第十七話

 俺の所に、冒険者から”会談を申し込む”と、いう連絡が来た。正確には、俺ではない。

 ”デススパイダー・デスアント・デスビーナの主人に会って話がしたい”と書かれていた。それなら、ライやヌラ/ゼーロ/ヌルなのだろうけど、話ができるとは思えないし、本蟲?から、俺が大主だから、俺が出るのが良いという事になった。


 相手も、”あるじ”が言葉が通じるのかわからないようで、羊皮紙に書かれた会談の申し込みを、俺が用意した温泉に貼り付けていったようだ。

 言葉が理解できれば、これを持っていくだろうと考えた結果だ。先に、自分たちの情報を出してくる辺り、ある程度の誠意は見せてくれていると考えていいだろう。それに、監視をしている魔蟲に話を聞く所、ブルーボアやフォレストラビット辺りが限界で、ホーンラビットでは勝てそうにないという事だ。


 最初は反対していた、カイやウミやライも、その報告を聞いて、それなら、自分たちも一緒なら会談を受けても良いだろうという事になった。


 会談場所は、ログハウスを予定している。エルダーエントのおかげで、ログハウスの周りの環境は綺麗に整った。


 ログハウスの周りを囲うように、五稜郭ができている。予定通りに、5体のエントも進化している。エントは不思議生物で、1体が進化して、その進化した物が他を率いたほうが強くなるらしい。五稜郭の中心部以外は好きにして良いと伝えてある。

 魔蟲やカイやウミやライと相談して作る物を決めているようだ。ログハウスもいつの間にか、2階建てになって豪華になっている。


 どうやら、カイがいい出したようだ。仮住まいだが、俺が住む場所だから、豪華にしたほうが良いだろうという事だ。


 内装もそれなりに作っているようだ。これは、ヌラやヌルやゼーロが率先して作っている。スーンも木材の提供で協力したようだ。

 エルダーエントのスーンは、ログハウスの隣に根を下ろすことにしたようだ。スーン→ライで頼まれたのだが、ドリュアスたちを、五稜郭に招いても良いかと聞かれたので許可しておいた。明日には、到着するようだ。


 ログハウスの門の前が、五稜郭の頂点が来るようになっている。そこを守る、エントから右回りで、ヌン/ソーン/サーム/スィー/ハーと名付けた。種族的には、違う進化をしているという話だが、俺には鑑定を使わないと区別ができない。

 ライが言うには、ブルーベア程度では群れで来ても対処可能だと言っていた。


 冒険者には、ログハウスに来てもらう事にした。

 5日くらいで来るとは思うが、先方にも予定があるだろうから、スーンが認識できたら、俺に連絡してもらう事にしている。


 翌日に、全裸の女性(高校くらい)が30人ほど、五稜郭に到着していた。スーンが言っていたドリュアスたちのようだ。大きさもまちまちだったが、とりあえず服を着てもらう事になった。ヌラたちに言って、ドリュアスたちの為の服を作ってもらった。セーラ服を着せると似合いそうな年齢だが、俺の品格を貶められそうだったので、小さいドリュアスには男装を、大きめなドリュアスにはメイド服を着せた。ログハウスの管理をしたいと言うことだ。交代で、本邸の管理もしてもらう事になった。


 これらの準備と体制を整えている間に、冒険者から返事が届いた。

 一人がこちらに向かうということだ。全部で4人なのはこちらは把握している。一人斥候役が居るので、その人物がこちらに来るようだ。どんな話になるおのかわからないが、悪いことにはならいだろう。冒険者の様子を見る限り、少なくとも俺たちに敵対する意思は無いようだ。


/***** ピム Side *****/


 イサークとガーラントに、手順を説明した。

 鍛冶場に、メモを残す。セーフエリアを用意してくれた事への礼を述べてから、一度会談をしたい旨のお願い。会談内容として、何が望みなのかをストレートに聞くという事だ。

 危険はあるが、現状を打開するためには必要なことだろう。


 返事が来たのは翌々日だ。

 大樹がある所まで来て欲しい。そうしたら、長が話をするという事だ。丁寧な字で書かれていた。こちらの事情がわかっているのだろう、なんの肉か聞いてはダメそうな肉が置かれていた。血抜きも完璧に終えられていて、切って焼けば美味しいだろうことがわかる肉の塊と、野草や薬草だと物も数多く置かれていた。

