第三話 伊豆旅行(二人の夜)


 今日は、ペンションに泊まると教えられていた。土肥のホテルではある意味しょうがなかったのだろう。シングルの部屋がなかったのだ。ペンションなら、部屋数もあるし大丈夫だろう。


 14時を回った位に、白浜海岸に到着した。

 ユウキは白浜を喜んでいる。美優さんも控えめながら梓さんと一緒に波打ち際での散歩を楽しんでいるようだ。


 近くのショッピングモールで早めの夕飯を食べたのが16時前だ。そのまま、買い物をした。

 なぜか、梓さんと美優さんから水着を買うように言われた。夏になれば必要になるし、奢りだと言うので不思議に思いながら、ユウキと俺は水着を選んだ。俺は一般的なトランクスタイプの物だ。ユウキは、普段はワンピースタイプで実用泳ぎに向いた物を選ぶが、今回は梓さんの提案を受けてビキニタイプにしたようだ。

 スタイルは悪くないので似合っていた。ある一部がもう少し大きければ・・・。


 夜中に食べる物は、ペンションにレンジがあると言われたので、冷凍食品を選んだ。夜中に食べなかったら、明日の朝に食べられる物を選んでおいた。


 梓さんの運転する車でペンションに移動を開始した。

 美優さんがソワソワしているのが気になったが、突っ込んではダメだと思って何も聞かなかった。


 山の中腹にある場所で車が停まった。


「タクミ君。ユウキ。ここで降りてくれ」


「ここですか?」


 ペンションと言うか別荘地なのだろうか?

 目の前には、小さな別荘が1軒だけ建っている。森の中に建っているので雰囲気がすごくいい。周りに溶け込んでいる。


「トランクを開けるから、荷物を降ろしてくれ、あぁタクミ君とユウキの荷物だけでいいからね」


「はい?」


 トランクから、ユウキと俺の荷物を降ろす。


「明日は、11時に出ればいい。10時50分にここの場所で待ち合わせをしよう」


「え?」


 車からユウキが降りて、ドアを閉めて、トランクを閉める。エンジンがかけたままだったので、すぐにUターンして来た道を帰ろうとする。少し、車が進んだ所で停まって、梓さんが窓を開けて顔を出す。


「別荘の鍵は、ユウキが持っているから安心してくれ。それじゃ!おやすみ!」「おやすみ!ユウキ。またね」


「は?」「うん!先輩。おやすみなさい!」


 意味がわからない。

 ペンションと言っていたよな?なんで、別荘になっている。それも、ユウキと二人?


 不思議に思っていたが、ユウキが平気そうにしているし、なぜか嬉しそうだ。確かに、別荘なんて泊まる機会はそんなにない。それに、可愛いし、雰囲気があるのは認める。ユウキが好きそうな建物だ。


「すごいね。タクミ!裏には、人口の池があるらしいよ。釣りも出来るって言っていたよ!」


 なぜかテンションが高い。

 まぁ別荘なら、主賓室だけじゃ無いだろう。楽しまなければダメだな。


 ユウキがカードキーをかざすとロックが外れる。

 そうか、貸別荘だから鍵の複写とか簡単にできてしまうのは問題になるのだな。考えているな。スマホを見ると、微弱だが電波も届いている。よく見ると、WIFIが入っている。別荘にネットが引かれていてWIFIを飛ばしているのだろう?アクセスコードは、部屋に入ればわかるのだろう。


「タクミ!早く!」


「あぁわかった。引っ張るなよ」


 部屋数は少なそうだ。

 広い玄関を入ると右手にトイレがある。左手に小さなキッチンが見える。冷蔵庫もある、冷凍食品を入れておこう。レンジだけではなく、3口のコンロがあるし、オーブンレンジも付いている。わかっていれば、凝った朝飯を作ったのに・・・。


 奥に扉がある。リビングがあるのだろう?

 最悪は、リビングで寝ればいいな。ソファーくらいはあるだろう。


「タクミ!先に行っていて!」


「わかった」


 ユウキは、来て早々にトイレに入った。我慢していたのか?


