行き当たりばったり 〜奇数話〜
なわ
第1話 目覚めた私
ここはどこだろう。
目を開けたらそこはよくわからな場所だった。
見渡す限りは、建造物の数々、でも、それはビルなんて言葉に当てはまるようなものではなくて、円錐のような屋根だったり、煙突がついていたり。
入り口の扉は、木製のような何かだったり、そうでなかったり。
人が三人横並びに入っても余裕で入れそうなものもあったり、三メートルもありそうな高さだったり、逆に誰が入るのだろうというほど小さいものも。
なんというか、斬新で個性的だ。
そう、個性的。
私の目の前に広がるすべては何とも形容しがたい個性的なものであった。
それらを囲い、明るく照らす素の電球の数々、全部それは古い白熱電球で、昔の温かいオレンジ色を発していた。
その電球のせいか、初めて来たこの場所も何となく懐かしく感じる。
いや、本当に私はここへ来たのだろうか。
私はもっと別の場所にいたような気もする。
目を開けたら、。
あれ、
待って、
私って、
私って、
誰だ?
私が私であることには変わりはない、そうでなければすべてが狂ってしまう。
でも、それ以外の私の部位、人間たらしめる本能的なところではなく、あとから備わる何かが、欠落している。何もない、ぽっかりと。
私は誰だ?
名前は?
どうしてここにいる?
過去のことが何も思い出せない。私にも過去、というものはあったはずなのに。
初めの場所から目を開けて、周りを見渡して、先ほどから一歩もその場から動いていないことに気づく。
そもそも、ここから動けるのだろうか。
どうでもいい気づきに、どうでもいい疑問が付きまとう。
そこでふと、耳が働いた、オルゴールの音が聞こえる、あの、淡白で繊細な音が、そういえばずずっと鳴っていたな、そんなことを思い出した。
ずっとっていつからだ?
私は今ここで初めてオルゴールというものを認識したでも、
でもずっとって…。
私が不安を感じ、服の胸元を掴むと、私はそこで初めて体を服を身に着けているものを認識した。
今までずっとないと思っていた。
おかしい話、認識した途端それらがなかった自分が想像できない。
自分の手や足や服や身に着けているものを確認する。
一人称が私だったから察していたが華奢な腕や足はまさしく女の子らしい体つきで、服もシンプルなものではあるがスカートにニーソックス。そして、身に着けているものはショルダーバッグのみ。
ショルダーバッグはいろんなもので詰まっていて、もうこれ以上はいらないようだが、なんだか今は自分の持ち物を確認したいとは思わなかったので、そのままにしておく。
自分の身なりを確認するために、くるくる回っていると肩より少し長い髪が視界に入った。束ねられていないきれいな髪、その色は茶色がかった黒であんずのいい香りがした。
よし、自分の確認は済んだ。本当なら、鏡かなんかで顔も確認したかったが生憎よさそうなものが周りに無く断念した。
さて、この場所は、この世界は何なんだろう。
ここにいる感覚としては曖昧でふわふわとした感覚、そのため、夢ではないかと疑った。
しかし、それにしてはあまりにもリアルで、感じる風や温度、湿度などは本物そのものだった。
しかし、本物とも言い切れない、ここまでリアルな夢を見たことがないわけでもない、しっかり痛覚が備わっている、とても気持ちのいいものとは言えない夢、その可能性だってないだなんて言えない。
ただ、今確実に言えるのはいくら考えたってこのままでは埒が明かないということ。
じゃあ、どうするかと聞かれれば先に進むとしか私には答えがなかった。
行き先も特になくただただ歩を進める。
通り過ぎるのは個性的な家のようなものばかり、聞こえてくるのはオルゴールの音と自分のローファーが地面をたたく響きのいい音のみ。
オレンジ色の照明も変わらず、少し薄暗い。
今思うと、私は先ほど、先を進むしかないと考えたが、後ろに戻るという考えはこれっぽっちも浮かばなかった。その未来を選んでいたらどうなっていたのだろう。後ろは何もなくただただ無が続いているのだろうか。それとも、これと同じ道が続いているのだろうか。そう考えると、気になり始めてしまった。
だからと言ってきた道を戻ろうなんてことはしない。
なぜなら、それは単純に来た道を戻っているだけなのだから。
考え事をしていると一本だった道が急に開けてきた。そこでここが何なのか何となくわかった。
遊園地だ。
しかもとっても個性的な。
その遊園地にはジェットコースターはなくすべてのアトラクションはそれぞれの建物の中にある、珍しいタイプの遊園地だ。
私が周りに広がるそれぞれのアトラクションの建物に目を引かれ、周りをキョロキョロしていると目の前にマップがあるのを見つけた。
歪んだ文字でこう書かれている。
“僕のお城へようこそ“
その時、背後から人の近づく気配がした。振り返るとそれはとても大きな球体関節人形だった。
人形はかくかくと不自然な動きをすると、人形が手に持っていた風船の束のうち一つを私に渡してきた。
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