第二話 伊豆旅行(その1)


「タクミ君。準備はいいのかい?」


「梓さん。車を変えたのですか?」


 先輩たちが乗り付けた車は、前に乗ってきた車と違っていた。BMW MINI だ。


「これは、美優の車だ」


「へぇ可愛いですね」


「ありがとう。それで、タクミ君。ユウキは?」


「準備は終わっているので、すぐに来ると思います。荷物はトランクに入れればいいですか?」


「あぁちょっとまってくれ、開ける」


 トランクが開けられる。それほど広くは無いが、並べれば綺麗に入るだろう。

 丁度。ユウキが玄関から荷物を持って出てきた。


「先輩!あっタクミ。荷物をお願い。僕、沙菜ママにお小遣いを貰ってくる」


 ユウキが、篠崎家から出てきて、篠崎家に入っていった。


「タクミ君」


「なんでしょうか?俺に説明を求めても無理ですよ。”ユウキだから”と答えます」


「いや、それは良いのだけど、美和さんが居るのなら僕たちも挨拶をしたいのだけど?」


「いませんよ。桜さんも美和さんも。仕事に行っています。オフクロは午後かららしいので、まだ家に居ますが、ユウキ以外が近づくと機嫌が悪くなるので挨拶は帰ってくる時でお願いします」


「わかった。それに、お小遣いとか言っていなかったか?」


「多分、桜さんか美和さんから預かっているのだと思いますよ。ユウキは、サイフの中にあれば最初の店で全部使い切ってしまう可能性が高いですから、俺がある程度は預かっていますが、それでも最初に使うお金は”お小遣い”として貰って、サイフに入れていないと機嫌が悪くなりますからね。いきなり、俺が渡すのは駄目です」


「難義な性格だね」


「そうですね」


 ユウキは、ニコニコ顔で戻ってきた。予想よりも多くお小遣いをもらえたのだろう。もしかしたら、オフクロやオヤジが追加したのかも知れない。


 先輩の車に乗り込んだ。

 運転席には梓さんが座って、助手席には美優さんが座った。梓さんの後ろにユウキが座って、美優さんの後ろに俺が座る。


 最初の目的地は、沼津港だ。シーラカンスが展示されている深海魚水族館に向かう。


 車の中では、ユウキが梓さんや美優さんに話を聞いている。

 俺は相槌を打っていればいいだけで話が進むのは楽だ。


 沼津までは、バイバスを進めばいいだけだ。道にも迷わないだろう。ナビが必要になるとしても、沼津に入ってからだろう。


「先に、食事をしよう。タクミ君もいいよな?」


「あ!僕、深海魚が食べたい!」


「ユウキ。この前、5色丼を食べたばかりだろう?」


「それは、清水港の丼兵衛の選べる丼?」


「そうそう、タクミが好きでよく一緒に行きますよ。先輩も行くのですか?」


「好きに組み合わせができるからな。美優はエビが嫌いでね。海鮮丼だと入っているだろう?あそこなら選べるからな」


「そうですよね。でも、タクミ。深海魚はなかったよ?」


「ゴソやアブラボウズやコショウダイは、ユウキも好きだよな?」


「うん!この前は有ったけど、たまにしか無いよね?」


「あれは、深海魚だぞ」


「え?そうなの?でも、いい!食べたい!ダメ?」


「はぁ・・・。先輩方もいいですか?深海魚水族館の近くに、深海魚を出す店があったと思うから、そこに行けば、深海魚もそれ以外も食べられると思います」


 先輩方の承諾も取れたので、ユウキの希望通りの店に決まった。


 車を駐車場に停めて、店に向かった。

 食事時には少しだけ早かったので店は空いていて、すぐに座れた。


 ユウキは、文句を言いながら深海魚丼を食べている。梓さんは、美優さんが嫌いだと言っている物を交換しながら食べている。


 その後は、深海魚水族館を見て回って、ホテルにチェックインした。何か、仕掛けられているのかと危惧したが、ダブル一つとシングル二つを予約していた。その後は、美優さんがホテルの周りを散策したいと言い出したので、付き合った。自分が住んでいる町とそれほど違いはないので、見て回る必要も無いのだが、ユウキが喜んでいたので、良かったと思う。

 夕食は、ホテルの近くのファミレスに行って食べた。ユウキのワガママだ。昼に魚を食べたから肉が食べたいと言い出したのだ。梓さんが、面白がってファミレスにしたのだが、美優さんが喜んでいたので、梓さん的には満足出来る結果だったようだ。