「イサーク。ガーラント。俺一人で行ってくる。距離的には、3日程度だろう・・・10日経っても俺が帰ってこなかったら逃げろ」

「ピム。それなら俺が!」

「イサーク。お前はリーダだ。逃げる時に、リーダが居なくてどうする?」

「それならば・・・」

「ガーラント、お前の足では万が一のときに逃げられない。そう考えると、俺が行くのが一番いい」

「・・・ピム。お前」

「わかった。だが、ピム。必ず帰ってこいよ」

「イサーク。もちろんだよ。こんな所で死ぬ気はない」


 最低限の装備と保存食を持って、大樹に向ってあるき始めた。


 ここでも順調だ。やはり、強者の気配が周りからする。俺を取り囲むように、周りを警戒してくれているようだ。

 半日程度進んだ所で、休んでいると、デススパイダーが一匹近づいてきた。そして、手紙を渡された。


”案内を用意した、渡した蜘蛛に付いてきてくれ”


 と、だけ書かれていた。デススパイダーについて来い?”死を告げる”デススパイダーを単なる道案内に使うのか?


 どうやったら・・・いいのかわからなかったが、デススパイダーが、僕を見ているように思えたので、うなずいてみると、前に進み始めた。

 着いてこいという事なのだろう。


 デススパイダーと移動を開始して、4時間が経過したくらいだろうか、デススパイダーが止まった。広く開けられた場所だ。レッドアントやレッドビーナが群れで居た。僕と、デススパイダーが到着すると、ブルーボアの肉と野草を置いて、姿を消した。

 なんの冗談かと思ったが、どうやら竈に火を付けて焼いている最中のようだった。続きは、僕にやって欲しいようだ。野営で簡単な料理を作る事もあるので、その場にある物で焼いた肉に合うように、削いだ肉と細かく切った野草を入れたスープを作った。冗談の様な話だが、塩や胡椒まで用意されていた。

 自由に使っていいのか?デススパイダーに問いかけると、器用に片足を上げる動作をした。言葉がわかるようだ。そんな話は聞いた事はないが、一部の魔物を眷属化するスキルがある。それを使えば、意思疎通ができるようになると言っていたが、このデススパイダーを眷属化している者が、会談の相手なのか?


 塩があるだけで、肉が美味しくなる。それに胡椒まで使える。スープも味が違ってくる。

 大きな肉の塊は、一人で食べられなかったので、デススパイダーの前に置いたら、器用に食べてくれた。どこから現れたのか、デスアントやデスビーナも一緒に食べている。食べ終わって、なにやら礼を言われているように思えた。


 体調管理のスキルを使って、寝ないで移動するつもりだったが、デススパイダーが作られた寝床に案内してくれた。自分たちが見ているから寝てくれとでも言っているようだった。疲れていないと言えば嘘になる。そのまま寝ることにした。


 朝起きた。

 起きられた。死んでいない。でも、横にデススパイダーが居る。夢ではなかった。ミュルダに居る部隊の連中に話しても、夢でも見たのかと言われるのだろう。最悪は、精神異常者に思われるかも知れない。


 今日も、デススパイダーと移動をする。驚いた事に、食事は一日3回するようだ。

 夜と同じ様に、材料が用意されている。それを僕が調理する。昨日よりも、レッドアントやレッドビーナやレッドスパイダーが増えているのは見間違いだと思いたい。デススパイダーがなんで3匹も居るの?あれって、ファイアアントやパラライズビーナまで居ますよね?

