第5話

お勉強はだいぶ進んだよ。

ゲートはまだ怖いんだけど、少しずつなんとか出来るようになってきたんだ。

でも、ゲートでじっとしてるのは苦手だなあ。


この間は大きな坂をタッカーくんと一緒に走ったんだ。

今までよりも速く走っていいよってお兄さんが手綱で教えてくれる。

だから、体全体を使って走ったんだ。


お兄さんと一緒なら誰にも負けない気がするし、どこまでも走れそうな気がするんだ。

だから、大きな坂を登りきってもまだ行けそうな気がしたよ。

しばらくしたら、タッカーくんがハアハア言いながら声をかけてきた。

「ミツは速いよねぇ。同期で一番じゃないかなー?」

そんなことはないと思うけどね。

ちょっとだけ自慢げな顔してたみたい。タッカーくん、「ボクも負けてらんないなー」って独り言言ってた。


部屋に戻ってご飯を食べて、外に顔を出した。

今日もフェアリーちゃん顔出してくれるかなって思ってね。

そしたら……。


フェアリーちゃんの代わりに、なんだか知らない大人の馬がいるよ。

しかも結構怖い顔してる。

わけがわからなくてオロオロしてたら、その馬にギロッと睨まれて、つい目をそらしちゃった。

おっかないよぅ……。


「脅かしたかな?ごめんなぁ」

その馬がずいぶんと優しい声をかけてくれる。

「休みもらって帰って来たんだよ。君よりは少しだけ年上だけどよろしくなぁ」

え?

先輩なの?

「そうだよー。地方競馬で3つ勝って、今は中央にいるんだよ。ちょっとは強いかな」

ソウナンデスネ。コチラコソヨロシクデス。

あわわ。まだ怖くて変な声出しちゃったよ。


そうしてるうちにお姉さんがやってきた。

ボクの様子を見た後、隣の先輩のとこにも行ってる。

そして「ジパングー」って呼んでる。

隣の先輩、ジパングさんって言うのかぁ。

先輩にも色々教えてもらいたいなあ。

……まだ、ちょっと怖いけどね。


ジパング先輩は、ボクがお勉強に行くのに部屋の前を通ると必ず声をかけてくれる。

「がんばってくるんだぞー」って。

それを聞きながら、ボクらは勉強に行くんだ。


今日は思い切って先輩に聞いてみたんだ。

先輩みたいに強くなるにはどうすればいいんですか?って。

そしたら、先輩は少し照れたような顔してこう言ったんだ。

「いやぁ、俺は全然強くないよぉ。もっと強い馬いっぱいいるもんな」

先輩よりも強いのがいるんですか。

「でもな、俺でも他の奴らには負けてないとこもあるんだよ」

それ、どんな事ですか?教えてほしいです。


「……諦めないこと。これだけは他の誰にも負けてないと、俺は思ってるんだよ」

諦めないこと?

「俺は走るのあんまり速くないし、怪我も多かったし、レースで勝つまでずいぶんかかったんだ。中央競馬からも一度出された。だけどなぁ、絶対諦めなかった」

そうなんですか……。

「諦めなかったから地方競馬で勝てて、中央競馬に戻れたんだ。君もどんなことがあっても諦めたらダメだぞー」

先輩はそう言ってニッコリと笑ってくれたんだ。

ボクも絶対諦めないぞ。

先輩みたいに強い大人になって、絶対に畑やるんだ。


「あはは、君は畑がやりたいのかい?じゃあ頑張らなくちゃだねー」

先輩はそう言って部屋の中に戻ってった。

聞こえてたみたいだ。ちょっと恥ずかしいよ。


でもね。ボク思ったんだよ。

ジパング先輩みたいに強くてかっこいい大人になるんだって。

そのためには、もっとお勉強頑張らなくちゃ。

じゃあ、おやすみなさい。

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