第十六話

 45階層のセーフゾーンは、いつものようになっている。

 スキルは、レベル6石化がもらえたようだ。カイとウミとカイと眷属たちも無事スキルを得ている。初踏破時のボーナスは、どうなっているのかわからないが、少しだけいいものが出る時に、全く”ハズレ”の時がある。ガチャだと思っていればいいのだろう。

 人数?的な縛りは無いが、ボス戦に参加していなかった物は通常の踏破ボーナス相当で、初踏破ボーナスは、ボス戦に”はじめから”参加していた者だけで、呼子で呼び寄せた場合は対象にはならない。それでは、最初から大量に連れて行こうとしても、ボスが出てこなかったり、魔法陣が作動しない事が確認されている。扉から入った場合には、11人までで、魔法陣の場合には、4人までだ。魔法陣は、連続で使う事ができるようだが、魔物である眷属だけでは転移して来ないので、検証は後回しにしている。


 さて、それほど消耗はしていないので、今日はこのまま45階層の攻略に取り掛かる。

 44階層と同じで草原ステージの様だ。今日は、ライも居るので、眷属を呼び寄せて、物量作戦で行ってみる事にする。ライの眷属は、ヌラ/ゼーロ/ヌル以外では、7回ほど進化した者が5匹ずつ出ている。名付けが関係しているのかもしれないが、5匹を頂点にした序列が出来上がっている。

 このくらいの階層だと、3回ほど進化した者で対応可能なので、4回進化した者たちをリーダにして、各魔蟲から二匹ずつだした部隊を編成した。

 リーダ+蜘蛛2匹/蜂2匹/蟻2匹を10部隊作成して各方面を探索させる。途中で出会った魔物は倒して、倒した部隊で吸収して良いと伝えた。


 俺とカイとウミとライと、各魔蟲のトップたちも探索をしながら、報告を聞いている。


 セーフエリアは、特徴的な魔法陣をしている、その部分にはダンジョン魔物は入ってこない。

 そして、ダンジョンの不思議な事に、草原エリアなどは、どちらか一方に歩いていると、元の場所に戻ってきてしまう。球状の様になっている様だ。だから、壁まで行ったら、南に行くとかいう方法が使えない。

 地図というか、オートマッピング機能が欲しい。


 俺たちは、とりあえず、目印になりそうな丘や木を見つけて、そこを目指すように歩いている。


『あるじ。魔法陣を発見したと連絡があった』

「そうか、ライ。その場所はわかるか?」

『うん。ドライが案内できる』

「わかった。ドライ。案内してくれ」


 人の首でも簡単に跳ね飛ばしそうな、羽の音をさせながら、ドライが道案内をしてくれる。

 3回ほど魔物との戦闘が有ったが、カイが飛び出して、ドヴァとトリが糸で動きを封じて、俺がトドメを刺す。

 簡単な作業だ。


 1時間くらい移動したら、魔法陣が確かに展開している。

 45階層フロアボスからの招待状なのだろう。順番でいうと、単独のボスの可能性が高いが、ダンジョンなので何があるかわからない。


「いくぞ!」

『はい』


 眷属たちの声が重なる。

 魔法陣の上に乗って待っていると転送された。


 初めて見る魔物だが、ミノタウロスで間違いないだろう。5m近い体躯で、牛のような面構えで、巨大な斧を構えている。

 45階層だから中ボスだとは思っていたけど、いきなり強そうな魔物が出てきた。


 しかし、やる事は変わらない。

「ウミ。スキルは好きに使え!」

『わかった』

「カイ。俺と一緒に足から崩すぞ」

『はい』

「ライ。眷属に頭上を取らせて、そこから目や耳を攻撃。ライは、斧を酸弾で狙ってくれ!」

『わかりました』


 武器を使えなくして、目と耳を潰せば、後は距離をとりながら削ればいい。

 RPGではないのだ。肉弾戦なんかやってられない。攻撃を受けないで、相手を倒す。


 戦闘はあっけないくらいに終わった、俺とカイが右足に攻撃を集中する。斧を溶かす勢いで、ライの酸弾が飛ぶ。力任せに振り回すだけの武器なぞに当ってやる義理はない。右足のダメージが蓄積してきた所で、ウミが左足に雷弾を当てる。

 蜂たちが、目を潰したのが最後になって、牛頭は倒れた。蜘蛛たちが、腕と足を糸で拘束して、勝負あり眉間に剣を突き立てて終わった。


 フロアボスの魔力は、カイとウミとライに吸収させる。眷属たちも、カイとウミとライに許可をもらって、少しずつ吸収しているようだ。

 俺は、フロアボスの魔核を取り出した。肉は、食用になるらしいので、ライに確保をお願いした。帰って解体してみればわかるだろう。血抜きと内臓の処理は、肉が臭くなりそうだから、この場で行う事にする。残った物を、ウミに氷漬けにしてもらった。

 内臓も食用にできるらしいが、カイとウミとライと眷属たちで食べてもらう事にした。


 今回は、スキル2枚が出現した。レベル5の様だ。確認の為に、取り込んでみたが”レベル5体力向上”と”レベル5攻撃力向上”だった。

 戦っていたのは、15分くらいだったので、時給で考えると8万相当だが・・・命の値段として考えると安いな。


 このダンジョンが特別に安いのか、それとも、物価が安いからこれでやっていけるのか?