 奥の扉を開けて中に入る。


 え?

 俺の考えは甘かったのか?


 ひとまず、落ち着くために部屋の隅に荷物を置く。

 もう一度部屋を見る。見間違いでは無いようだ。


 部屋には、大きめのTVが置かれている。多分、40インチを超えているだろう。そして、その前にダブルのベッドが置かれている。部屋着のガウンが二着並んで置いてあるので、二人部屋なのは間違いないようだ。ドアがあった壁以外は、窓ガラスだ。扉もガラスになっている。

 簡単に言えば、部屋は一部屋しかない。それだけではなく、ベッドの脇にある扉は透明になっていて、外に出られるようになっている。ユウキが言っていた人口の池に出られるのだろう。しかし、その脇にあるのは俺の記憶が正しければ風呂と形容できる物だ。ベッドルームから丸見えになっている。外からは竹やぶで目隠しをされているようだが、池の方角からは丸見えだ。

 テラスになっている場所から直接風呂に行くのか?どこで着替える?そもそも、丸見えだぞ?


「タクミ!いい部屋でしょ!僕が選んだよ!」


「え?ユウキが?」


「うん!森の中の家って何か憧れるからね!」


 ユウキが背中に抱きついてきた。


 後ろを振り向くと、買ったばかりの水着を着ていた。


「タクミ!お風呂に入ろう!早く着替えてきてよ!」


「あっあぁ」


 この為に、水着を買ったのか?


「タクミ。先にお風呂に行って居るね。お湯を貯めておくからね」


「わかった」


 ふぅ・・・。

 水着だし、ユウキも喜んでいるから・・・。寝る場所だけ考えれば大丈夫だよな?


 美和さんの手紙が頭をよぎったが・・・。俺が流されてどうする。ユウキは、妹だ。本人は、姉のつもりで居るけど、手がかかる妹だ。


 大丈夫だ。ユウキは、妹だ。大切な家族だ


 水着に着替えて、テラスに向かう。

 薄暗くなった森の中で、湯船が幻想的に光っている。


「タクミ!早く!気持ちがいいよ」


「あぁ」


 俺は、湯船の幻想的な雰囲気に目を奪われていただけだ。

 ユウキが綺麗で可愛く見えたから見ていたわけじゃない。


「タクミ?」


「ん?なんでも無い」


 お湯は、俺が好きな少しだけ高い温度になっている。ユウキが設定したのだろう。


「ユウキ。お湯、熱くないか?ぬるくしていいぞ?」


「うん。でも、いい。ゆっくり入れば、冷めてくるでしょ?」


「そうだな」


「ねぇタクミ。お風呂に一緒に入るのは久しぶりだね」


「そうだな」


「小学校以来?」


「だと思う」


「そうだよね。中学の時に、僕が一緒に入ろうとしたら、パパとママに止められたからね」


「え?」


「タクミは覚えてない?」


「あぁ」


「ママと沙菜ママに、怒られた」


「へぇ」


「タクミ?聞いている?」


「聞いているよ」


 ユウキが俺の顔を覗き込む。いつも見ているが雰囲気が違うのか?それともいつもと違う匂いだからなのか、普段と違って見える。


「ふぅーん。まぁいいよ」


 ユウキの肩があたる。足も触れている。すぐ横に居る。いつもの距離だけど、心臓が心地よいリズムでなり続けている。


「タクミ?」


「なんだよ?」


「なんでもない。タクミ。僕ね」


「あぁ」


 ユウキが俺の肩に頭を乗せる。

 いつも、ソファーでは同じ体勢なのに、雰囲気が違うだけで・・・。こんなにも・・・。ユウキだぞ!妹だ。


 自分に言い聞かせようとユウキを見ようとしたが、頭を動かすつもりは無いようだ。


「あ!流れ星!」


 ユウキが立ち上がった!


