Episode:01-04 修羅のなかへ

◇Rufeir

『攻撃隊は船着場と海岸へ即時展開せよ。それ以外は編成に従い、それぞれの場所で待機するように。なお、これは演習ではない。全生徒そのつもりで当たるように。繰り返す、これは演習ではなく実戦である』

 そう結んで通話石からの連絡は終わった。

 この編成だと、資格保持者のほとんどが船着場と海岸への配置になる。船で上陸可能な場所はその二つしかないから、そこに重点をおく作戦なんだろう。

「作戦としては、少々安直な気もしますがね」

 タシュア先輩が酷評した。

 もっとも相手の戦力が未知数だから、編成のバランスをとるのはけして簡単じゃない。

 なによりこの状況だと、上陸阻止以外の選択肢は選びづらいだろう。

「装備を整えてくる!」

 シルファ先輩が部屋を飛び出す。

「あたしも……もう、行きます」

「そうですか」

 さっきの放送だと、あたしの所属は建物の入り口付近になる。ただその前に部屋へ戻って、使えそうなものをもう少し出すつもりだった。

 ――死闘になりそうな気がする。

 認めたくないけど、朝からのあの感覚は本物だったらしい。

 寮はどこも騒然としていた。

 それはそうだろう。一斉に生徒が戻ってきて、各自装備を整えているのだから。

 あたしも自室へと急ぐ。

「あ、ルーフェ。放送聞いた?」

「うん」

 部屋にはもう、ナティエスが戻ってきていた。

「なんかさ、すごいことになっちゃったね」

「そうだね……」

 なぜだろう、一段と嫌な予感に襲われる。

 けど何気ないふうを装って、棚から激戦で役に立ちそうな物を取り出した。両親とも傭兵稼業をやってると、こういうものがイヤでも揃う。

 太刀の方も、もう一度鞘から出して点検する。元は兄ので、いつ見ても吸い込まれそうな刀身がなにより気に入っていた。

 柄を握りなおして具合をたしかめる。

 ――いける。

 胸のうちに確信が生まれた。

「ルーフェ、あたし低学年の担当だから先いくね!」

 小太刀の方も確かめていたあたしに、ナティエスが声をかける。

「うん、気を付けてね」

「だいじょぶ。あ、そうそう、冷蔵庫のケーキ、勝手に食べちゃダメだからね?」

 そう言って彼女は出ていった。

 そのあとあたしもすぐ、普段のものに加えて予備の従属精霊――何らかの方法で従えた精霊を、魔力石に閉じ込めたもの――も持って部屋を出た。

「ルーフェイア!」

「イマド?」

 渡り廊下のところで、今度はイマドと鉢合わせした。

「もう、装備はいいのか?」

 やっぱりどこか、緊張感がただよっている。

「うん。それよりイマド……間に合うの? 海岸でしょ?」

「まぁだいじょぶだろ。つか、お前もだろ?」

「え? あたし、行かないけど……」

 イマドが怪訝な表情になる。

「行かねーってお前、んじゃどこなんだ?」

「校舎の玄関前」

「――は?」

 イマドが呆れ顔で聞き返してきた。

「ちょと待て、なんでお前がそこなんだよ!」

「だってあたしまだ、物理攻撃三級の検定、受けてないし……。それに魔法も、精霊使ってるの知られちゃうと困るから、ぜんぜん……」

「そういやそうだったな」

 あたしはいろいろ事情があって、憑依精霊なしにはやっていけない。

 でも本来学院内で精霊の使用が許可されるのは、傭兵隊に所属する上級生だけ。あたしはまだその年齢じゃないから、資格がなかった。

 だからこのことは、出来る限り内緒にしてある。

 そんな理由で、あまりの魔法の威力にそれがバレてしまうような検定は、なかなか受けられない状態だった。

「まぁいいや。ともかく気をつけろよ――って、お前にゃ言うだけムダかもな」

「ううん、ありがと。――そうだ、これ使って」

 思いついて、イマドに予備の精霊石を渡す。これがあるとないとでは、雲泥の差だ。開放して自分と同化させることで、いろんなことが出来る。

「いいのか?」

「うん。あたしはいつもの二体、ちゃんと使ってるから」

「そか。んじゃ借りるぜ」

 なぜだろう、イマドが受け取ってくれてほっとする。

「ま、ともかく頑張ろうぜ」

「イマドもね」

 そう言って彼は海岸へ行くために左へ、あたしは右へと別れた。

 大急ぎで廊下を駆けていく。

 こんなふうに館内を走ったら普段は教官に怒られるけど、さすがに今日はそんなことを言う人はいなかった。というか、教官たちまで走ってる。

「あら、ルーフェイア。あなた海岸じゃないの?」

「はい」

 途中でよく知らない先輩につかまった。

「いいじゃない、助かるよ。なにせこの子強いから」

 一緒にいたんだろう、ロア先輩が後ろからぽんぽんとあたしの頭を叩く。

「そうね。たしかにこの子、上級傭兵隊並だものね。

 さ、急いで行くわよ。そうそう、悪いけれど最前列に入ってもらうわね」

「了解です」

 先輩たちと一緒に走って、着いたところで最前列の隊に入った。

 船団がかなり迫って来ている。

 ――地獄が、始まる。

 あたしはひとつだけ、深呼吸した。

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