恋なんて、やってる場合じゃないっ!

hibana

ここで終わる話、ここから始まる話。

 世界は今日も、愛しいとか悲しいとか優しいとか悔しいとか、そんなものをない交ぜにしたような色をしている。汚いと綺麗のちょうど真ん中に存在していて、たくさんの死にたい人と、それよりもっとたくさんの生きたい人がいて、その事実だけが世界をほんの少し“綺麗”の方に傾けていた。


 わたしは病室から外を見ている。気持ちよく晴れた青い空と、申し訳程度に色のついた白い桜が舞っていた。物足りなさを感じながら、わたしは呟く。

「この桜が散るころ、わたしも死んじゃうのかな」


 すると横で本を読んでいた親友の由依が、「あの桜、枝落とすらしいよ。邪魔だから」と肩をすくめた。


 わたしは一瞬黙って、それから思いきり寝転がる。

「マジ無理。無理くない? 普通こういうところの木ってもっと大事にしない? 超萎えたんですけど。桜餅食いてえし」





 わたしの名前はやなぎ奏音かのん。本来だったらJKキメてるはずの、16歳だ。

 

 女子高生好きの皆さんに残念なお知らせです。わたしは女子高生じゃないのです。はい、パンツはいてー。ズボンもはいて。女子高生ならいいってもんじゃない? そうですか、でも女子高生だと許容範囲広がるでしょ。そういうもんだっておじいちゃんも言ってた。

 受験してないもん、わたし。中2の冬から学校にも行っていない。同級生のみんなが受験勉強をしていたころわたしは、美味くも不味くもない病院食とにらめっこしていたんだから。


 生まれた時から心臓が悪かったわたしは、生まれて早々に医者せんせいからざっくりとタイムリミットを宣告された。「20歳までは難しいでしょう」と言われたわたしの両親が、悩んだり葛藤したりしながらも出した答えは『実際に生きてみないとわからない』だった……らしい。知らないけど。まあ、底抜けに前向きな両親で助かった。そうじゃなきゃわたしも、歳を取るごとに悲観的になっていたと思う。

 しかしそんな両親の希望的観測は裏切られ続け、わたしの命の灯は16歳で尽きる運命だったらしい。


 柳奏音、16歳。わたしは春生まれなので、あと数日もすれば17歳だった。17歳の誕生日には欲しいコスメがあって、「もうちょっとで死んじゃいそうだし早めに貰えませんかね」とお父さんお母さんに交渉しておこうかななんて。そんなことを思いながら眠りについた覚えはあるけれど。まさかそのまま目覚めないとは思っていなかった。正直もっとこう……何かなかったものかと自分でも思う。


 そんなこんなで、柳奏音の人生の幕は呆気なく下りた。そして今から話すのは、の話。




 わたしは最後の眠りの後、暗闇の中で目を覚ました。

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