第十一章 ネットワーク会議

第一話 依頼


 ユウキがぐったり寝ている状態から、何かを思い出したのだろう。身体を起こして、俺を見た。


「あ!そうだ、タクミ。ママが、相談したい事があるって、どうする?」


 美和さんからの依頼を思い出して、話してきた。


「わかった。明日にでも連絡をしてみる」


「あっミクさんの所に連絡をして欲しいみたいだよ?」


「・・・。わかった。未来さんに連絡をする。他に、何か言っていたか?」


「大丈夫だよ」


「ユウキ。それじゃわからない。美和さんは、他に何か言っていたか?準備して欲しい物とか?」


「ううん。ママは、タクミに、ミクさんの所に連絡すれば解る。とだけ言っていたよ」


「そうか、わかった」


 美和さんのことだから、ユウキに話しをしても無駄だと思っているのだろう。

 未来さんも絡んでいるとユウキが言っていたから、間違いなく”ネットワーク会議”の話だろう。


 時計を見ると、23時を回った所だ。

 遅いとは思ったが、未来さんにメールを出しておく。


”タクミです。美和さんから話を聞きました。いつお伺いしたら良いですか?土曜日なら時間がとれます。平日は放課後になってしまいます”


 簡潔なメールにした。要件だけが伝われば十分だ。


 5分後に、未来さんから返事が来た。まだ起きていたようだ。

 平日の放課後ならいつでも大丈夫なようだ。未来さんの返事から、美和さんはこないと考えて良さそうだ。


 丁度、直近で俺がやらなければならない用事はない。電脳倶楽部はパソコンの設置で忙しいし、生徒会も十倉さんが入った事で、戦力的には足りている。


「ユウキ。明日、何か用事があるか?」


「僕?」


「あぁ」


「特に無いよ?何?」


「明日、未来さんの所に行くけど、一緒に行くか?」


「うん!ミクさんにも、暫く会っていないから、会いたい!」


 そう言えば、ここの所、学校で発生した問題が忙しくて、未来さんの所に言っていなかったな。依頼は来ていないから大丈夫だと思っていたけど、そう言えば久しぶりに行くな。手土産を持っていこう。


「わかった。明日、一緒に行こう」


「うん!」


 ユウキが抱きついてきた。そのまま、あっという間に寝息が聞こえてきた。俺も、ユウキを抱きしめながら目を瞑った。


 朝になったが、ユウキの希望で買った目覚まし時計が鳴り響いている。しかし、ユウキは起きる気配がない。この音の中でよく眠れるものだと関心を通り越して驚いている。

 寝室から出て、朝食の準備を始める。今日は、しっかりと朝は食べるだろう。いつもよりも、多めに用意する。


「ぉはよう」


「ユウキ。シャワーを浴びてこい。朝食の準備をしておく」


「わかった。タクミは?」


「先に入った」


「はぁーい」


 ユウキが汗を流してテーブルに座った。髪の毛が濡れているので、先に乾かしてくるように伝える。

 その間に、ユウキには3枚のパンケーキにジャムと蜂蜜と少しのサラダを盛り付ける。アイスは別盛りにしてチョコレートをかける。俺は、多めのサラダを付けた2枚のパンケーキだ。準備が終わると、ユウキが戻ってきた。


 今日は、バイクで行くので普段よりもゆっくりできる。10分程度しか違わないが、朝の10分は貴重だ。

 バイクは、大将の店に預かってもらう。学校に乗り付けても問題は無いのだが、ユウキを後ろに乗せているのが問題になる。


「ユウキ。授業が終わったら、大将の所で待っていてくれ」


「わかった」


「あんまり食べるなよ。未来さんの所から帰る時に、何か食べに行くからな」


「うん!」


「大将に、声をかけてから学校に行く、先に行ってくれ」


「わかった!」


 ユウキが走って学校に向かった。俺は、大将に声をかけてから学校に向かった。


 少し、授業が長引いた。実習の片付けが遅くなってしまった。未来さんにはメールを打ったので問題は無いだろう。心配なのは、ユウキがしびれを切らして、余計な物を・・・。頼んでいたよ。


