第四話

「カイ。ウミ。この辺りに、洞窟は有ったか?」

『・・・』『あったけど・・・』


 二匹が言い淀んだ所から、二匹が根城にしていた場所なのだろう。


「どのくらいの魔物が入り込んでいる?」

『え?あっ僕たちが確認した時には、20体位でした』『うん』


 20体か・・・以外と多いな。草を抜いて、地面を露出させる。


「カイ。ウミ。覚えている限りでいいから、その洞窟を書いてみてくれないか?」

『はい』『わかった』


 二匹は、何かいいながら、地面に洞窟の見取り図を書いていく。

 どうやら、入り口は一つで、それほど大きくないようだ。分かれ道も一つしかなく、すぐに最奥部に到達できる。


「そうか、カイとウミが覚えている限りで、魔物はゴブリンだけだったのか?」

『僕が見たのは・・・あっスキル持ちがいるかも知れません』

『アタシは、コボルトが数体荷物を運んでいたのを見たよ』


 入り口を塞いで、出てくる一体一体始末していくか・・・時間がかかりすぎるな。

 それに、食料調達に外に出ている奴がいると後ろから襲われてしまうし、あまり時間はかけられない。他の魔物が来ない間に、拠点として使える状態にしたい。


「カイ。ウミ。その洞窟が見える場所まで案内してくれ」

『・・・わかりました』『はい!』


 ウミはなんだか、嬉しそうだ。


 広場から、1時間くらい森の中を移動した。少しだけ広がった場所が見えた所で、カイとウミが止まった。

『カズト様。あれがそうです』


 カイの目線を追うと、岩山があり、そこに切れ目がある。高さ的には、2mは無いだろう。1.5m程度だろうか、幅も大人がやっと通れる位だ。確かに、大型の魔物は入ってこられないだろう。拠点と考えると、ちょうどいいのだろう。

 しばらく、監視していると、数体のゴブリンとコボルトが出入りしているのが確認できた。


 出ていった者も何かを持って帰ってきている。

 辺りに、闇の帳が降りてきた。もう帰ってくる者は居ないようだ。確認しただけで、ゴブリンが11体。コボルトが6体だ。


 出ていかなかった者もいるだろうから、拠点化を進めているのだろう、木材や石を持ち込んでいるのが確認できた。あと、何かしらの道具と思われる物も持ち込まれていた。そして、人間と思われる死体もあった。


 この近くに、人間が住んでいる可能性が上がったが、カイとウミは、人間は俺以外見たことがないと言っている。

 人里の事は、棚上げだな。今考えてもしょうがない。


 さて、使える武器は、剣が二本と、知恵と勇気!絶望的だな。戦力比は、3:17~30程度だろう。30と考えると、一人、10体倒せばいい計算だ。はぁ頭かいて寝てしまいたい。でも、拠点は欲しいし、カイとウミに、安心して過ごせる場所を提供してあげたい。何よりも、俺が安心したい。


 状況を注視していると、ゴブリンたちは見張りは出ていないようだ。

 正面に回って見たが、見える位置に、ゴブリやコボルトを確認できない。もしかしたら、スキルで何かしているのかもしれないが、その場合には逃げ出すしかない。


 入り口が思った以上に狭い上に、ターゲットが奥に入っている。カイとウミの説明でも、奥は、広がっているが、入り口の通路は狭いようだ。1対1には慣れるのだろうけど、30体と戦い続けるなんて事は考えたくない。


「カイ。岩山の上はどうなっている?」

『え?わかりません。申し訳ありません』

『アタシ知ってる!沢山土とか石とか有ったよ』

「少し大きめの岩は有ったか?」

『うん。有ったよ!』

「ウミ。ありがとう!」

『えっへん!』


「カイ。ウミ。大変だけど、さっきの場所まで戻るぞ」

『はい』『わかった』


 さっき抜いた草が必要になる。生木も沢山ある。


// 名前:草

// 食用には適さない。水分に、睡眠効果がある。


 そんな草だ。

 広場に戻って、風向きを確認して、枯木の上に草を置いて、火を付ける。立ち上った、緑の煙を鑑定してみると、


// 名前:煙

// 一定量吸い込むと、睡眠状態になる


 当たりだ!

