第八章 進展

第八十一話

/*** カズト・ツクモ Side ***/


 ペネム・ダンジョンが正式オープンして、3階層を突破したと、クリスから連絡が入った。そろそろ、6階層・・・実質の7階層以下を作らないとならないだろう。


 俺が進めていたチアルダンジョンの攻略は七十九階層で止まってしまっている。


 意図して止めているわけではない。

 ログハウスを一日留守にすると、翌日に決裁が必要な案件/書類が”嫌味”なのか大量に置かれている。しばらく無視していたら、しっかりたまり続けて行く。

 俺は楽がしたい。そもそも、13歳の子供が行う仕事量ではない。ミュルダ老とシュナイダー老と各長たちと話し合いを行って、アンクラム/ミュルダ/サラトガの最低限の支配と流通路が整備されるまでは俺が決裁することになった。

 その後は、支配した地域の代官たちを交えて話し合いが行われることになった。


 今日は、クリスとペネムがログハウスに来ることになっている。

 すごく自由なダンジョンコアだ、宿区までダンジョンの一部だけとはいえ伸ばしているので、このくらいの距離なら問題はないと言っている。


 クリスとクリスの部下達には、俺の執務室になっている部屋に来てもらうことになった。俺の意見をクリスに伝えて、あとはクリスとペネムで協議してもらう形になった。


「クリス。ダンジョン内のことはだいたい把握できるってことだよな?」

「はい。大丈夫です」

「それなら、収支に関しても考えておいてくれよ」

「収支?」


 クリスに簡単に説明する。

 ダンジョンの収入とは、”魔素”である。魔物が倒されたり、冒険者が死んだりした時に、魔素が空気中に漂うことになる。これを、ダンジョンが吸収することで、ダンジョンは活動が魔物を産んだり、ダンジョンを拡張したりすることができる。

 魔物や人は死んだりしなくても生存しているだけで、微々たるものだが魔素が漏れている。漏れ出た魔素を吸収することができる。

 今、常時ダンジョン内には、1,000人程度が入っている。これでは、広さと転移門は維持できない。

 ペネム・ダンジョンの維持には、チアル・ダンジョン産で市場に出せないと言われているレベルの魔核を与えている。拡張作業も行っていくので、ペネムに感覚的で構わないから、どのくらい必要なのかをクリスに報告するように言っておいた。


「わかりました。それで、7階層からはどうしましょうか?」

「あぁこんな感じにできないか?ペネムに確認してもらいたい」


 俺の考えを説明した。

 冒険者達が考える5階層には、地下に入る入口がいくつか存在させる。これなら、洞窟風のダンジョンや地下に一部屋しかないようなダンジョンを作ることができる。


「カズトさん。まずは、どうします?洞窟が続くようなダンジョンを何個か作りますか?」

「そうだな。サラトガダンジョンくらいの広さのダンジョンを3~4個くらい用意しよう。一つは、ゴブリンやコボルトだけしか出てこないダンジョンで、5階層くらいかな」

「それは?」

「6階層の入口の近くに作る。初心者向けダンジョンだな」


 それから、冒険者が6階層に到達したら、2階層に転移門を作ってもらう。作成場所は、外から入ってくる転移門から歩いて1日くらいの距離だ。外から入ってきた場所には、冒険者向けの街が形成されつつ有る。その街を抜けた先ということになる。街で休んでから、転移門に向かうように習慣づけることにしている。そのうち、移動手段を持ち込むだろう。そうなったら、レールをひいてトロッコを走らせてもいいかもしれない。

 2階層にできる転移門は、3階層/4階層/5階層に行けるようになっている。

 最終的に、3階層と4階層は、農業や漁業や畜産が行えないか考えている。ペネムに俺の知識を渡したことで、かなりのことができるようになったようだ。もちろん、地球での知識だが、ペネムは地球産の知識と前ダンジョン・マスターの知識を融合させた。

 ダンジョン内に海を作ることもできるようだ。それと、俺がやり込んだゲームの魔物たちの再現にも成功している。定番魔物から、少しじゃなくマニアックな物まで多数だ。フロアボス候補には、”狩りゲーム”の魔獣たちが選ばれた。


