第六十話

/*** カズト・ツクモ Side ***/


 ミュルダ街からログハウスに帰って来て、3ヶ月が経過した。


 ミュルダ街から、ビックスロープまで約6日間の行程だった。道を通す事も考えたのだが、獣人族や街の人たちに任せる事にした。俺が指示したのは、40kmごとに馬車を駐めて休める場所を作る事だ。感覚的には、高速道路のSAだ。人の手配は、カスパル前領主に丸投げする。20kmごとに小さな休憩所を作る。こちらはPAだ。


 PAでは、食事と休憩が行える。寝るための施設も作ってあるが、馬車に関する施設は用意していない。

 SAでは、馬車の修繕施設や馬房があり、メンテナンスが可能になっている。食事や休憩と、本格的な宿も用意する。


 これらの指示をスーンに出してから、1ヶ月もしないで、ミュルダ方面にPAとSAが出来上がった。

 運営は、カスパルに丸投げした。アンクラムの難民たちや、ミュルダからの移住者も、落ち着いてきて、PAやSAでの設営や営業の手伝いをし始めている。獣人族も、商業区ビックスロープでの運営を手伝っている。


 その中で、鼠族が特殊な能力を発揮している。

 鍛冶が得意なのだ。馬車を改良して、連結馬車を作成した。移動手段も、ブルーフォレストの中を、馬車のサイズの轍を作って、馬車を走らせている。動力は、元黒狼族の集落近くに、同じく集落を作って暮らしていた、馬族が協力してくれている。

 馬族は、亜人の中でも、魔物よりの種族だという事だ。俺に謁見してきた馬族を見た時に思ったのは、”ケンタウロス”そのものだ。同族との交配しかできないので、集落を作って生活していたのだが、黒狼族が移動してしまった関係で、生活圏内まで魔物が出るようになってしまったので、居住区に保護を求めてきた。気性が戦闘向きではない事や、スキルが移動に特化した物になっているために、保護される事への忌避感はない、保護されてからの仕事として、馬車の運搬を頼んだら、快く承諾してくれた。


 馬族が馬車を率いて、商業区まで移動する。

 緊急時には、エリンに頼んで、眷属に飛んでもらう事になっている。それ以外では、竜族からログハウス周辺に滞在している竜族に荷物を運んでもらう事になっている。


 ログハウスは、俺と眷属だけしか居ない場所になっている。謁見の間も作られているが、客が来る事が殆ど無い。ダミーの街として、商業区があるので、客とは商業区で会う事になりそうだ。

 しかし、ログハウスや居住区とは別に、客人を迎えるために作った宿区も大幅に拡大した。


 ここまでは大した問題はない。

 小さな問題は沢山有ったのだが、スーンたちが対応できない物ではなかった。


 今、俺の前で発生している面倒な事に比べれば大したことが無いといい切れる。

「クリス。なんで、お前がここログハウスに居る?」

「え?カズトさんの所に押しかけているだけですよ?」

「だから、なんで”押しかけて”来たのか聞いているのだが?」

「それは、もちろんカズトさんのお嫁さんになるためです」


 そんなない胸を大きくそらされても、嬉しくもなんともない。


「はぁ・・・だから、この前言ったよな。そのつもりは無いし、婚姻するにしても、10年後くらいで十分だと!」

「うん。僕も、その時に”待ちます”と言ったよ?」

「あぁ聞いた。だから、なんで”ここ”に、クリスが居る?商業区に戻ったのではなかったのか?」

「うーん。商業区に僕の居場所が無いよ。化物の僕が居られるのは、ここだけだよ」


 これの繰り返しだ。

 確かに、クリスのスキルや種族名は、魔物よりだ。正確には、先祖返りでスキルを得ている可能性が高い。カスパル=アラリコ・ミュルダ・メーリヒと、先祖返りの可能性について話をした。クリスの母親は、種族的には、”人族”で間違いはなかった。母方の父。クリスから見たら祖母に当たる人物の”父親と母親”の種族はわからなかった。深く調べても、幸せになる人がいない事から、クリスの母方にエントやドリュアスが混じっていたのだろうと結論付けた。母方の祖母は、まだ健在だったので、話を聞く事ができた。その中で、曾祖母は、アトフィア教から逃げるように暮らしていたと言っていた。


「クリス!リーリアも、エリンも、とりあえず、自分の部屋に行け!ここで、寝たやつは、明日から風呂は別だからな!」


 皆の動きが止まる。

 別に、行為を知らないわけではない。経験だって”前世”ではある。しかし、若返って精神が身体の年齢に引きずられている感覚に陥る事が有っても、未発達な子供と行為をしたいとは思えない。


