『試練』三
地図に記された場所に向かって歩く事しばらく。
辿り着いた場所を見上げてみると、そこは――。
「ラブなホテルですかね?」
「娼館だわ」
地下奴隷都市の壁に穴を空けるように作られている入り口は、さながら宮殿の入り口。
ライトアップされている木製の扉を押して中に入ってみます。
するとそこは――淫靡に雰囲気に包まれたホテルの中。
視界的にきついピンクが多く使われた壁紙や天井からなる内装。
これでもかという程に視覚を攻め立ててきます。
「いらっしゃい。女連れという事は調教部屋の利用か?」
声を掛けてきたのは真正面のカウンターに立っている、タキシード姿の男性。
道は三つに分かれていて、カウンター横にある通路と、その左右に伸びています。
左の通路側からは嬌声。右の通路からは悲鳴と嬌声。
真正面の通路からも……嬌声と男の怒鳴り声のようなものが聞こえてきました。
「〝変態の試練〟を受けに来ました」
「正気か? 失敗すれば二人とも死ぬぞ?」
……えっ?
なぜ変態の試練で死者が出るのでしょうか。
ここはひとまず外に出て、体勢を立て直すべきでしょう。
「でしたら――」
「勿論、覚悟の上だわ!」
「……真っ直ぐ進みな。そしたら突き当りにある鉄格子の扉を開けろ」
私が逃げ出す意を伝えるその前に、ナターリアがそう答えてしまいました。
チラリとナターリアの方を見てみると、その表情は真剣そのもの。
とてもではありませんが、ここから逃げ出したいだなんて言える空気ではありません。
どうしようもないので私は、覚悟を決めて正面の通路を進みます。
「勇者様、緊張しているのかしら?」
「ええ、すこしだけ……」
「大丈夫よ勇者様。どんな変態な試練だったとしても、わたしが乗り越えて見せるから」
「頼もしい言葉ですが、一人に苦難を押し付けるようなことはしませんよ」
そうして歩く事しばらく……正面に鉄格子の扉が見えてきました。
その扉は二重扉になっているらしく、その奥には両開きの木製扉が見えています。
「止まれ! ここから先はポンププパンツ様のお部屋だぞ!」
「変態の試練を受けに来ました」
「……正気か?」
「はい」
「……いいだろう。進め」
ガシャンという音が響いて鉄格子の扉が開きます。
そこを進んで前にある木製の扉を開くと――。
「あんらァ~、いらっしゃァ~ンい」
――変態――。
部屋の内装は、かなりヌーディストなピンクだらけの造りをしています。
左右のテーブルには多種多様な〝小道具〟が置かれていました。
部屋を淫靡な雰囲気に染めるべく設置されている巨大な貝殻のシェルライト。
部屋の中央には六人くらいが一緒に横になれそうな、ピンクのベッドがありました。
「挨拶も無いのかしらァ~ン?」
「へ、変態だわ……」
一歩後ずさったナターリア。
背後の扉が、バタンと音を立てて閉まりました。
「嬉しい事を言うわねぇ~ン。お仕置きしちゃうンわよォ~ン?」
「し、試練を受けに来ました」
「あらそう。それンじゃあァ~ン、相手をしてあげないンとねぇ~」
ゆっくりと体を起こした男は色黒ムキムキの超巨漢。
ピンクのハイレグビキニを着用しています。
下腹部の盛り上がりも凄まじく、さぞや巨大なマイサンが控えている事でしょう。
「ここでの戦いに野蛮な暴力はノンノン。エンレガンンンンットに戦いまンしょォ~ン」
「エレガントに……とは?」
「変態力で勝負するンンン~のよ。例えばそうねぇ……ミージック! スタート!!」
変態の声を合図に部屋内に響きだしたミュージック。
ドンドンパンツッ!♪ ドンドンパンツッ!♪ ドンドンパンツッ!♪
ドンドンパンツッ!♪ ドンドンパンツッ!♪ ドンドンパンツッ!♪
「このミュージックに合わンせンてぇ~ン……こう! こう!! こうよォ!!!」
股間を強調する、凄まじい嫌悪感を覚えさせられるポージングを繰り出した変態。
妖精さんも、ゲーゲーと吐く動作をしています。
「ううっ……!」
「リ、リア?」
変態の超常的なポージングを見たナターリアが膝を付いてしまいました。
しかしそんな……耐えられないほどのものだったでしょうか?
