Episode:01-06 劣勢

◇Rufeir

 ――まさか、どこかの正規軍?

 接近してきた来た敵を見て、背筋を冷たいものが走る。

 かなり厳しいバトルになりそうだった。なにしろこちらにはごく少数の上級傭兵隊の先輩以外は、プロと渡り合える人間がほとんどどいないのだ。

 船団から大きな鳥が舞い上がる。上陸が難しいとみて、先に空中部隊を出したんだろう。

 裏の方で上がった悲鳴が、かすかに聞こえた。広いあっちにかなりの数が降りたらしい。

 続いて轟音。地響きがして足元が揺れる。艦砲だ。

「来るわよ!」

 先輩の鋭い声が飛ぶ。

 あたしは鞘から太刀を引き抜いた。刀身が太陽を反射する。

 大鳥から飛び降りた敵兵が突っ込んでくる。真正面だ。

 間合いを測る。

 長剣を振りかぶる兵士のスローモーション。

 ――今。

 ステップを踏んで左へ避けながら、太刀をふるう。

 血しぶきがあがった。

 それを背中で見ながら、いちばん近い敵へ。

 目くらましを兼ねて初級魔法を叩き付け、その隙に切りかかる。

 同時にかかってきた二人は、かわしただけで相打ち。

 さらに別の兵士に向き直ったとき、視界のすみに銃を構える敵の姿を認める。とっさに呪文の詠唱を始めた。

 敵が銃を撃ち、あたしの防御魔法が発動する。

 きぃん、という音がして、銃弾が魔法の盾に阻まれた。

「ありがと、助かったわ」

 狙われていたことに気付いたエレミア先輩が、あたしに向かって微笑する。

「いえ、当然のことですから」

 気が付いた人間がフォローしなかったらバトルでは勝てないことを、かつての戦場生活であたしはイヤというほど思い知らされていた。

 ――それにしても。

 敵の数が多い。その上あたしの周囲へは、兵士が集まりだしていた。

 太刀を手に猛威を振るう金髪の少女。これがどれほど目立つか。

 左右からまた同時に切りかかられる。

 考えるまでもなく身体が先に動いた。

 身を少し低くしながら刃をかわし、まず左の兵へ下段から一撃を浴びせる。そして勢いを利用しながら向きを変え、残る兵士を打ち倒した。

 そこへ通話石から連絡が入る。

 運営の先輩(たぶん)の切羽詰った声。

『手の空いてる隊、教室へ来てくれ! 低学年が襲われてる!!』

 ――なんてことを!

 プロの兵士のくせに子供たちを襲うなんて。

 でも一方で、あたしは知ってる。

 戦争は場所を選んでくれない。そこが学校だろうが病院だろうが、戦場になるときはなる。

 あたしは昔、そういう場所にいた。

 刀身に一瞬辛い思い出が映る。

 この学院に来る前、戦場で銃声を子守り歌にしていた頃の出来事だ。

 あの時あたしは生き延びるために……。

 ――だめ、今は!

 はっとして自分で自分を叱りつける。

 いまは思い出にひたってる場合じゃない。

「遥かなる天より裁きの光、我が手に集いていかずちとなれ――」

 敵集団がわずかに体制を崩したのを見て、あたしはすかさず呪文を唱えた。

「ケラウノス・レイジっ!」

 瞳を焼く光芒が天からふりそそぎ、いかずちが大地に炸裂する。

 ――思惑どおり。

 得意の多重魔法――発動ポイントも少しずつずらしてある――に、かなりの数の敵が巻き込まれた。向こうのの兵器も、電撃にさらされてつぎつぎショートする。

 これでだいぶ、相手の数が減ったはずだ。

 通話石――こっそり秘匿通話も聞こえるように改造してある――から、次々と情報が入る。

 船団が海岸方面へ向かうらしいこと。教室が危険なこと。

 ――そういえばナティエス、大丈夫だろうか?

 彼女、低学年担当のはずだ。何もないといいのだけど。

 さらに情報が入る。

 裏庭が多数の敵に襲われていること。そして被害が大きそうなこと。前庭から戦力を回して欲しいこと……。

「十四班から二十班……十三班も裏庭へ行って!」

 戦闘の合間を縫って、ここの指揮を取っているエレニア先輩が命令を出す。

「ロア、この子たち連れて、裏庭へお願い」

「あ、ちょっと待って。ルーフェイア、あなたも来なさい」

 いきなりロア先輩からお呼びがかかった。

「ちょ、ちょっと! 彼女大事な戦力なのよ」

「物理攻撃の四級を三人置いてくから、それで調整してよ。それにこの子の能力じゃ、ここは狭すぎるって」

「もう……!」

 結局あたしは、裏庭へ回ることになった。もっともロア先輩には日頃いろいろ面倒を見てもらってるし、あたしのことを良く知ってるから、このほうが気楽といえば気楽だ。

 けどそれ以前に、そもそもあたしは……。

「さあ、急ぐよ! 裏庭まで駆け足!!」

 ロア先輩の号令が飛び、あたしは他の生徒と一緒に慌てて駆け出した。

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