ever...
カゲトモ
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「なんでそんな事を言うのよっ」
金曜の夜。いつもなら客席は埋まっていることが多い筈なのに、今夜はそれが嘘のように静かだった。夏季休暇の前日だからか、それともこうなることが分かっていたからか。金曜はバイトに来てくれる斉藤君も、今日は偶然休みになっていた。
店内には一人の女と二人の男。俺と蘭子さんと、それから浩太郎さんだった。
「やめなよ蘭子、お店の中でそんな大声を出して」
「出してないわよ」
勢いで立ち上がった蘭子さんをなだめるように浩太郎さんも立ち上がってその視界に入ろうとした。蘭子さんは俯いたまま答えていた。
「どうしたの、そんなに怒って」
「怒ってないわよ」
「怒ってるでしょ?」
蘭子さんの視線に合わせて顔を傾ける浩太郎さん。それを避けるようにまた顔を背ける。
蘭子さんの言葉にはトゲがあって、それからその言葉は裏腹だった。第三者の俺でも蘭子さんが怒っていることは分かるし、浩太郎さんが怒らせたってことも分かる。
「オレの言い方に怒ったの?」
「だから怒ってないって言ってるでしょ」
「・・・そうやって目を合わせない時は蘭子が怒っている時だろ」
そう言った後に吐いた息には、呆れたような空気が混じっているように思えた。顔は見えないのに、蘭子さんの眉間がグッと寄せられたような気がした。
少しの沈黙。それを破ったのは浩太郎さんだった。
「蘭子」
「っ。もういいっ」
肩に伸ばした腕は払い除けられ虚しく空気を切った。その時に見せた蘭子さんの顔は明らかに――
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