『地下闘技場』一

 私達一行が移動した先は――木造の小屋。

 ナターリアを襲撃した中で唯一の生存者である男の自宅です。

 意外な事に牢屋では無くて木造の小屋でした。

 ナターリアにも私服とフード付きローブを買ったので、現在の格好は全員が町人A。

 私達一行は現在、ゴロツキの男に質問を続けている最中です。

 なんだかんだで時刻は夕暮れ時になってしまいました。


「ところで、この小屋は自力で建てたのですか?」

「ち、ちげぇ。ある程度の金を衛兵に渡せば用意してもらえる」

「そんなシステムがあったんですね」

「ムダ金だって牢屋で生活してる奴も少なくねぇが、俺たちは広い拠点が欲しくてな」

「そこでレッツパーリィと?」

「ここじゃそんなに珍しい話じゃない。なぁ、そろそろ解放してくれねェか?」

「解放ついでにリアに手渡して、レッツパーリィと洒落込みたいですか?」

「か、勘弁してくれぇ……!」


 現在の男は両手を縛られていて、あまり自由の利かない状況です。

 金品をそれなりに貯め込んでいたらしく、ニコラさんは目標金額に到達しました。

 それを保釈金と考えて解放してしまうのも良かったのですが……。

 まだ知らない情報を何か持っていないかと思って拘束している次第です。

 エルティーナさんに関しての情報は現在ほぼ皆無。

 なんとかして安否の確認くらいはしたいところです。


「この場所に詳しい仲間は居ないのですか?」

「仲間ならみんな、そっちの女に殺されちまったよ!」

「連絡手段を隠し持っていたりは?」

「しねェ! なぁ、いい加減頼むよ! もう金だって全部渡したぜ!!」


 ……嘘は、言ってなさそうです。


「では二週間ほど、この拠点を貸して下さい。それであなたを解放します」

「よ、よし! もうあんた等……というかその女とは絶対に関わらねぇ!」

「ちゃんと約束できますか?」

「約束する! 俺の内臓と命に誓って約束する!!」

「殺しておいた方が安心だと思うのだけれど……?」

「ん、どちらかと言えば、ボクもコッチ寄りの意見かな」


 響く、妖精さんの笑い声。

 私の仲間はみんな、何がなんでもこの男性を殺したいようです。


「だよねー」

「ヨウ君が居れば別だけど、合理的な考え方をしたら殺した方が安全だし」


 私が男のロープを切ってやると、男は脱兎のごとく走り去っていきました。

 ……ゴロツキさん、森へお帰り……。


「ナターリアとも無事に合流できました。あとはエルティーナさんを探すだけですね」

「ん、ボクも早いところヨウ君と合流したいし、もうすこし探して歩く?」

「そうですね」


 とそんな会話をしていると――コンコン、と出入り口の扉がノックされました。

 もしや、先程のゴロツキが仲間を引き連れて戻ってきたのでしょうか?

 ……いえ、それにしては早すぎます。

 ニコラさんとナターリアに目配せをすると、お二人は臨戦態勢とまりました。

 扉の正面には私。その左右にナターリアとニコラさん。


「おっ、開いてんじゃーん。おじゃまするわよー」


 扉を開けて堂々と入ってきたのは――ユリさんとシズハさん。

 入ってくるタイミングが、完璧過ぎるんじゃあないですかねぇ……?


「ユリさん、どうしてここに?」

「たまたま通りかかったら声が聞こえてさ! 何日か泊めてくれないかなーって!」

「ユリおねぇちゃん、それは……」

「ずっとストーキングされてたの、気づいてたよ?」

「あらっ、もしかして知り合いの人? いつ来るのかなーってずっと待っていたのだけれど」


 もしや気が付いていなかったのは、私だけ……?

 妖精さんのクスクスという笑い声が、小屋内に響きました。


「何にしても、お金はもう十分に足りています。お引き取りを」


 彼女をこの小屋に一泊させてしまうと、私の貞操が危険です。

 ここはなんとしてでもお引き取り願いましょう。


「ふーん、いいのかな? そんな風に邪険に扱って」

「……なんですか?」

「ニコラちゃんのパートナープレイヤーのヨウさん。まだ合流できてないよね?」

「――ッ」

「比較的簡単に合流する方法が、あるんだけどなー?」


 チラチラといやらしい視線を向けてくるユリさん。

 ――くっ、一体何処までストーキングして情報を仕入れているのでしょうか。

 変態怖い!!


「ほんとにそんな方法が!?」

「本当だとも。少なくとも安否は確実に確認できる」


 いけません。ニコラさんの目がかなり揺らいでいます。

 もしかしたら、ぷにぷにをぷにぷにするだけならば許してしまうかもしれません。

 これはもう――迷っている時間はないでしょう。


「ユリさん、貴方の宿泊を認めましょう」

「おしっ!」

「ですが、彼女の好きな人をダシに使うなんて、随分と汚いやり口をするのですね」

「……くっ! 美少女からの蔑みの視線――ッ! これはこれで……!」

「ユリおねぇちゃん、変態だから効かないよ」


 ――ダメそうです。

 仕方ありません、最後の手段を使うとしましょう。

 もうしばらくこの姿で行動したかったのですが、今はニコラさんの貞操の危機。

 ここは私が、文字通りにひと肌脱ぐしかありません。


「私はどうしようと構いません。が、ニコラさんとリアには手を出さないで下さい」

「お、オッサン。何も、そこまでしてくれなくとも……」

「勇者様……? もしかして……」

「リア、少しお静かに」

「はぁい」


 それにしても、ニコラさんのぷにぷには本当にぷにぷになのでしょうか……?

 ――ハッ! いけません。

 今は目の前の事に集中しなくては、私の作戦に感付かれてしまいます。


「へぇ、アタイ好みの展開だね。リアって子は怖すぎるから元々手を出すつもりは無かったよけど……いいよ、乗った! 二日間この場所に泊まる権利と、オッサンを好き放題する権利だね!」


 ――釣れました。


「ええ、それでいいでしょう。ただし約束を破ったその時は――」


 タイミング良くこの場に響く、妖精さんのクスクスという笑い声。

 ユリさんとシズハさんが息を呑むのを感じ取りました。


「もちろん約束は守るさ。その証拠に情報を出し渋らいからね」

「それで?」

「ニコラちゃん。パートナープレイヤーのヨウさんに【念話】を送ってみな」

「……えっ? できるの??」

「実験してみたらできた。ヨウさんが生きてさえいれば連絡は取れるはずだよ」

「ちょ、ちょっと待ってて!!」


 そう言って、ニコラさんは小屋の奥にあるベッド付近にまで移動しました。

 両手を耳に当てて目を閉じています。

 その様子から見るに【念話】とは、文字通り思念による会話の事を指しているのでしょう。


「へへっ、それじゃあオッサン。さっそくヒィヒィ喘いでもらおうか?」

「い、今ここで、ですか……?」

「そりゃそうさ。まさか……約束を破るつもりじゃないだろうね?」

「くっ。では妖精さん、私を元の姿に戻してください」

「へっ?」


 ――響く、妖精さんの笑い声。


『死にましたー』


 暗闇が晴れると、場所は変わらず小屋の中。

 私は椅子に置かれていたボロ服を着用し、ユリさんの前へと移動します。



 当然――普通おっさんの姿で。

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