 初心者向けのダンジョンをいくつか用意する。

 素材採取とかにも使えるようにする。地形や環境も変えてある。商業区には5階層に店を出すことは禁止している。ダンジョンから魔物が出てくる可能性があるからだ。初心者ダンジョン程度の魔物なら困らないが、中級者や上級者向けのダンジョンから魔物が溢れ出たら対処に困ってしまうからだ。


「カズトさん。どのくらい作ればいい?」

「それこそ、収支を考えながらだな。ダンジョン内ダンジョンが増えれば、それだけ人が増えるってわけじゃなさそうだからな」

「わかった、初心者向けが全部攻略されたら、次のダンジョンを作るようにする」

「そうだな。クリス。それでいい。難易度調整とかは、クリスのブレーンたちと話し合って決めてもいいからな」

「え?でもいいの?」

「いいよ。今更だろう?それにクリスから隷属スキルを受けたのだろう?」

「うん。カズトさんの話をして、僕がカズトさんの眷属になったことを話したら、自分たちは、僕についていきたいと・・・」


 そう、クリスがダンジョンの管理をする条件が俺の眷属になることだった。条件をいい出したのは、ライの眷属たちだった。それに、クリスが乗りかかった。眷属になったら、結婚しないぞ?と言ったのだが、魔物の血なのだろうか・・・クリスは眷属になる事を選んだ。クリスが俺の眷属になったことは、ミュルダ老とクリスを補佐することになっている子どもたちしか知らない。


 その子どもたちは、共通点があった。


 親を、直接的/間接的に俺が殺していることだ。

 クリスに関しては、殺していないが殺したようなものだ。サラトガ領主も同じで、俺がダンジョン攻略を行ってペネムを持ち出したことで、サラトガが機能しなくなって自害した。アンクラムはリーリアを使って動かしたことが引き金になっている。ショナル村の6人の子供たちの親はアンクラムがブルーフォレストに攻め込んできた時に徴兵された。父親は帰ってこない。母親もアンクラムで死んだと言われたということだ。


 仕事が欲しいと言ってきた理由も”ここ”でしか生きられないと思っていたからのようだ。

 俺やクリスに対して叛意がない事を示したいということだった。俺は、別に構わないと思っていたのだが、クリスが”隷属スキル”を使いたいといい出したのだ。皆と相談して決めたということだ。

 クリスが強要していたら、クリスの眷属も外すことになると話したが、全員の意思だと言われた。クリスに”隷属スキル”固定した。そして、クリスは、9名の子供の主人となった。


「彼らなら問題ない。それよりも、彼らのスキルに関しても見直すのならできる限り協力するからな」


 偶然なのか・・・ご都合主義なのか・・・多分、後者なのだろうけど、彼らの中に”純粋な人族”は居なかった。


 村の子供に関しては、全員が獣人族だ。父親は、人族だという話だが、母親が獣人族だ、そのために、ブルーフォレストに攻め込む時の盾になる隊に組み込まれてしまった。人質として母親もアンクラムのアトフィア教で預かることになってしまったのだ。


 アンクラム領主の娘は、長女は人族に見えるハーフで、次女は獣人族だ。母親が、獣人族のハーフだったという話だ。母親は、次女を産んでから、病気で死んでしまったようだ(リヒャルトがアンクラムを回っている時に”領主の嫁はアトフィア教の奴らに粛清された”と噂が流れていると言っていた)。


 サラトガの領主の息子は、クリス似たような境遇のようだ。ドリュアスと人族のクォーターだという話だ。彼は自分の事情は正確に知っていた。


 そして、彼らはクリスの秘密を知って、クリスに従うと言ってきた。

 眷属化ではなく、隷属化を選んだのは彼らだ。


「カズトさん。ありがとうございます」


 クリスは、執務室から退出して自分に与えられた部屋に戻るようだ。

 ダンジョンの方向性がまとまったら相談に来るということだ。


 ペネム・ダンジョンの運営は、クリスたちに任せることになる。

 最終的には、俺まで承認が上がってくるのだが承認プロセスは、絶対に必要だと皆から言われてしまった。


 そのダンジョン攻略はイサークたちが、5階層(実質的な6階層)に到達した。彼らには、クリスを通じて情報が流れている。攻略組のトップを走ってもらっている。調整がやりやすいということもあるが、彼らは本当にトップクラスの実力者だったのだ。