隊長と副隊長の御蔭なのか、私はそこまでのショックを受けていません。
ドンドンパンツッ!♪ ドンドンパンツッ!♪ ドンドンパンツッ!♪
「あンらァ~ン。手加減ンしたとは言え、ノーダメージとは驚きだわァ~ン」
「ポンププパンツさん、リアに一体なにをしたのですか?」
「そんな睨まないで頂戴。ワタシは〝変態力〟を示しただけよォん」
「まさか……示した変態力にショック、または衝撃を受けたらダメージになると?」
「ンンンンッ! あとは嫌悪感もそうねェ!」
「負けたら?」
「最終的に、ま・け・た・ら! ワタシの玩具になってもらうンンンンわッ!」
――玩具。
良い予感は全くしません。
恐らく、精神の破壊くらいはされてしまうでしょう。
「二人同時に掛かってらっしゃァ~い!!」
「私たちが勝てば、脱出に必要な宝珠を頂けるのですね?」
「そう。ワタンンンッシが保有してる……この――金の玉! をねン!!」
「うっ……うぅぅ」
黄金色の宝珠を取り出したポンププパンツ。
が、それに対してまた少し気分を悪くしたナターリア。
恐らく、ナターリアの想定していた〝変態〟と大きく違っていたのでしょう。
「リアにだけ攻撃をしないで、私に仕掛けてくたらどうですか?」
「ナニを言っているンンンのかしらァ~ン? この部屋に居る全員に攻撃が入るのよォ~ン」
「全体攻撃?」
「そうよォ~ン」
「私にも攻撃が来てると?」
「そうだと言ってるンンンじゃあなァ~い」
「なるほど、つまり。私の常識力が貴方の変態力を上回っていたわけですね」
「まだまだ手加減ンンンだけンどォ~ン、そういう事ねェ~ン」
「仲間へのダメージは?」
「仲間の攻撃は受けないからァ~、安心して披露するといいンわァ~ン」
依然として部屋の中に響き続ける音楽。
ドンドンパンツッ!♪ ドンドンパンツッ!♪ ドンドンパンツッ!♪
やってやりましょう。恥も外聞も全て蹴殴り捨てて!!
「リアは目を閉じて隅っこで待機していてください。私が勝ってきます」
「だ、ダメっ! 勇者様にだけ負担は掛けさせられないわっ!」
「次は、そっちの手番ンンよォン!」
ドンドンパンツッ!♪ ドンドンパンツッ!♪ ドンドンパンツッ!♪
「や、やるわっ! こ……こうっ!」
ナターリア、衣類をずらしての前かがみ上目遣い。
からの首回りの生地をつまんで、谷間? のサービス。
「おにいちゃん。アリスに……罰をください……」
片側の目は眼帯で覆われているナターリアですが、もの片方の目が涙で潤んでいます。
隣に立ってい私には見えていませんが前に回れば、さぞや絶景が見える事でしょう。
――呼んじまえよぉぉおおおおおおおお!!
私のマイサンが、スターバーストなストリームをキめてしまいそうです。
……ですが、これは……。
「違うわねェ~ン。変態を何一つ解ってないンンンンわッ!」」
「うそ……ノーダメージ?」
「リア。少しのあいだ目を閉じて、耳を塞いでいて下さい」
「ごめんなさい、勇者様……」
「人には得て不得手があります。だから、ここは任せて下さい」
「でも……」
「さっきの攻撃、私にはすごく効いていましたよ。本当に魅力的でした」
「勇者様ぁ……」
潤んだ瞳で私を見上げてくるナターリア。
この戦い――負けられません!!
「さぁ、私の〝金の玉〟――渡して頂きますよ!」
「掛かってきなさァ~ンい! ワタシの〝金の玉〟! そう簡単に渡さないンンンわッ!」
「いいえ、〝金の玉〟は――もう私のモノになったも当然です」
「その自信だけなら、ワタシの〝金の玉〟にも手が届きそうだわぁ~ン」
「手に入れてみせますよ。私の――〝金の・玉〟!!」
私は隅に置いてあったシェルライトを持ってきて、パンツ一枚になります。
これから繰り出す奥義は……私の中学一年生時代。
町を一周するという歩行遠足の海岸にあったチェックポイントで披露した技の、進化系。
笑わせなければいけないというチェックポイントで披露した、その秘奥義!