 必要量がわからないから、広場に生えている草を片っ端から根っこから抜いた。木に巻き付いていた、蔦を剥がして、草を束にして縛る。まとめて、洞窟の近くまで持っていく。


 次に、岩山に登った。ウミが言う通りに、堆積した物だろうか、草が生える程度の土や石がある。

 直径1m程度の大きな岩が数個転がっている。1トン超の重さになる。俺に動かせるとは思えないがやってみる事にした。森から、硬そうな木を選んでテコで動かせるのなら転がしたい。


 岩を動かす成功した。うまい具合に、近い場所での支点を作る事ができた。不思議な木だったが、魔力を注ぐと、鉄のように固くなると説明が出ていたので、魔力を注ぐイメージで、5mの木で、5cmの支点位置で動かす事ができた。異世界バンザイだ。


”ズドン”という音と共に、岩が洞窟の入り口の3/4を塞ぐ。


 中でゴブリン共が騒いでいるが、出られるのは、頭や手だけのようだ。

 位置もうまく行った。ゴブリンどもが、岩に体当たりしているのがわかるが、その程度では岩は動かないだろう。


 煙がうまく流れるように、土と岩でかまどの様な物を作る。それから、枯れ木を組み上げて、持ってきた草を上からかぶせてから火を付ける。あとは、木の皮を剥いで作ったうちわもどきで、煙を洞窟の中に流し込む。


 火が強くなりすぎるので、生木を入れて、煙の量を調整する。

 奥まで届いているのかは不明だが、出ている煙と、上から出ている煙の量が明らかに違うし、洞窟と言っても、大きさから空気穴が有っても不思議ではない。カイとウミも、器用に二匹で岩を運んでくる。それで、塞いでいる岩の隙間を埋めていく。


 そのまま、火が消えない程度に、草を燃やし続けた。近くの土が粘り気が有ったので、岩と石の隙間に詰め込んでいく、これで、煙の流出も少なくなる。安全ラインがわからないが、一晩程度送り続ければ大丈夫だろう。


 もうひとり人手が欲しい・・・。


 一人と二匹で、頑張った。

 朝日が辺りを照らし始める。数時間前から、洞窟の中から物音が聞こえてこない。物音で起きてしまう可能性もあるので、一酸化中毒を狙って、岩の隙間から、燃えた炭を投入する事にした。


 カイとウミに、持てる範囲で枯木を集めてもらった。無理の無い範囲でやってもらっている。


 何回目の投入が終わった。

 カイとウミが戻ってきたら、食事に行こうと思っていた。


 二匹が戻ってきた。

 ん?後ろから、何かがついてきている。”ぽよんぽよん”とした生き物で、いわゆるスライムなのだろう?


「カイ。ウミ。そのスライムはどうした?」

『広場に居たから連れてきました』

「え?広場?果物を食べた所?」

『はい。アプルの皮や芯を食べていました。”もっと食べたい”と、言っていました』

『ほら、カズト様にお願いしなさいよ』


 ウミが、スライム向けて命令したら、”りんご”や”もも”を、10個くらいずつ吐き出した。

「これは?」

『剥いて欲しいそうです』

「そのまま食べないのか?」

『・・・。あっ芯だけ食べたいそうです。種とかですね』

「そうか、それにしても・・・」


// 名前:---

// 年齢:0歳

// 種族:スライム・ベイビー

// 称号:なし

// 固有スキル:収納

// 固有スキル:---

// 固有スキル:---

// 固有スキル:---

// 固有スキル:---

// 固有スキル:---

// 固有スキル:---

// レベル1スキル:

// レベル2スキル:

// レベル3スキル:

// レベル4スキル:

// レベル5スキル:

// レベル6スキル:

// レベル7スキル:

// レベル8スキル:

// レベル9スキル:

// レベル10スキル:

// 体力:H

// 魔力:H


 確かに最弱なのは間違いないけど、固有スキルが優秀すぎる。固定化のスキルを持っている俺との相性が良すぎる。

 この世界の人間は、スライムを眷属化して、便利に使っているのだろうか?


 なんとか、眷属化したい。カイとウミは、ペット枠で、スライムはペット兼倉庫役だな。収納が、どの程度収納できるのかわからないけど、最小でも果物20個を収納できる程度の大きさは有るようだ。


