月読(つくよみ)
芦原瑞祥
第1話 保食神(うけもちのかみ)
「
褥から出ようとする
「そなたといると夜が短い。いま少し、共寝したいものを」
ぬくもりと匂いをむさぼるように息をし、白い肌を唇で吸う。紅い筋が花びらのように散った。
「
喘ぎ声をたてつつも、
姉の名を出されると、弱い。月読もしぶしぶ褥を出て、青白い体に衣をまとった。
父である
「漆黒の夜のような、美しい髪ですこと」
みずらに結ってくれる、その指の動きが心地いい。
「しかし、皆は吾のことを暗いと言う。暗くて、冷たい、と」
ツクヨミの名には、
「それは、月読さまがあまりに美しいからですわ。美しすぎると、人は畏れるものです」
「吾は美しくない。青白く怜悧な顔つきで、ぎすぎす痩せて、誰もが崇める姉上の威厳に満ちた華やかさとは大違いだ」
「吾にとっては、月読さまがこの世でいちばんの美神です。この御体を、吾の産みだす
だから、
朝餉を用意しようとするのを「食欲がない」と断り、姉に献上する食物が入った袋を持って
「また来る。日の出ていない夜の間に」
うっ、という呻きとともに、彼女が何かを吐き出し、手で受け止めた。それは、橙色をした手のひらほどの大きさの実だった。
「朝餉を召し上がらないのでしたら、これを。月読さまは果物がお好きだから」
生温かさの残る果実を手渡される。
「これは、新たな果実だな。……
橙色の実を検分しながら言うと、
「吾は、月読さまのために産みましたのに」
力ない声でうつむいているのは、がっかりしたせいばかりではないだろう。
新種の食物を産むのは、簡単なことではない。
詳しくはわからないが、彼女の身を削っていることは確かだ。負担をかけたくないので、七日に三種までにしているが、
「さあ、日が昇ってしまいますよ」
地上を見下ろすと、彼女がいる
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