また、夏
えどきだんすけ
第1話
遠くでセミの鳴き声が聞こえます。ミンミン、ジワジワ、ツクツク、ジージー……。
はたと気づけば、ボクは暗闇の中にいます。光の成分が一切ない空間。どこに何があるのか、輪郭さえ判然としません。
それから自分の体へ意識が行くようになると、まずボクは重力に対して垂直の姿勢でいるらしいこと……つまりは寝転がっているのだと自覚しました。それから身を起こそうとするのですが、できません。手と足が、それぞれ束ねられていて動きません。
手に至っては後ろに回され、腰の下敷きになっていました。痛みよりも、痺れたようなむず痒さを握り込まされたようで、ボクはそれから逃れようと身をよじります。右に寝返りを打った瞬間、ボクは寝転がっていた場所から落下しました。
「んぐぅっ!」
落下にかかった時間はほんのわずか。全身を打ったものの大した痛みはなく、転げ落ちたのは膝ほどの高さもあるかどうかといった程度のようです。
それよりも、不意の落下の衝撃に思わず上げようとした声が、何かに発音を妨げられたことに気付きます。口に何か球状のものが宛がわれ、頬から後頭部にかけて一周するベルトに固定されているようでした。
見えずとも、それがどんなものか何となく想像がつきました。どういう名前なのかは知りませんけど、漫画とか映画で人を拘束する時に使っているような……。
猿轡、の類。
それによって、拘束されている、ボク。
夢のようです。とても悪い夢を見ているようです。そうとしか説明しようのない状況じゃありませんか。
けれど後ろ手に縛られた腕の痺れ、先ほど転げ落ちた時の衝撃は、確かに現実の感覚としてその発想を否定します。
じゃあ、どうして。では、なんだって。
このボクは、このボクが、こんなことになっているんです?
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