『第二波』二

 道中で見かけた人々には張りつめた空気が流れています。

 が、多少の余裕も感じられました。

 やはり現状の死傷者があまり出ていないというのが大きいのでしょう。

 歩いている途中――羽の生えているパーピーを始めとした魔族の方々を発見。

 魔導師らしき格好をした方々も一緒に整列しているのが見えました。

 ハーピー達は自身の翼で空を飛ぶからなのか全体的にほっそりとした体格です。

 それでいて要所以外の露出面積がかなり多い格好をしている彼女達。

 その様子を観察しつつハーピーさんを見ていると――。

 整列している魔術師の一人が手を振ってきました。

 よく見るとその人物の傍には丸くて黒い烏モドキがちょこんと立っています。

 一目で誰なのかが判りました。

 ――魔道具店の店主であるダヌアさんと、その店員のヌーアさんです。

 手を振り返してその場を後にすると城壁が見えてきました。

 城壁の上にはレールに乗せられた兵器――魔力バリスタ。

 それが南側に寄せられているのが見て取れます。

 ですが、それに応じて他の場所が多少手薄になっている感が否めません。

 しばらく歩き、時刻は昼頃。

 東側の城壁の上から下を見下ろしてみると、そこにあったのは正に地獄の光景。

 多くの死体が転がっていました。

 交戦のあった辺りからずっと血の池が広がっています。


「うぅっ……」

「あぁもぅ、苦手なら見るんじゃないわよぉ」


 私は色濃い鉄錆の臭いに、ついむせ返ってしまいました。

 それを見たリュリュさんが優しく背中をさすってくれています。

 リュリュさんのボディタッチに思わず惚れてしまいそうになりました。


「あまり優しくされると惚れてしまいますよ?」

「慣れてるから大丈夫よぉ」

「……オッサンの守備範囲は随分と広いな。トゥルー少年に対しても欲情の臭いを――」


 ――警告! アンノウン接近中!! ブレイク、ブレイク――――ッッ!!


「ポポポ、ポロロッカさん!!? 何ですかその変態みたいな特技!! 私を殺すつもりですか!!?」

「いや、種族特性なんだが……」

「その変態特技、私にも教えて下さい」


 みっともなく土下座をして、お願いをします。


「…………」

「あらぁ、ポロロッカは変態の種族なのねぇ」

「……!? 待て、言いがかりだ……!」

「ほんとぉ~?」

「オッサンもみっともないぞ! さっさと顔を上げろっ……!!」

「くっ、こうなっては最終手段! 妖精さんにお願いして変態特技を身に付けるしか!」

「……馬鹿なのか? 馬鹿なんだな? もしかして――馬鹿なのかー!!?」

「それは今更よぉ」


 ――と、力が回復したのか妖精さんは褐色幼女形体になりました。


「……よんだ?」

「妖精さん! 私にポロロッカさんの変態特技を、覚えさせてください!!」

「………………ロリコン、もうへんたいじゃん。……これ以上はむりだよ」

「――!?」

「いや、別に驚く事でもないだろう」

「良かったわねぇ、ポロロッカの個性を取られちゃわなくてぇ」

「――!? 馬鹿なッ!? 俺の個性って何だっ……!!」

「欲情検知の変態かしらぁ?」

「……おいマテやめろ! それでイメージが定着したらどうしてくれるつもりだ!!?」


 リュリュさんの言葉に早口で突っこみを入れたポロロッカさん。


「私は絶望しました。この中で私が一番常識人であるという真実に……」

「わたしが異常だっていう自覚はあるけどぉ、この中では一番マシよねぇ?」

「馬鹿を言え……! 俺以外にまともな奴が居る訳がないだろう……!!」

「またまた、御冗談を」

「面白い冗談ねぇ……オ・オ・カ・ミ・さんっ」

「ぐうぅぅっっ……!」


 私の言葉は軽く受け流していたポロロッカさん。

 が、リュリュさんの言葉には思いたる節があるのか……。

 ポロロッカさんはかなりたじろいでしまいます。

 ――やっているのでしょうか、オオカミさんプレイ。

 妬ましさで新たな力に目覚めてしまいそうです。


「ならば最終手段!!」

「おい、さっきの最終手段は最終じゃなかったのか……?」


 何やら突っ込みを入れてきたポロロッカさん。

 ですが、きっと気のせいでしょう。


「妖精さん! ポロロッカさんの変態的な過去を何か教えてください!!」

「おい馬鹿やめろ。……まぁ、そんな過去は存在しないが」

「……本当はむりだけど、ギャグ補正でできちゃう。よろこべ」


 クスクスと笑い始めた妖精さん。その直後――。


「……話すよ。森の中で同族と生活していたころ、雌が食べ残したご飯、食べてた」

「フン、腹が減っていればそんな事は気にしない。食べるのが当然だ」


 気丈にもそう言葉を返したポロロッカさん。

 ……だというのにポロロッカさんの額からは冷や汗が滝のように流れ出ています。


「……残飯の骨をぺろぺろしてたのも……? しゃぶり尽くしてたのも……? なんだ、へんたいか」


 ピキッ、と固まって動かなくなったポロロッカさん。


「うわぁ、ドン引きねぇ」

「お気持ちは分かりますが実行に移しては駄目ですよ、ポロロッカさん」

「……ロリコンも、似たようなことやってたけどね……」

「「…………」」


 思わず、ポロロッカさんと一緒になって黙ってしまいました。


「うわぁ、女の敵ってやつねぇ!」


 やけに楽しそうなリュリュさん。

 私のライフはもうゼロです。


「ポロロッカさん、ここいらで休戦にしましょう」

「……あぁ。本格的な戦闘が始まる前に戦闘不能になりそうだ……」

「もらうよ、対価……」

「どうぞ」


 暗転。


『社会的にも、死にましたー』

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