 それに、そもそもの問題が解決していない。


 ミュルダで、住民たちを失礼だとは思ったが、鑑定を行っていたが、種族で”ヒューム”を見つける事ができなかった。

 俺の素体は、転移してきた物をベースにしている可能性が高い。そうなると、この世界の人族と、俺では違うのではないだろうか?しかし、カイやウミだけではなく、鑑定を持っている者が俺を見ても”種族は人族”だと言っている。

 そんな俺が子を作って問題ないのだろうか?この辺りを知りたいと思っている。なんとか知る方法を模索したい。


 もう一つの目的であった居住区の獣人族の生活の安定と俺が居なくても大丈夫な状態を作る事は、概ね達成できたと思っている。

 細かい問題は発生するが、商業区を使った交易で問題が解決するだろう。まだ数回の取引を行っただけだが、大きな問題には至っていない。難民たちも、獣人族に偏見がないか少ない者たちなので、問題は発生していない。ダンジョン産の素材を活かした取引も問題はないと聞いている。

 それから、俺が提供した”情報レシピ”による甘味や酒は、商業区に移住してきた者たちにも好評だという事だ。アレンジ商品はまだ出ていないが、そのうちアレンジした物も出てくるだろう。


 居住区に関しても、妊娠する者が出始めた。そして、ブルーフォレストから、続々と獣人族や亜人族が集まり始めている。


 そのための、棲み分けも始まっている。

 意識あり、コミュニケーションに問題がない魔物やハーフの存在も認識された。

 魔物由来だが、数世代ブルーフォレスト内で生活する事で、集落を形成している者達も居た。馬車仕事をしてもらっている、ケンタウロス族のような存在だ。沼地や水辺を好む、リザードマン。スパイダーの進化でもあるアラクネ。竜族と人が交わって生まれた種族のドラゴニュート。山羊の下半身を持つサテュロス。ハーピーと人が交わって生まれた種族の!有翼人ユ・ミン・クオ・リャン

 あとは、(酒の)噂を聞きつけてきたドワーフ種。エルダーエントやドリュアスの事を聞きつけた、エルフ族。


 あとは、隠れ住んでいたハーフ種たちが集まってきている。

 そのまま居住区の住民になる者や、商業区やSA/PAで商売を始める者。種族でまとまって、ダンジョン内の作業を受け持つ事にした者たちは、そのままダンジョン内に住む事にしたようだ。


 そこで、俺が決めたルールは

・居住区/商業区/宿区を含む区内で、種族同士の喧嘩認めない。

・種族の大小は関係なく、種族代表を1人出し、合議制で運営を行う事。

 これだけだ。


 後は、合議制で作られた、族長会議が決める事になっている。

 決まった事は、俺に上申されてくるが、ほぼスルー状態になっている。却下したのは、各部族から、俺に側室に出すという提案だ。そんな事をしなくても、これからもここで生活して恵みを享受してよいと伝えたのだが、族長会議は、手を変え品を変えて、俺に側室(正妻は、クリスかエリンだと思われているらしい)に入れてこようとする。


 そこで、俺は、族長をログハウスに呼び出した。


「今の議長は、ヨーン=エーリックでいいのか?」

「はい。ツクモ様」


 皆が、頭を下げている。


「そうか、族長会議で決まった事は尊重するが、いい加減に、俺への側室の斡旋は止めないか?まだ、俺は正室も側室も作るつもりはない」


 黙って聞いている。これで解ってくれればいいのだが・・・。


「ツクモ様」

「なんだ?」

「族長会議の議長として、ツクモ様には、正妻が無理なら、側室や愛人を作って頂きたい」

「だから、却下だ。それに、俺に差し出される女も、好きな男が居るだろう?俺は、恨まれたくない」

「それは大丈夫です、族長会議で話をして、年齢がツクモ様と同じ位で、自ら望んだ娘の中から、ツクモ様の側室にしていただきたいと思っております。そうしなければ、未婚の女の半数以上が、ツクモ様の所に押しかける事になってしまいます」

「は?」

「いえ、ですから、未婚の半数以上をお相手していただけるのなら、儂らもこれを強くいいません」

「だから、なんでそうなる?俺は、正妻や側室に入ったからと言って、その種族を優遇する事はしないぞ?逆に冷遇すると思うぞ?」

「簡単な事です。ツクモ様。我らは、この地が続く事を祈っております。その上、女は強い者に惹かれます」

「ん?」

「不敬ながら、ツクモ様は跡継がいらっしゃいません。今、この地があるのは、ツクモ様のおかげです。我らが求めるのは、安定なのです」

「だったら、族長会議がこの地を安定に導けばいい」

「それは無理です。ツクモ様がいらっしゃるので、儂ら、族長会議は成り立ちます。ツクモ様がいらっしゃらなくなったら、族長会議は早々に崩壊してしまうのでしょう。これは、族長会議に参加していない。種族も同じ意見です。ですので、ツクモ様には跡継を、ツクモ様の後で、我らが主と仰ぐ方を欲しているのです」