つまり――その服を脱いだパン一バージョン!!
「いきますよ!!」
「来なさァ~い!」
私はシェルライトを足元に置いて両手で乳首を隠します。
更には足を内股気味に摺合せ――柔らかい笑み!!
変態という名の魔性の闇に踏みいった愚行。
その苦痛を持って後悔させてやりましょう!!
「秘奥義――! ミロヨ・コノ・ビーナス!!」
先生方全員と班の友人全員をドンさせた、この禁断の技!!
ドンドンパンツッ!♪ ドンドンパンツッ!♪ ドンドンパンツッ!♪
「グァァァァァァアアアアアアアアアアアア――――ッッ!!?」
頭を抱えて悶え苦しむ変態。
当然もだえ苦しんでいるのは私ではありません。
何故なら、私は変態ではないのですから。
妖精さんがゲーゲーと何かを吐く動作をしているのは、きっと気のせいでしょう。
「その芸術を冒涜するかのようなタイトル! 汚足を内股気味にすり合わせているというキモさ!! 乳首を敢えて隠すという常人ならざる発想力は狂気すら感じられるンわッ!!」
ここで指を開いて、乳首チラ。
「グォオオオオオオオオオオオ――――ッッ!!?」
変態の絶叫が、この淫靡な部屋に木霊します。
ゲーゲーとなにかを吐く動作をしている妖精さん。
「勇者様……カッコイイわ……!!」
「なにィ! そっちィンチィンの無い子! 盲者なンのかしンらぁ~!?」
うっとりとした顔で私を見てきているナターリア。
それに対する異常を訴える変態。
これも愛の力……なのでしょうか。
「さぁ、もう降参ですか?」
「いいンえ! 久しぶりの好敵手で燃えてきたところンだわぁ~ン!」
「来なさい。軽く受け流して差し上げますよ」
「次は、ワタシイイィィインの手番よォ!!」
変態、ベッドの屋根を支えている支柱でポールダンス。
グニグニと形を変える名状しがたいナニか。
様々な事情からナニかが飛び出して来ないのが、せめてもの救いでしょう。
からのベッドダイブ。そして股間を私の側へ向けての――ブリッジ!!
今にも飛び出してきそうな巨大なナニかが、潜在的嫌悪感を刺激してきます。
ドンドンパンツッ!♪ ドンドンパンツッ!♪ ドンドンパンツッ!♪
「ぐっ……」
流石の私も、これには少しダメージを受けてしまいました。
この痛みは精神的な負荷によるものらしく、軽減するのは難しいのでしょう。
「きゃぁぁぁあアァァアアアアァァァアァアアアアアア――――ッッ!!」
夜色の黒髪を振り乱して悲鳴を上げるナターリア。
なぜ、目を閉じて耳を塞いでいなかったのでしょうか……?
「無駄よォん。この部屋における感覚遮断行為は、全て、む・こ・う!!」
「な――ッ!?」
「つ・ま・り! 意識を失うまでは苦しむわァン!!」
なんだかんだで勝てそうな予感がしていたというのに、まずい状況になりました。
この戦いは長引けば長引いただけ、ナターリアにダメージが入ってしまいます。
こうなっては低級な技を重ねる事によるダメージ蓄積は狙えません。
ならば大技を使うしかないのですが……。
私はナターリアをチラリと見て、顔を戻しました。
――無理です。
流石のナターリアと言えど、私の必殺技を見られては嫌われてしまうのは必至。
「ぐっ……」
嫌です。こんな事で嫌われたくはありません。
「さァン! 貴方の手番ンよォン!!」
「勇者様……わたしなら平気だから……」
「リア……」
「勇者様ぁ……」
絡み合う視線。
ナターリアの瞳からは、覚悟に近い決意のようなものが見て取れました。
「リア、やりましょう。私とリアで――合体技を!!」
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