「ユウキ・・・」


「タクミ。遅いよ。僕、おなかがすいちゃった」


 ユウキが座っていた場所には、ヤキソバが盛ってあったであろう皿と、たこ焼きが乗っていた船が置かれていた。それだけではなく、かき氷を忙しそうに食べている。


「ユウキ・・・。今日は、夕飯を、外で食べると言ってあったよな?」


「あっうん。覚えているよ?」


 完全に忘れていたな。


「はぁ・・・。今日は、未来さんの所に寄って、まっすぐに帰るぞ」


「・・・。うん。わかった。ごめん」


 俺も甘いなと思いながら、ユウキの頭をガシガシなでてから、大将にお金を払って、店を出る。


「篠崎です。未来先生と約束が有って来ました」


 事務所には、いつもの事務員でない人が居たので、挨拶をした。

 すぐに奥に通された。手土産は、事務員に渡した人数は大丈夫だと思う。


「タクミくん。急にゴメンね。あら、ユウキも来たのね」


「うん。ミクさん。お久しぶりです」


「未来さん。早速ですけど、美和さんは?」


「そうね。森下先生が”何”をしているのかは聞いている?」


 ユウキが居るのに、森下先生と呼んでいる。新しい事務員を見たので、何かあるのだろう。

 もしかしたら、他の弁護士事務所から派遣されているのかもしれない。


「詳しくは聞いていません」


「そう・・・。それは、森下先生に詳しく聞いてもらうしか無いわ」


「わかりました。概略は、聞いているので大丈夫です」


 いつもなら説明してくれるのに、説明を省いた。

 本格的に、何かあるのかもしれない。


「そうね。それなら・・・。タクミくんへの依頼は、この事務所と森下先生の所で、遠隔会議ができるようにして欲しい事が一点」


「はい」


「それと、私と森下先生でネットワーク会議ができるようにして欲しい事が一点」


「はい」


「森下先生と私が、それぞれクライアントとネットワークで会議ができるようにして欲しい事が一点の、合計3点」


「内容は、解りました。それぞれ条件を教えて下さい。事務所と美和さんと家を繋ぐ時に、1対1ですか?1対多ですか?多対多ですか?」


「多対1。ないしは、多対2になると思う」


「1、ないしは、2というのは、美和さんの所だと判断して良いのですか?」


「そうね」


「その会議は、音声だけですか?ホワイトボードの様な物を共有できるようにしますか?それとも、TV電話のような感じを想定しますか?」


「資料が共有できる事が必須ね。TV電話のようにできれば、嬉しいかな」


「わかりました。未来さんと美和さんのネットワーク会議は、TV電話がメインだと考えていいですか?パソコンですか?スマホですか?」


「パソコンで良いわよ」


「最後のクライアントは、俺やオヤジが直接動くのはダメですよね?」


「そうね。何か問題があったり、セットアップが出来なかったり、諸問題が発生した時には、応援を頼むけど、できる限り、クライアントが自分でできるようにして欲しいわ」


「わかりました。少しだけ時間を下さい。来週の頭には、提案書をまとめます」


「お願いね」


「はい。ちなみに予算は?」


「そうね。森下先生と相談にはなるけど、2-30って所かな。サーバが必要なら、月に2-3万なら大丈夫よ」


「わかりました。それと、秘匿性は、どう考えればいいですか?ログの保存は?」


「秘匿性は考えなくていいわ。市販のサービスはダメ。バックエンドで使うのは良いけど、最低限、独自サービスに見えるようにして」


「わかりました。確かに、オヤジの所では難しい金額ですね」


「そうね。それも有って、タクミくんにお願いしているのよ」


「ハハハ。わかりました。足りなかった分は、貸しにしておきますね」


「それは、森下先生に言って頂戴」


「・・・。ユウキと相殺されそうですけど、納得しました」


 それから、未来さんと世間話と近況報告をしてから、事務所を出た。


 ユウキが服の袖をひっぱるので、見ると何かを言いたそうにしていた。


「どうした?」


「タクミ。怒っている?」


「ん?別に、怒っていないよ」


「それなら・・・。いいけど・・・。僕、考えが足りなくてゴメン」


 大将での事をまだ気にしていた。今日、未来さん所で、静かだったのは、気にしていたからなのか?手土産を食べようとも言い出さなかったからな。

 俺も言い方が悪かったな。


「ユウキ。軽く何か食べていくか?家に帰ってから作るのは面倒だよ」


「いいの?」


「あぁ。どっか、ファミレスにでも行こう。久しぶりだろう?」


「うん!」


 未来さんと美和さんからの依頼内容を考えつつ、ユウキが好きなイタリアンのファミレスに行った。

 あそこなら、ユウキが好きな物が揃っているし、ドリンクバーもある。気楽に食べられる。

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