第2話
「大丈夫?」
俺の背丈くらいある巨大カッターで変態を惨殺した少女は、やわらかい笑みを浮かべていた。
色素の薄いアッシュ系の髪に大きな藍色の瞳が特徴的な少女は、なんの警戒もなくズイッと人形のような端正な顔を寄せてくる。
そのまま、スンスンと鼻を鳴らす。
匂いを嗅いでいる?
「うん、人型の魔物とかじゃないね。安心安心」
「はぁ……この世界には人の形に近い魔物もいるんですか?」
「そうだよ。さっきあなたを追いかけていた変態もれっきとした魔物の一種だよ」
「えっ、まじで!?」
今度からあの魔物にだけは遭遇しないように注意しないと……。
「ところで、君は一体……」
服装からして魔物退治のプロ、つまりは冒険者のようだが。
武器こそ巨大カッターと変だが、装備は黒を基調としたマント服にスカート、ブーツといかにもそれらしい格好をしている。
「はっ! 私としたことが自己紹介が遅れていました。そうださっき村で作った名刺があるのでよければこれで自己紹介を」
慌てた様子でポケットから名刺を取り出し、律儀に両手で渡してくる。
「え~と、リーチェ・シグトゥーナ、でいいのかな?」
「はい!」
「俺は有原昌也だ」
「アリハラショウヤ? 珍しい名前ですね。う~ん、ショウヤ、ショウヤ……」
おいっ、なんか急に考え込んだぞこの女。
というか何者なんだ?
名刺を見ればわかるかな?
名前:リーチェ・シグトゥーナ。
職業:暗殺者(アサシン)。
ふ~ん、殺し屋なのかこの子……って殺し屋!?
殺し屋ってあれだよな、闇夜でターゲットを華麗に始末するあの殺し屋か!?
ターゲット:勇者。
しかも狙いは俺じゃねぇかよ!
「う~ん、アリハラショウヤ、アリショウちゃん! いやなんか違うなぁ~」
というか普通、名刺に堂々と暗殺者だって書くか!?
こういう稼業って人知れず、自身の身分を隠すのが鉄則とかじゃないのか!
「よしっ、決まった!」
「うわっ!?」
「うん? どうしたのそんなに驚いて」
「いやいやいや、なな、なんでもありませんぞ!」
「なにその喋り方。おかしいの!」
名刺で堂々と自分の正体明かす奴にいわれたくないわっ!
「そ、それでなんの用だ」
「ショウ!」
「へっ?」
ビシッと人差し指を突きつけられ、宣言された。
なに、どゆこと?
「名前、アリハラショウヤじゃ長いから、ショウって呼ぶね」
なんだ、呼び名のことか……。
「そ、それでリーチェさんはどうしてこんなところに?」
「もうっ、リーチェさんだなんて堅苦しいなぁ。リーチェでいいよ」
「おっ、おう。それでリーチェはどうしてこんなとこに?」
「予言が出たの」
「予言?」
「うん。ここで私の運命の宿敵(ターゲット)と遭遇できるっていうね。その人と合わないと私の使命が達成できないから、探しているんだけど……う~んそれらしい人は見かけられずに苦戦しているところでショウと出会ったの」
「へっ、へぇ~そうなんだ」
取り乱すな俺。
相手は暗殺者だ。
ここで平静を崩すものならすぐさま悟られてあの世逝きだぞ!
「ち、ちなみにその使命ってどんなものなんだ?」
「うん? 勇者を抹殺することだけど?」
いったぁ!?
名刺で書いてるだけじゃ飽き足らず、堂々と口で宣言しやがったぁ!
間違いない!
こいつは俺を殺すために送り込まれた刺客だ!
幸い相手はまだ俺が勇者だって気付いていないみたいだし、このまま適当にはぐらかして逃げよう。
「おかしいなぁ。予言ではきちんと勇者の特徴まで教えてもらったはずなのに一向に見つけられないなんて……」
「へぇ~そうなんだ。それでその特徴ってどんなんなんだ?」
「え~とねぇ。年は私と同じくらいの男の子で、武器は剣を装備していて」
「だらしゃあ!」
「うえっ! 急に叫んでどうしたのショウ?」
「あはは、虫が出たから追い払っただけだよ」
「そうなの? あれ? ショウの持っていた武器ってそんなのだっけ? もうちょっとしっかりとした金属製の」
「なにをいっているのかねリーチェくん。私の武器は生まれたときから生涯このひのきの棒と決まっているじゃないか。それよりも他にその勇者の特徴とかないのか?」
背に腹は代えられない。
王様からプレゼントされた金属の剣だったが、ハンマー投げの要領でぶん投げた。
代わりにその辺の木の棒を拾って武器にしたのだが……まぁ、この辺はどうせ雑魚敵しかいないだろうからこれでも充分やろ。
それよりも命の方が惜しい。
「なんか、ジャージー? とかいう通気性の良い特殊な服を着ているらしいんだけど」
そこまでヒント与えられているのによく俺を無視できたなっ!
ひょっとしてこの子、アホな子なのか?
ちなみにその予言通り、いまの俺の格好をジャージだったりする。
さすがにこれを脱ぎ捨てていく勇気はないので、そのままにしておく。
「まっ、まぁこの平原も相当広いし、気長に探していればそのうち会えるだろ。んじゃ助けてくれてありがとな。俺も行くとこあるからこれで」
手短に別れを告げ、俺を狙う暗殺者から離れる。
さっさと地図を広げて、目的の村まで……。
「って、あれ? 地図がない!」
しまった、あの変態に襲われ逃げている最中にでも落としたのか!
「お困りみたいですね?」
「うわっ、リーチェ! さっき別れたはずじゃ……」
「私の勘がショウについて行った方が目的を達成できると囁いている気がしてついてきちゃった」
こいつ……実は予言なんかあてにしなくてもその勘を頼りにしていけばいいんじゃないのか?
「それで、それでショウはどこの村に行きたいの? この付近だったら私案内できるよ」
「いやいやいや、助けてもらった上に道案内まで、そんな迷惑はかけられない」
「んもぅ、遠慮しないの! 困ったときはお互い様なんだからね!」
いや、ほんともう俺に関わらないでください!
死にます、リアルな意味で俺が!
「そういうわけでレッツ・ラ・ゴー! 目指すはラズの村だね!」
「って、なんで俺が行こうとした村の名前知っているんだよ!」
「えっ、そうなの? いまのは気合を入れるためだけに近くの村の名前を挙げただけだけど……」
ま、マジかよ……ハメられた。
「それじゃあ、目的地もはっきりしたところで、改めてレッツ・ラ・ゴー!」
まじでついてくるつもりだ、この暗殺者。
『リーチェを仲間にしますか ▶【はい】 【イエス】』
強制イベントなら選択肢なんて用意するなぁ!
『そんなわけでリーチェが仲間に加わった』
こうして半強制的に俺を狙う暗殺者がパーティに加入してきたのだった。
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