「ほら!見た!タクミ!流れ星だよ!」


 ほら、やっぱりユウキだ。


 立ち上がって、あちらこちらを見て指差している。


「タクミも探してよ!僕、お願いをしたい!」


「わかった。わかった。落ち着けよ」


「あっうん」


 ユウキが元の場所に戻ってきた。


「タクミ。怒っている?」


「ん?どうして?」


「僕の顔を睨んでいたから・・・。僕、怒らせちゃった?ただ、タクミと一緒で嬉しいだけ・・・」


「違うよ。気にするな。ユウキが普段と違って見えただけだ」


「本当?」


「あぁシャンプーもいつもと違うよな?」


「うん!気がついた?土肥のホテルでエステを受けたときに、一緒に買った!タクミも使う?」


「俺は、いいよ。備え付けの物を使うよ。高いのだろう?大事に使えよ」


「うん。タクミが気に入ってくれたのなら嬉しい」


「そうだな。好きだな」


「え・・・」


「ん?シャンプーの匂いだぞ?」


「え?あっうん。僕も好き!」


「タクミ・・・。あのね。ぼ・・・く・・・がん・・・ば・・・(すぅ・・・)」


「ユウキ?」


 ユウキが俺の肩に頭を乗せた状態で寝息を立て始める。

 いつも思うが、スイッチが切れたように寝るのは止めて欲しい。それに、今日は風呂だぞ?


「ユウキ?起きろよ。ベッドに移動しないと風邪を引くぞ。それに着替えないと駄目だぞ」


「うーん」


「ユウキ!」


「タクミ。僕、僕ね」


「わかった。ほら、風呂から出るぞ」


「頑張ったよ。タクミの隣に・・・。僕・・・」


 ユウキが腕を伸ばしてくる。眠くなったり、寝ぼけたり、甘えたい時に多い動作だ。本当に眠いようだ。普段は、制服や寝間着だが今日は水着だ。いろいろと意識してしまう。


「ユウキ。今日は駄目だ。自分で着替えろ」


「ヤダ!タクミならいいよ!?」


 寝ぼけているのか?俺に腕を回して、寝てしまっている。

 ユウキ・・・。しようがない。


 ユウキを抱きかかえて・・・。その前に、体を拭かないと、ガウンは部屋の中だ。タオルは近くにある。簡単で許してもらおう。


「ユウキ。ベッドにつれていくから、その前に身体を拭くぞ?いいな」


「うぅぅ・・・。うん。お願い!」


 ユウキが腕を緩めた。テラスに椅子があるから、座らせてから身体を拭こう。タオルは1枚しかない。ユウキは、タオルを持ってきていないのか?

 まぁいい。ユウキを拭いてから、自分を拭けばいい。


 ユウキは寝ているな。

 さすがに、水着のままで寝るのは・・・。ユウキはしょうがないけど、俺は着替えよう。まずは、ユウキを部屋に連れて行って、ガウンを着せる。


「ユウキ。ほら、ガウンを着ろ。そうしたら、もう寝ていいからな」


「ヤダ!タクミと一緒に寝る!?」


「わかった。わかった。一緒に寝るから、ガウンを着てくれ」


「ヤッ!」


「何が嫌だよ?」


「胸苦しい。お腹が苦しい。脱ぐ」


 胸が苦しい?お腹は食べ過ぎだろう?


 水着を脱ごうとしだす。本当に寝ぼけているのか?


「おい!ユウキ!脱ぐな」


「ヤッ!脱ぐ!」


「わかった。わかった。後ろ向いているから着替えろ」


「うん!」


 後ろを向いたら、ユウキも背中を向けたようだ。背中にユウキの背中があたるのでわかる。ガウンも着たようだ。


「着替えた!はい。タクミ!僕、寝る。おやすみ」


 ユウキを見ると、しっかりとガウンを着て居る。水着を脱いで俺に渡してくる。

 干す場所がないか、探す必要があるだろう?キャリーケースの取手の部分で・・・。俺の水着も干しておかないと・・・。駄目だ。長風呂で・・・。眠くなってきた。


 もういいや。

 俺も寝よう。

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