第五話 報告と対策


 翌日、学校に行くと戸松先生からの呼び出しが入った。

 すぐに職員室に行くと、放課後に生徒会室で話をしたいと言われた。


 昨日の今日で、進展が有ったのだろうか?


 放課後になったので、生徒会室で待っていると、戸松先生が部屋に入ってきた。十倉さんと一緒だ。


「戸松先生。十倉さん?」


「篠崎。十倉は、関係はない。そこで一緒になっただけだ」


「そうなのですね。それで?」


 十倉さんは、先生の横に座ったが、話には参加しないと宣言した。

 ただ、経緯を知っておきたいので、話を聞かせて欲しいということだ。先生も承諾しているので、俺も十倉さんが、会議への参加は大丈夫だと答えた


「篠崎。野球部とサッカー部とバスケ部の奴らに話を聞いた。奴らも、パソコンが回収されたので、覚悟していたようだ。自分たちで直そうとしたらしいが、ネットに繋がらなくなってしまって、ネットで書いてある方法では直せなかったと言っていた」


「ふーん」


 ネットの記事は、それらしく書いてあるけど、間違いが有ったり、ピンポイントで書いてあったり、書いてある通りに操作してもダメな場合が多い。

 特に、あの手のサイトを作って詐欺を仕込むような連中なら、大量のドメインを使って、解決策を偽装している場合だってある。それが手口になっている。


「興味なさそうだな」


「えぇ単純な方法ですからね。そんなに難しくは無いですよ?」


「はぁ・・・。まぁいい。それで、URLは、メールで送られてきたようだ」


「え?誰かが、持ち込んだわけじゃないのですね?」


「そう言っている。メールは、知り合いのアドレスだったらしいから、そのままクリックしたようだ。普段から、エロ画像や動画のやり取りをしていたから、疑わないでクリックしたようだ」


「ん?それじゃ、家のパソコンとかでも見ていたのか?」


「それが、普段はスマホで見ていて、家のパソコンでは開いていなかったと言っている」


 ふーん。誰かが、踏んだ可能性は高いな。

 それから、”I love you”ウィルスのような物を踏んだのだろう。家のパソコンが侵されているのは、勝手にしてくれと思うけど、繰り返す可能性は排除しておきたい。


「そうですか、それじゃ誰が最初に踏んだのか確認するのは難しいのですね」


「そうだな」


「わかりました。メールで広がったのなら、受信したメールから遡れると思います」


「頼む」


「篠崎。戸松先生。少し疑問なのだが?」


 十倉さんが話に割り込んできた。恐縮した感じになっているが、別に気にする必要はない。


「はい」


「方法がわからない俺が言っても見当違いなのかも知れないが、よく企業や図書館のパソコンとかだと、決められた場所にしかアクセスが出来ないよな?あんな感じには出来ないのか?」


「出来ますよ。そのほうが簡単です」


「それならなぜ?」


「十倉さん。俺は、悪い事をする一部の人間のせいで、多くの善良な人が不便な目に合うのが、許せないのです。そのための、技術なのだから、簡単だからでそちらに舵を切るのは間違っていると思っています」


「おぉぉ?」


「銀行で、振り込みに制限が付けられましたよね。あれは、オレオレ詐欺の被害者を減らすという名目で、銀行が手を抜いているのだと思っています」


「そうなのか?」


「もし、有効な手段だったのなら、オレオレ詐欺はなくなっているか、規模が縮小しているはずですが、増えています」


「そうだな・・・」


「何かやったら罰せられるようにして、証拠を調べられる状況を作ればいいのだと思っています」


「たしかに。戸松先生。篠崎。話の腰を折って悪かった」


 戸松先生と俺に頭を下げてから、座り直した。


「戸松先生。電脳倶楽部でログを調べています。報告を持っていけばいいですか?」


「そうだな。でも、その前に、このワンクリック詐欺は広がると思うか?」


「思います。家のパソコンでは開いていないと言っていましたが、実際はわかりません。誰かが踏んだのは間違いないでしょう」


「そうだよな・・・。はぁ面倒だな」


「注意喚起だけでいいのでは?パソコンには対策を取りますので、大丈夫です。支払ったバカはいませんよね?」


「それは大丈夫だ。どうしようと慌てていたけど、支払う必要はないと言っておいた」


「わかりました。報告は、電脳倶楽部から聞いて下さい」


「わかった。それで?」


 戸松先生が、聞きたい内容は解っている。

 どうするのかだろう。


「幸いなことに、パソコンはすべてが同じスペックなので、俺がパッケージにします。それを、いれるようにします。ユーザ認証は、学校で立ち上げているLDAPにやってもらいます」