 意識しちゃだめ。考えない。


 それから、団体での移動になった。僕が一番速度が遅いので、僕に合わせる形になってしまっている。

 これでも、ミュルダでは一二を争う速度を持っているのだけどな。早駆のスキルを使えばもっと出るかもしれないけど・・・。


 3日後。大分、木に近づいてきた。

 夜には、木が大岩の上にあることがわかった。大岩からは、水が滝になって流れている。それだけ、岩の上は、水が豊富だということなのだろう。落ちた場所から川ができている。一緒に移動していた、魔蟲はここまでのようだ。最初から僕を案内してくれているデススパイダーだけ残るようだ。


 そう言えば、イサークも当初はこの木を目印にしていた。

 もしかしたら、その通りに進んでいたら、ここの住人と敵対していたかもしれない。そうなれば、死んでいたのは間違いなく僕たちのほうだろう。


 岩の下で休んでから、翌日に上がるようだ。

 数日一緒に居るだけで、デススパイダーの言いたいことがわかるようになってくるから不思議だ。考えてみると、これだけ優秀な護衛は居ない。


 その夜は静かに過ごせた。料理も作らなくて済んだようだ。


/***** カズト・ツクモ Side *****/


 俺は今悩んでいる。

 まずは簡単に終わる事から、悩みを解決する事にした。冒険者の斥候が明日にはログハウスに到着するようだ。それに合わせて、俺もログハウスに行く予定にしている。優秀なメイドたちのおかげで、ログハウスの中はかなり見栄えがいいものになった。

 ドリュアスたちは、全裸だったのは木に擬態するときに服があると邪魔になるからだった。驚いたのは、エントも一つ進化する事で、人族に擬態する事ができる様だ。ただ、木のほうが楽なので、そうしていると言っていた。人族に擬態できる者は、言葉での意思疎通もできる。


 エルダーエントに関しては、自分の眷属を魔力が続く限り生み出す事ができるようで、五稜郭の管理が断然やりやすくなった。そして、本体を残したままの擬態ができるようで、俺の執事になってもらっている。戦闘には向かないと言っていたが、ライが言うには、ヌラやゼーロやヌルたちと同等の強さだと言うことだ。それが、どの程度なのか俺にはわからないが、この森程度なら単独で行動しても大丈夫だという事だ。

 ドリュアスたちは単独では難しいが、エントと違って人形で居るほうを好んだ。武器や防具を作って渡したら喜んでくれた。メイド服を着た者たちは、俺の身の回りの事をしてくれる。料理もその一つだ。男装のドリュアスたちは、スーンの下で執事仕事をしてくれてる。主に、スキルの整理だ。


 50階層突破のボーナスが、レベル7回復とレベル6融合だった。回復は使い道がいまいちわからなかったが、融合はすぐに魔核に付けた。これを、スーン配下の執事たちに渡して、スキルでレベル1-3程度の物は、融合できそうな場合は、融合してもらっている。


 カイとウミとライは、今53階層を探索している。

 54階層への道がわからないからではない。53階層で出た、”にわとり”のでかい奴の卵を確保してもらっている。少し試したい事がある。


 ダンジョン魔物を捕えて、外に連れ出しても死んでしまうが、それでは卵を持って帰ってきて、地上で孵化したらどうなるのか?

 数匹ではわからないので、数十匹単位でやってみようと思って、卵の確保を頼んでいるのだ。


 エントもドリュアスも、森の中での生活が長く、それに植生に関しても詳しい。

 俺が、こんな感じで毒が無いものがあったか?と聞くと、探してきてくれる。そのうえで、蜂たちが交配をしてくれる。それを、スキル速度向上で成長させる。水や肥料が足りなくなったら、エントやドリュアスが指摘してくれるので、必要な物を用意して、与える。

 さすがに、無いと思っていた”稲”まであった時には、狂喜したが、時期的に今はまだ植えられそうにないので、次の春に水田を作ろうと思っている。

 ライの眷属の魔蟲たちが、害虫を寄せ付けないのも、果物や野菜が無事に育つ基盤を作るのに役立っている。

 俺だけなら、五稜郭の広さじゃなくて、ログハウスの周りだけで十分な収穫ができるが、眷属たちが嬉しそうに働いているので、止められないでいる。ダンジョンの低階層での畜産や開拓もうまく進んでいるようだ。餌がゴブリンやコボルトという事さえ気にしなければ、優秀な産業だと思える。


 次は、発酵食品や海産物だな。

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