朝がはじまる



はっとした。カーテンの隙間が、白く朝を告げていた。

部屋は穏やかに静まりかえっている。遠くに居間の時計の音がする。わたしは窓の近くまで行き、そっとカーテンをめくった。

向こうのマンション群と山の表面が、朝食に使う卵黄を塗ったように輝いていた。一秒でも遅れたらこの朝のはじまりを逃してしまいそうで、わたしは窓の鍵を外し、窓を開けた。

首元を通り抜けて、朝が部屋へ流れ込む。窓から顔を出してみる。遠くのビルのシルエットを残して、空はひとり、大きな朝をはじめていた。髪がひんやりとそこへ沈む。まばたきのまつげを黄金きん色の風が持ち上げる。

わたしは、7階から下へと視線を移す。空からアスファルトに降り注ぐ粒子の反射や、無機質なのものたちが夜を終えて眠りにつく姿は、いつかどこかでみた気がするのだけど。わたしは息を吸い込んだ。忘れていたことがよみがえること、そして、またすぐにつかめなくなることは、夢と同じだ。


小鳥たちが、どこかでしきりにさえずっている。わたしは、まだこれから眠らなくてはいけないことを思い出して窓を閉める。途端に鳥たちはどこにもいなくなってしまう。けれども窓を隔てた向こう側には、確かに朝がはじまっている。

カーテンを閉め直して、ベットに入り目をつむる。もう少しして、目覚まし時計が鳴る頃には、何もかも終わっているよね。そう思いながら、わたしはもう一度眠りに落ちた。




2010.04.26(2018.08 改稿)

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