 ホテルに帰ってからも騒動が発生した。

 ユウキが着替えを出したのは良いが詰められなくて、ホテルの内線電話を使って俺を呼び出したのだ。ユウキは着替えを出して、着ていた服を詰め込もうとしたら、ごちゃごちゃして詰められなくなったようだ。俺に、ユウキは下着も一緒に詰めろと言い出した。シャワーを浴びてくるまで待っていることになってしまった。これなら、最初から俺が着替えを渡したほうが楽だ。明日はそうしようと思った。


 翌日は、柿田川湧水を見て、三島に向かう。三嶋大社や佐野美術館を見てから、土肥に向かった。

 最初の運転を美優さんに変わったが、柿田川湧水を見るために駐車場に停めてから、梓さんが運転を交代した。俺も、その方が安全だと思ったが口には出していない。美優さんが少しだけ落ち込んでしまったので、”運転が丁寧すぎる”とフォローを入れた。


 土肥温泉には夕方に到着した。予定よりも早く着いた。ユウキが珍しく佐野美術館で展示されていた仏像の前から動こうとしなかったからだ。そんなに好きなら、連れて行ってやっても良いかも知れない。佐野美術館で時間を使ってしまって、遅れるかと思ったが、三嶋大社の駐車場にすんなり入れたり、工事中で土産物を買う場所がなかったり、土肥への道が空いていて、予定していた時間よりも早く着いて、ホテルの鍵を受け取る前にバイキングで食事をすることにした。


 土肥温泉でのホテルは、ユウキが選んだホテルだ。予約は先輩方がしたと思っていたが、どうやら美和さんが手を回したようだ。それなら安心出来ると思っていた俺の感謝していた気持ちを返して欲しい。


「本当ですか?」


「本当だ」


 俺は、部屋の鍵を受け取って、梓さんに確認した。

 渡された部屋の鍵は、和室6畳で2名用の部屋だ。先輩たちの部屋はツインのようだ。どっちがいいと聞かれて返事が出来なかった。ユウキが、和室がいいと言ったので、梓さんと美優さんがツインで、俺とユウキが和室に決まった。


 美和さんに文句を言おうと思って、電波が入る場所を探した。


「そうだ。タクミ君。美和さんから手紙を預かっている」


「え?」


 美和さんからの手紙を渡された。


”タクミ。ユウキは初めてだと思うから優しくしなさい。責任なんて考えなくていいからね。桜さんも、タクミならOKだと言っていたわよ”


 手紙を握りつぶした。あの親は何を考えている。ユウキの気持ちを蔑ろにするのか?


「タクミ!どこ行っていたの?早く部屋に行こう。僕、お腹いっぱいで疲れたよ」


「あれだけ食べれば当然だな」


「少しでも休めば大丈夫だよ。それに、後で温泉にも行く!先輩とも約束したよ!」


「わかった。わかった」


 ユウキが同じ部屋なのを意識しないのに、俺が意識するのは間違っているだろう。

 気にする必要も無いだろう。いつものユウキだな。


「ねぇタクミ!温泉で、エステとか受けていい?僕、やってみたい!あと、整体とか足つぼとかヘッドセラピーとかも興味がある!」


「いいよ。どうせ、先輩の奢りだ。全部受けてしまえ!その後、カラオケでも行くか?」


「いいの!行こう!」


 開き直って楽しんでやる。

 梓さんと美優さんはカラオケには来なかった。二人で、足湯に浸かりに行った。風呂やリラクゼーションを堪能したユウキは、カラオケの途中で眠くなってしまった。部屋に入って、布団に潜り込んで寝てしまった。


 翌朝、朝から風呂に行きたいと言い出すユウキを送り出して、着替えを詰め込んだ。

 風呂から上がって来たユウキに、服に着替えさせてから、朝ごはんに向かった。先輩たちは、朝ごはんは軽く食べるだけのようだ。ユウキはガッツリと食べているがいつもと同じなので気にしない。


 土肥から、天城峠に向かう。

 運転は、梓さんが担当する。少しだけほっとした。


 昼を少しだけすぎた時間に、道の駅”天城越え”に到着した。ここは、梓さんのリクエストだ。”山葵丼”と”猪ラーメン”を食べたいらしい。


 目的の物を食べて上機嫌になっている梓さんの運転で、白浜海岸に向かう。

 夕方前には到着出来るだろうから、途中で早めの夕ご飯を食べる予定になっている。今日は、ペンションに泊まる予定になっているので、途中で夜に小腹が空いた時につまめる物を買っていく予定になっている。

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