「わかった。それなら、今回の様な問題は発生しないな」


「はい。CUIもルート以外には起動を出来なくします」


「そうだな。パッケージのアップデートは?」


「必要ないでしょ?クライアントですよ?」


「それでも、大きな脆弱性が見つかった時には対処が必要だろう?」


「そうですね。パッケージの作り方はメモ書きで残します。電脳倶楽部が対応すればいいのでは?」


「わかった」


 戸松先生と詳細を詰めていく、十倉さんが口を開けて”ポカーン”としている。

 専門用語のオンパレードだからな。説明は、必要ないだろうけど、十倉さんの様な人が使えないとダメなのだろうな。


「十倉さん」


「おぉなんだ?」


「一台、設定が終わったら試してみてもらえませんか?」


「俺でいいのか?普通のパソコンでも、怪しいぞ」


「大丈夫です。いつも使うようにしてもらえたら、問題点も出てくると思います」


 十倉さんの予定を聞いて、戸松先生に許可を貰って、一台を、生徒会で貰う事になった。

 スペックが同じなので、そのままパッケージを作るためのマスターにする。


 Fedora系やDebian系もいいけど、Slackware系で行こう。

 家に帰って、必要なソースを落として、最小構成のDVDでも作ろう。緊急避難用に起動できるようにしておけばいいよな。


 ユウキには先に寝てもらった。徹夜まではするつもりはないが、必要な物は入手しておきたい。パソコンのスペックから、使えそうなドライバの入手に必要だろう。ライブラリも別途用意しておこう。監視用のソリューションの準備もしておけば、戸松先生に渡す時にも楽だろう。マニュアルは、電脳倶楽部に任せよう。それまで作っていたら時間がいくら有っても足りない。


 操作がGUIになっていて、認証はLDAPで行えて、学校に登録しているメールアドレスにパスワードが送付されるようにすればいいな。

 あとは、Office系も使いたがるだろうから、何か入れておいたほうがいいだろうな。GUIは悩むけど、KDEでいいかな。いくつか導入して選べるようにしてもいいだろう。クライアントユーザのホームは、共有ディスクに置くようにしよう。LDAPに紐付けておけば管理もできるだろう。

 あと、必要な物は・・・。こっそりと、ゲームは何種類か入れておこう。暇つぶしになるような物で十分だろう。スコアサーバを立ち上げておけば、こっそりのランキングで遊べそうだからな。


 準備は出来たから、放課後に設定をして、十倉さんに試してもらって、問題がなければ、電脳倶楽部に引き継げば、俺の役割は終わりだな。


 寝室に行くと、ユウキがモゾモゾしていた。

 寝られなかったようだ。ユウキと話をしながら、眠りについた。


 翌日は、最後の授業が先生の都合で、無くなった。

 俺は、そのまま生徒会室で、パソコンの設定に取り掛かる。


 持ってきたノートパソコンとリバースケーブルでつないだ。動作の監視を行おうと思っている。外部に繋ぐのはためらわれるが、必要なドライバやライブラリが足りなくなった時に、DVDに焼くのは面倒だ。ノートパソコンのディスクをマウントして使ったほうが楽だ。

 BIOSの設定やHDDの設定を行っていく、DVDから起動してOSをセットアップする。

 一通りのバイナリを順次作っていく、設定も行っていく。LADPは以前に作っているので、それを利用する。ホームをマウントしたネットワークドライブに設定を行う。GUIも4種類を入れておけば、好みの問題も解消されるだろう。入っているプログラムを起動する設定は、面倒だから後回しにして、周辺機器やプリンタの設定を行う。

 問題はなさそうなので、負荷テストとセキュリティチェックを行う。

 今回問題になったサイトにつなげてみて、問題が発生しないのを確認した。


 ウィルス対策を入れておく、パッケージのアップデートをしないと気休め程度だろうけど、やらないよりはましだろう。監視ができるように設定して、サーバから監視ができるのか確かめる。


 結構な時間になったので、今日は終わりにして、明日にでも、十倉さんに試してもらおう。

 一緒に、電脳倶楽部に説明をすればいいな。


 帰ろうとしたら、戸松先生からメールが入った。

 どうやら、他の部でも同じメールが届いていたようだ。出本はわからないらしいが、遡って確認しているらしい。何人かは、家のパソコンで開いて大変な状況になってしまっているようだ。大丈夫なのか?セキュリティ意識とかの問題ではないと思えてくる。

 幸いなことに先生方には、クリックした人はいなかったので、職員室や教員が使っているパソコンが無事だった事だ。最低限は守られているようだ。

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