/***** ナーシャ Side *****/


 私の名前は、ナーシャ。本当は、もっと長ったらしくて、偉そうだけど、もう何年の本当の名前は名乗っていない。それに、ナーシャという名前が気に入っている。ミュルダの街で冒険者をしている。最初は、兄さんを追って、街に出た。そこで、黒狼族のイサークと出会って、パーティを組むことになった。

 いろいろ有ったけど、今はそれが良かったと思っている。最初は二人だったけど、その後で、ガーラントが加わった。3人で、サイレントヒルでの採取依頼や街から街に向かう、商人の護衛をやっていた。


 知らない間に、兄さんが、街領隊と言われる隊の副長になっていた。

 そんな兄さんの紹介で、ミュルダの領主様からの依頼を受ける事もあった。


 本当にいろいろあった、説明するにしても、忘れている事もあるだろう。


 でも、今、私は、イサークと一緒に寝ている。

 表層部ならともかく、奥地に踏み入れたら生きて帰ってこられないと言われる、ブルーフォレストの多分奥地だ。


 多分と付けているのは、ここが奥地だと信じられないからだ。確かに、ホーンラビットを簡単に殺してしまうような、デススパイダーと言われる魔物が生息している場所なのは間違いない。


 でも、ここでは魔物は、表層部では、簡単に見つける事ができない。ブルーラビットやブルーボアが大量に生息している。まるで私達に狩られるために居ると思えるくらいだ。それだけではなく、地面から水・・・お湯が湧いている場所が見つかった。何日も、同じ服を来て、汗や魔物の体液を浴びた身体のままで・・・イサークと・・・そんな事をしたくなかった。だから、水場で身体を清めたいとお願いした。

 皆同じ気持ちだったのかもしれない。でも、水場は生きるために貴重な場所だ。別の場所を探す事になって、見つけたのがお湯が湧いている場所だった。これが本当に気持ちがいい。二箇所ある事から、一箇所を、私専用にしてくれている。

 深さも丁度いい。中に椅子の様に石がなっていて、そこに座ると、丁度、肩くらいまでお湯が来る感じになっている。イサークに聞いたら、もう一つの方も同じような感じらしい。なんか、身体の汚れだけじゃなくて、疲れも全部抜けていくような感じがする。イサークも、肌が綺麗になったと褒めてくれる。


 この場所が、どうなっているのかわからない。

 でも、生活に困らないようになっているのはわかる。ガーラントが、鍛冶仕事がしたいとおもったら、偶然、適した場所が見つかる。武器防具の手入れもこれでできるようになった。ブルーボアでは、防具の耐久性に問題が出そうだと話していたら、翌日にいつもの狩場に向ったら、フォレストボア数体とブルーベアが戦っていた。どちらも致命傷をおっていた。戦いが終了した後で、ブルーベアをイサークとガーラントが簡単に倒していた。

 ブルーベアの皮で鎧を補強したり、骨を使って強化を行った。剣の手入れの為に必要な鉄鉱石や銀鉱石なども”なぜか”見つかっている。


 そのうえ、食事に困らないように、アプルやピチの実がなる木もあった。

 通常、アプルやピチなど、街で買おうとしたら、レベル4が最低でも1枚は必要になる。そんな高級品が、食べきれないほど見つかっている。本来なら、ブルーフォレストの魔蟲たちの食料になっているだろう。魔蟲じゃなくても、ゴブリンやコボルトやオークが好んで食べると言われている。それらの魔物が来るかもしれないと思ったが、現れる気配はないし、荒らされた形跡もない。そして、ブルーフォレストの特徴なのだろうか、すぐに実ができてくる。だから、贅沢だってわかっても、毎日の様に食べている。


 正直な事を言えば、街に戻らなくてもいいかなと考え始めている。

 イサークは賛成してくれるかもしれないけど、ガーラントはどっちだろう・・・ピムは反対するかな?