 そのイサーク達は宿区には住んでいない。自由区に居を構えている。


 理由をイサークに聞いたら・・・


 彼らが押した新領主が俺に迷惑をかけた事を気にしているようだ。

 気にするなとは言ったのだが、けじめだとか言って自由区にパーティのホームを作って、そこからダンジョンに潜っている。ナーシャに関しては、時々宿区にあるクリスの家に遊びに行っているようだ。


 ダンジョン内ダンジョンの入口も見つかった。

 続々と攻略者が出てくる。そうなると、ダンジョンの中も外も活気づいていく。転移門も出現させているので、移動時間もかなり短縮されることになった。


 ダンジョンらしい素材や魔核やスキルカードが手に入るようになってきた。


 クリス達の報酬は、ダンジョンに入った冒険者の数で決定することになった。

 日単位で区切って、入場した人数で報酬を支払う。1万人入場したら、レベル4が一枚。日本円だと1,000円とした。もっと出しても良かったのだが、行政区で話し合いが持たれて決められた。ペネムの街からダンジョンに入るのには、レベル3が3枚と決められた。これを使ってペネムの街は公共事業を行うことになる。


 これで後は人が集まってくれば街が回りだすだろう。

 ペネムの街と居住区だけでは回すのは少し不安だったのだが、ペネム・ダンジョンができて、アンクラム/ミュルダ/サラトガの街がになってくれている。領主は既に居なくなって、代官という役職の者が居るだけだが、代官に月に一度はペネムの街に集まることが約束されている。SAやPAの長も同じだ。

 SAやPAを管理している者が、エントやドリュアスだった場合には、裏切る心配が無いために、月一度の会議への出席は免除されている。ミュルダ老には告げてあるが、半年を目処にSA/PAから代官としてのエントとドリュアスは戻すことにしている。それまでに、代官が決まらないSA/PAは決まるまで封鎖することにしている。

 ミュルダ老だけではなく、リヒャルトも各方面に走り回っていた。各地で、商隊を引退した人や、宿屋をやっている人たちをスカウトしてきていた。


 月1の会議には俺も出席することになっている。もちろんクリスも出席している。


 会議では、各街の状況報告が行われる。

 要望や要請が行われて、それに付いて議論される。最終決定権は俺にあるが、議論された結果を尊重して許諾することにしている。


 ミュルダは、食品や加工された食品を扱うことが決定している。

 サラトガは、武器や防具を主な商材にする。

 アンクラムは、道具を主な商材にする。


 もちろん、それ以外を扱えなくしているわけではなく、外部から来る人にわかりやすいようにするためだ。

 元々の街の住民たちも落ち着きを取り戻しつつある。アトフィア教の信者たちは、ペネムの影響が大きくなればなるほど居づらくなって出ていく傾向にある。何度は、徒党を組んで代官を襲撃したりもしていたのだが、代官は転移門を使って逃げ出して無事。襲撃者たちは、謎の失踪となっている。

 実際には、魔蟲達が交代で見張っているので、襲撃者を捕らえて、ペネム・ダンジョンの中に作られた実験室に送り込まれている。実験体として有意義に使っている。


 実験も長期観察実験が多くなってきてしまっているので、なかなか結果を出せないでいる。


 今は、交配実験を行っていない。

 力を入れて実験しているのは、治療と回復とそれらをスキルに付けた場合やポーションを作る実験だ。

 こんな世界だから、回復ポーションがしっかり系統立ててあるのかと思ったが、スキルカードがあれば誰でも”治療”や”回復”が使えるので、ポーションは発達していない分野だ。だからというわけでは無いが、気楽に考えて、気長に実験していくことにした。幸いなことに、実験に必要な”被験者”は大量に捕らえることができている。


 今日も、11名がサラトガで捕らえられた、明日には実験室に送り込まれるだろう。

 部屋が足りているか考える必要がありそうだな。

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