第七章『遥か昔のレヴァリエ』

『日常』一

 魔王軍の襲撃から早数日。

 まだ復興作業の最中なのですが町の空気はあまり重くありません。

 何故なら、かなりの死傷者は出たものの、戦いには勝利しました。

 それに――魔王軍は雪溶けまで進行してこない。

 という情報が出回ってきたのが大きいでしょう。

 情報源は突如として現れた〝異世界からの旅人〟からの情報だそうです。

 確認されているだけで、その異世界人のは百を超えているとのこと。

 その全員が強大な力を持ち、神様からのお告げを直接聞いていると聞きました。

 この町――アークレリックにて確認されている〝異世界からの旅人〟は、二人。

 それは、ヨウさんとニコラさんのペアで市場に出ると、その話題をよく聞きます。

 私はひっそりと暮らしている御かげで見つかっていないのでしょう。

 少なくとも公式にはカウントされていません。


 ◆


 町の復興作業を遠目に見ながら早数日が経過。

 私は今――廃教会の子供達と雪合戦の真っ最中です。

 チームの編成は、エルティーナさん率いる子供達で一組。

 コレットちゃん率いる子供達チームで一組。

 それから、パーティー、〝猟犬群〟のメンバーで構成されたチームで一組。

 トゥルー君、フォス君、タック君、レーズンちゃん、ナターリアの少数精鋭です。

 私のチームはというと……私と、リュリュさん、ポロロッカさんの三人だけ。


「いきますよー!」


 エルティーナさんは雪玉の一つを手に取り、私に向かって投げてきました。

 現在は私のチームVSエルティーナさんチーム。

 ――ズドン。

 そんな音と共に雪が巻き上がり、地面に小さなクレーターができました。

 余程ギュッギュッとしたのでしょうか?

 ――否。そういうレベルではありません。


「おじさーん! いくよー!」


 子供達の投擲。

 ――ヒュン……ボスッ。

 私は雪壁に隠れて、それをやり過ごしました。

 褐色幼女形体の妖精さんが。ペタペタと雪壁を補強してくれています。

 その御かげで私の前にある雪壁は、なかなか崩れません。

 妖精さんへの雪玉は何故か透過しているので命中にカウントされていない模様。

 子供達の投擲は、子供にしては、なかなかの剛速球なのではないでしょうか。

 私も反撃する為に壁から一瞬だけ頭を出し――投擲。

 ……ヘロヘロ~……ポト。

 私のへなちょこ剛速球は、易々と回避されてしまいました。


「オッサーン! 手加減のしすぎですよー!」


 エルティーナさんがそんな事を言いながら雪玉を投げてきます。

 ――ズドンッ。

 当たったら骨が折れてしまいそうな剛速球。

 エルティーナさんには是非とも手加減という言葉を覚えて頂きたいところ。


「……オッサン、文字通り壁にしかなってないな」


 ジト目で私を見て来るチームメンバーのポロロッカさん。


「投げるわよぉ~」


 そして、それなりの速度で相手チームへと雪玉を投げ返しているリュリュさん。

 それにしても……何故。

 ヒュンヒュンヒュン――ボスボスボス。


「行きますよー、オッサーン!」


 ――ズドンッ。

 なぜ、エルティーナさんのチームは――。

 ヒュンヒュンヒュン――ボスボスボス。

 私にばかり雪玉を投げてくるのでしょうか……?

 私を守っている雪壁は、既にボロボロです。

 ペタペタと壁の補修をしている妖精さんが間に合っていません。


「勇者様ー! がんばってー!」


 命中判定の審判を務めているナターリアから激励の声が飛んできました。

 今日はフード付きローブを脱いでいて、黒のゴシックドレスを着ています。

 外と中とで格好を使い分けているのでしょう。

 紅いローブも似合いますが、やはりドレスの方が愛らしくて好きです。


「おじさーん!」


 ヒュンヒュンヒュン――ボスボスボス。

 今回の雪合戦のルールは雪玉を相手チームに命中させた数の多い方が勝ち。

 トーナメント方式の雪合戦です。

 今日この日程、ダンゴムシになりたいと思った日はありません。

 が、私もいい歳をした大人です。

 このまま壁に篭ってるなんて、できません。

 私は勇気を出して雪玉を投げ……――ボスンッ。

 子供達の誰かが投げた雪玉の一発が私の手首に命中。

 程々にしか握られていなかった私の雪玉は見事に爆発四散しました。

 咄嗟に手を引っ込めたのですが、見てみると手首が赤くなっています。

 妖精さんの御かげで痛みを感じないので叫び声を上げずに済みました。

 が、そうでなければ、叫び声を上げて転げまわっていた事でしょう。

 明日の朝には手首がもう少し膨れ上がっているはずです。

 ――雪合戦? いえ、これは戦争の続きなのではないのでしょうか。


「終了ー!」


 ナターリアの声が、この白い戦場に響きました。

 これでようやく……。


「勝ったのはー……! 勇者様のチームゥ――――っ!!」


 ――えっ!?


「……オッサン、俺達の勝ちだ」

「次が決勝戦ねぇ~」

「き、棄権を……!」


 ――このままでは命が持ちません。

 と考えた私は棄権を申し出ようとしたのですが――。

 エルティーナさんの次の一言で、その予定が打ち砕かれました。


「流石ですオッサン。次も頑張ってくださいね、ちょっとした優勝商品も考えていますので」


 エルティーナさんが用意してくれた、ちょっとした優勝賞品……?

 教会は多少の補修作業がされたにしても、まだ廃協会と呼べる有様。

 金銭的に豪華な優勝賞品を用意できるはずはありません。

 つまり……優勝賞品は、エルティーナさんが何かをしてくれる!?


「優勝しましょう! ポロロッカさん、リュリュさん!!」

「……多分お前が想像しているものとは絶対に違うぞ」

「まぁ程々に頑張りましょ~」


 コレットちゃん率いる子供達チームと〝猟犬群〟のチームの対決。

 それは当然のように〝猟犬群〟チームの圧倒的な勝利で幕を閉じました。

 フォス君はかなり手加減しているように見え、その余力の程は計り知れません。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る