/***** ピム Side *****/


 俺は、ピム。普段から、俺と名乗っているが、気を抜くと、僕と言ってしまう。男だから、俺と言わないと笑われてしまう。


 俺は、ミュルダの街領隊の斥候をやっている。今でもそのつもりだ。隊長からの命令で、サラトガに言っている冒険者である、ガーラントに書簡を届けに出た。その命令には続きがあって、口頭命令で、ガーラントに書簡を渡したら、そのままガーラントと一緒に行動しろという物だった。

 一緒にいるだろう、イサークとナーシャを守れというのが主な理由だった。隊長は、副長の妹であるナーシャを気にしている。副長は、多分もう死んでしまっただろう。領主の次男に付き合って、サラトガに向ったまでは確認が取れている。そこから、ダンジョンに向ったのは、ほぼ間違いないだろう。レベル7回復か最上なのは、伝説上のレベル9完全回復を得る事が目的だ。もう2年以上が経過していて、サラトガの街にも、ミュルダの街にも戻ってきたという知らせがない。

 斥候や伝令をやっていると、命の危険を感じるのはよくある。それでも、生き残る事にかけては、誰にも負けないと自負している。


 ガーラントたちと合流して、サラトガの街を抜け出したまでは良かった。ブルーフォレストを抜けるのも戦略的に理解できる。魔物との戦闘もあるだろうことは考えてた。最初に、ブルーベアに出会った時には、やばいが命の危険を感じる程ではなかった。もしかしたら、腕の一本くらいは持っていかれるかもしれないと思ったが、なんとか撃退できた。


 それから、ブルーフォレスの中での強行軍も理解できる。イサークはリーダとしての能力も高いようだ。安心して、判断を任せられる。


 僕の直感がまずいと警鐘をならしている。それも、いままでどんな命の危険を感じた時よりも激しく。

 頭が見た物を思考することを拒否している。死を覚悟した。


 ”デススパイダー”名前の通りに、死を告げる蜘蛛。


 イサークやナーシャやガーラントには言っていないが、ホーンラビットの1件がデススパイダーの存在を感じた初めての出来事ではない。ブルーベアとの死闘を終えて、僕たちがブルーフォレストを進んでいると、誘導するように、デススパイダーやデスアント・・・デスビーナまで現れていた。本来なら、各々が自分のテリトリー内で活動していて、それぞれが協力する事はない・・・はずだ。それが、協力しているように感じる。


 ガーラントにだけは、告げたが、イサークやナーシャが楽園だと思い始めている場所は、数十m離れた所に、魔蟲たちが居る事は確認している。そして、僕たちの生活をサポートしてくれているように思える。

 拠点に定めた場所も、誘導されてきている。

 お湯が湧いている場所も、僕が先に歩いて見つけた様な格好だけど、デスアントの気配を感じて、違う方向に行ったら見つける事ができた。


 ガーラントが鍛冶に使っている場所も、同じだ。そして、素材になるような物まで提供してくれている。


 鉱石もしかり、この前のブルーベアやブルーボアも、足にごくごく細い蜘蛛の糸が絡みついているのを、僕とガーラントが確認している。イサークも気がついているかもしれないが、ナーシャの事を考えて、イサークは何も言っていないのかもしれない。


「ガーラント」

「なんじゃ?」

「普段から、その話し方にすればいいのに?」

「あぁそうじゃな。でも、イサークはともかく、ナーシャにはな」

「わかった、わかった。ガーラントに相談したい事があるのだけどいい?」


 鍛冶場に向かえば、ガーラントが一人で居るのはわかっていた。


「あぁ」

「ピム。俺にもその話聞かせてくれよ」

「え?」


 後ろを振り向けば、イサークが居た。


「なんで?」

「あぁこの前からお前の様子がおかしい事はわかっていたからな。ガーラントに聞いても、はぐらかされていたから、後を着けさせてもらった」

「全然気が付かなかった。僕・・斥候なのに・・・」


「ピム。其奴は、固有スキルで、隠密を持っている。貴様が気が付かなくてもしょうがない」

「ガーラント!」「え?隠密?なんで?」


 それから、男だけで腹を割って話をした。

 イサークは、もともと部族の守り手になるはずだったが、優秀すぎる固有スキルが問題で、斥候や暗殺ばかりやらされて、それが嫌で部族を抜け出した。


 ガーラントの事情は知っている。僕の事も、あらかた話す。

「やはりな。ナーシャの護衛か?」

「そう、正確には、ナーシャと君の護衛だね」

「領主か?」

「ううん。隊長の判断みたい。詳しくは聞いていないのだけどね」

「そうか?それで?」

「あぁイサークも居るのなら丁度いいかもしれない。僕、デススパイダーやデスアントやデスビーナの主人に会いに行こうと思う」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る