横になる。エリンと一緒にだ。


 リーリアから念話が届く。

 敗走する聖騎士たちの様子が報告される。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る