思いは永久に

勝利だギューちゃん

第1話

ある日、夢を見た。

自分でも、「これは夢だな。」と、自覚の出来る夢だった。

所謂、明晰夢(めいせきむ)というやつだ・・・

(こうなったら、楽しんでやろう・・・)

俺は夢の中を、さまよった。


夢というのは、本当に愉快だ。

それが、明晰無となると、なおさらだ。

何でも自分の意のままになる。


ひとしきり楽しんだ後、上空が光り、空から人が降りてきた。

「明晰無は、楽しんでいるかの」

その人物が、俺に声をかけてきた。

「あんたは・・・」

「わしか・・・わしは神様じゃよ」

「神様・・・?」

そんなの、思い描いてないぞ・・・

「当然じゃよ・・・わしは人の意に反して行動できるでの」


(もう何でもいいや・・・どうせ夢だ)

そう思い、楽しむ事にした。

この自称「神」とやらの会話を・・・


「お主の事は、いつも見ておった。

なかなか、興味深いのう・・」

「そうですか・・・」

「おやおや、いきなり敬語かのう・・・」

「神様ですからね。礼儀です。」

もう何でもありだった・・・


「で、お主に話があったのう。

実は神たちとの会話で、お主を不老不死にしようとまとまったのじゃ」

「不老不死・・・ですか・・・」

「返事は急がなくてもいい・・次の・・・」

「お断りします」

俺の即答に、神様はとまどっていた・


「なぜじゃ・・・不老不死とは、人類がかねてより夢見ていたことじゃぞ」

「確かに『死にたくない』と言えば、ウソになります」

「なら、なぜ断る・・・これほど魅力的な話はないぞ」


神様の言葉に、俺は反論する。

「人生というのは、レースに出るような。物です。

レースには、ゴールがあるから、全力を出し切れます。

不老不死になるというのは、ゴールのないレースを、エンドレスに走り続けるようなものです。

そんなレースには、参加したくありません。」


「後悔はしないかの・・・その選択に・・・」

「ええ、しません」

俺は断言した。


「それに・・・」

「それに・・・」

「俺・・・いえ、私が不老不死になれば、3年前に死んだ彼女とは、

永久に会えない事になります。」

「彼女に・・・」

「私は彼女と約束したのです。精一杯生きると・・・

そして、いつか再会した時に、恥ずかしくない人間になると・・・

そんな彼女との、再会を楽しみにしています。

俺は今でも、彼女を愛しているのです。」


「えらい!よく言ったわ」

その瞬間、神様の体が崩れ落ちて行った。

そして、知っている人物が現れた。


その人物は、その彼女だった。

「ありがとう。まだ私の事を覚えていてくれたのね」

「当たり前だよ。忘れられるはずがないじゃないか・・・」


彼女は続けた。

「あなたは、私との約束を守ってくれている。

上からずっと見ていたわ。

私の事を今でも想っていてくれて、嬉しく思ってる。」


その瞬間、彼女が上へと昇っていく。

「ありがとう。久しぶりにお話しできて嬉しかった」

「ま・・まっ・・・」

「そこから先は言わないで・・・私はいつも、見ているよ。

だから、レースを棄権したら、許さないからね・・・」


辺りがまぶしくなる・・・


目覚めた・・・

「よかった・・・気が付いたのね・・・」

「ああ。よかった。」

「父さん、母さん・・・俺は・・・」

両親の心配そうな顔が覗き込んでくる・・・


すぐにお医者さんが、駆け込んできた。

「・・・話して、大丈夫ですかい・・・」

「はい・・・」


お医者さんは、新聞を見せる。

その中には、電車の脱線事故の記事が載っていて、

多数の犠牲者が出たとあった。


「君はは、その数少ない生存者だったんだよ。」

「生存者・・・ですか・・・」

「そして・・・」

お医者さんは、あるものを見せる。


それは、ぬいぐるみだった。

3年前の、俺の誕生日に彼女からもらったものだ。

俺はお守り変わりに。持ち歩いている。


「このぬいぐるみを見つけて、その下をさがしたら、

君がたおれていたんだよ・・・」

ぬいぎるみを手渡される。

俺はぬいぐるみを、抱える。


ぬいぐるみを見つめていると、涙がこぼれてきた・・・

すると、ぬいぐるみの中から、カードが落ちてきた。

(あれ、気が付かなかったぞ・・・)

そのカードには、こう書かれていた。

「○○くん、20歳のお誕生日おめでとう。これからも仲良くしてね」

間違いない、彼女の筆跡だ。


あわててお医者さんに尋ねる。

「今日は、何月何日ですか?」

「○月×日だよ・・・」

○月×日、今日は俺の誕生日だ・・・

しかも、カードに書かれていた年齢は、3年前ではない。

今年の年齢だ・・・


「しばらく・・・ひとりにしていただけませんか・・・」

そう言って、先生と両親に席を外してもらう。


窓の外を見た・・・

白い雲が、彼女のように見えた・・・

「そっか・・・守ってくれたんだね・・・ありがとう・・・」

そういって、ぬいぐるみを抱きしめる・・・


「いつまでも見守っているからね」

彼女の声が聞えた・・・


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思いは永久に 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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