「・・・それは解った。しかし、まだ俺は成人前だ。この議論は、成人後。俺から言い出す事にする。そして、少なくとも、妻は1人だ。側室や愛人は作らない。子供ができない時には、その時に、改めて考える。それでいいか?」


 族長たちは、お互いに顔を見合ってから、議長になっているヨーン=エーリックが、俺の前に一歩進み出てきた。


「ツクモ様。ありがとうございます」


 族長たちは、それで満足したから良しとしよう。

 成人の年齢を定義していないけど・・・揉めそうだから、後で告知だけしておこう。ミュルダで聞いて回った感じでは、15歳が成人として扱われる年齢らしいが、個人的な感覚では、20歳だというのが抜けきれていない。さすがに、20歳というと反発が起こりそうだから、18歳としておこう。


/*** ヨーン=エーリック Side ***/


 ふぅ恐ろしかった。

 今回は、スーン殿だけじゃなく、眷属の皆さんも協力的だった。竜族の長まで、居住区に来られて、話に加わってくださった。


 そこで、儂らの意見としては、跡継は一日でも早いほうがいい。

 しかし、どこかの種族に偏ってしまうのは問題である。そこで最初に出たのが、全種族を側室に迎えてもらって、種族別に1人以上の子を作ってもらい、種族代表として迎える事だ。

 正妻には人族か竜族から迎えてもらえれば、正妻の子を、儂ら種族が支える事ができる。理想の形ができると考えた。この提案を、スーン殿にした所、多少の変更・・・ドリュアスやハーフ族も加える事が条件に追加されて、ツクモ様に上申され・・・見事に却下された。

 そこで、儂らは、側室になる年齢を、ツクモ様に合わせる事にした。希望者を募った所、未婚女性の8割が集まるという自体になってしまった。その中から、スキル構成や、容姿などを考慮して、種族代表を決め、ツクモ様に上申した。


 これが二回目の却下だ。


 我らは諦めない。次に取った手は、スーン殿から全面的な協力を得て、種族から各3名程度の側室候補を選び出し、ツクモ様の居住区であるログハウスに行儀見習として出す事だ。我らはそれ以上は何もしない。ツクモ様の身の回りの世話をしながら、子を生せればよいと考えた。

 しかし、これも却下された。ツクモ様からは、身の回りの世話にそれほどの人は必要ないという事だ。


 これが三回目の却下だ。


 4回目は、人数が必要ないのなら、持ち回りではどうかという提案にしたが、却下された。基本は、自分で行うからとい事だ。

 5回目は、ツクモ様の世話をしているドリュアスの作業を手伝うという事だが、我らの考えを先読みされたのか、却下された。

 6回目は、もう一度直接、全種族とは言わないので、1人でも2人でも構わないので、側室を作って欲しいというお願いをしたが、却下された。


 7回目を考えている時に、ツクモ様から族長会議全員の呼び出しが入った。


 その時に、我らの考えは、すぐにの跡継は難しいと考えるが、我らが跡継を望んでいる事や、その理由をご理解いただく事を目標とした。そして、できれば、ツクモ様から、年齢的な制限を設けていただく事になれば、我らも少しは安心できる。


 そして、我らは最大限の成果を上げる事ができた。

 ツクモ様から、成人後に妻を迎えるとお約束頂いたのだ。お世継ぎの事も明言された。

 妻を1人と言うのは、少ないと思うが、ツクモ様のお考えに従う。


 今の所、正妻候補は、ミュルダの領主だった、カスパル=アラリコ・ミュルダ・メーリヒの孫娘のクリスティーネ=アラリコ・ミュルダ・マッテオだろう。種族が人族だと偽装していたという話だが、人族の街で暮らしていた事や、ツクモ様への態度から、正妻候補と考えていいだろう。もうひとりは、眷属だが、竜族の娘エリン・ペス・マリオンだろう。

 どちらでも、我らの事は考えてくれるだろう。そして、ツクモ様に却下された、側付きもご許可いただける可能性が高い。領主の孫娘なら、そういった環境にもなれているだろう。竜族も力強いものが側室を作るのは当然と考えてくれる。ツクモ殿の側使いは無理でも、正妻の側使いに獣人族のものを置くことはできるだろう。


 これで、族長会議の懸案事項であった、ツクモ様の跡継問題は、ひとまず終結するだろう。


 次は、酒問題と、女性陣からの熱烈な要望による甘味問題。

 そして、ツクモ様を讃えるまつりの開催問題。


 まだまだ、族長会議で決めなければならない事が多い。

 もう既に、族長を引退して、後進に譲って自分は悠々自適生活に入った元族長も多い。儂も、任期の1年が終了したら、商業区で店を開く事にしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る