「カイ。そのスライムを、俺の眷属に加えたいけど、話を通してもらえるか?」

『・・・大丈夫です。是非と言っています』

「ありがとう。契約を行う」


 スライムに触れながら、眷属化のスキルを発動する。

「名前は、ライ。お前の名前は、ライだ!」


// 名前:ライ

// 称号:カズト・ツクモの眷属


 ライを鑑定して、眷属化ができた事を確認した。

 早く、念話のスキルカードを得ないとな。カイやウミに、間に入ってもらえば話が通じるけど、会話ができないと寂しい。


 ライが持ってきた果物で腹を満たした。

 皮や種や芯は、ライが喜んで食べている。


 果物で、水分と栄養を確保した。

 これからどうしようかと悩んでいると、


『カズト様』

「ん?どうした?」

『ライに、何をしているかと聞かれて、簡単に説明したら』

「ん」

『”隙間から、中に入って確認してくる”と、言っていますがどうしますか?』

「大丈夫なのか?」


 カイと、ライが、何か話している様子だ。

 ウミは、マイペースなのか、果物を食べたら、毛づくろいをしてから、俺の膝の上で丸くなって寝息を立て始めている。


『ライが言うには、ライは、魔力で生きているので、煙はなんともないようです』

「そうか、睡眠の煙も有るけど大丈夫なのか?」


『スライムは、眠らないので、大丈夫だと思います』

「そうか、睡眠しないのなら、睡眠の煙があっても大丈夫か・・・」


 少し考えてみるが、中がどうなっているのかは気になる。

 岩をどけて確認して、まだ動けるやつがいたら大変な事になってしまうかもしれない。確かに、ライが確認してくれたら、安全性は格段と上がる。


「ライ。剣は使えるのか?使えるのなら、一本持っていって、生きているゴブリンやコボルトが居たら・・・」

『カズト様。ライが言うには、剣は使えないけど、スライム特有の攻撃で、”弱っていたら倒せる”と、言っています』

「そうか、それなら頼む。もし、動けるやつがいたら無理しないで逃げてこい。約束だぞ!」


 ライが、その言葉を聞いて、飛び跳ねる。

 命令されるのが嬉しいのか、自分ができる事が有ったのが嬉しいのかわからないが、喜んでいる感情は伝わってくる。


 岩の隙間を埋めていた石と土をどかして、ライが入っていける隙間を作る。

 ライが、岩の隙間から洞窟に入っていく、ドキドキしながら、ライが帰ってくるのを待つ。


 20分くらい経過しただろうか、

『カズト様。ライなのですが、洞窟の中には、起きていたり、生きている者は、居ないそうです』

「わかった。戻ってくるように伝えてくれ」

『あっ。カズト様。ライが、ゴブリンやコボルトを食べていいかと聞いています』

「そうだな。カイとウミがいいのなら、問題ないぞ」

『わかりました。僕たちは、問題ないです。ライに伝えて、最初は、魔力だけ食べさせます』

「任せる。俺は、岩をどかす」


 ウミを、草むらの上にどかして、岩を動かしたときと同じ要領で、洞窟を塞いでいる岩をどかす。


 炭の燃えカスあるが、煙はそれほど心配なさそうだ。

 入り口の辺りは、煤で汚れているが、少し進むとそれも収まっているようだ。入り口付近に、コボルトの死体が転がっている。殴られた跡がある事から、ゴブリンに命令されて、岩をどかすか、なんとかしようとしたのかもしれない。


 中も煙は大丈夫なようだ。少し息苦しく感じるけど、多分大丈夫なのだろう。洞窟の中は、それほど狭くない。入り口から3m位は狭かったが、それをすぎると、学校の廊下くらいの幅と高さがある空間になっている。

 分かれ道から、右側は少し上り坂になっている様だ。ライ(カイの通訳)からの情報で、”右側にゴブリンが居た”と、いう事だ。左側の少し下りになっている所には、ゴブリンも、コボルトも居ないようだ。


 カイと、起きたウミは、右側のライがいる方に行ってもらう事にして、俺は左側の、いろいろな物が有ると言っていた場所に向かう。


 左側の先を暫く行くと、また道が分かれていた。

 カイとウミからの説明になかった事から、ゴブリンたちが作ったのかもしれない。


 分かれ道を下に伸びる、左側を進む。

 少しずつ降りになっている通路を、10分くらい歩いたが、まだ底にたどり着かない。一旦戻る事にする。


 分かれ道まで戻ってきた所で、カイとウミとライが待っていた。

『カズト様』

「あぁすまん。そっちは大丈夫だったか?」

『はい。魔力は、僕とウミで処理しました。ゴブリンキングも居たようですが、死骸は、ライが消化しました』

「あぁありがとう」

『それと・・・』

「なんだ?」

『人族の死骸はどうしましょうか?』

「魔力はなかったのだろう?」

『はい』

「それならしょうがない。ライに処分させたほうがいいだろうな。ここに置いておいても腐ってしまうだろうからな」

『・・・わかりました』

「何か言いたいのか?」

『いえ、人族ですよ』

「あぁその事か、俺は、別に同じだからって人族のほうが大事なんて思わない。話をしたことも無ければ、顔も知らない奴らよりも、お前たち、カイやウミやライのほうが大事で大切だ」

「え?あっありがとうございます」


 先に動き始めていた、ウミが戻ってきて、カイを連れて行った。

 俺は、ゴブリンたちが溜め込んだ物を見に行く事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る