Part.10 激動
ステラの試験を終えて卒業記念のペンダントを加工していると、どうにもきな臭い動きが町であったようだ。
帝国はどこからか俺の情報を嗅ぎつけ、最近はブリックス邸に密偵らしき人影もちらほらと見え隠れしていた。そんな状況のため自らの姿ままでいることも出来ずに最近では屋敷の中でもハーミット……ハーミィ爺さんの姿で過ごしていた。
こちらから帝国の動きを探ろうと考えたこともあったが、今現在の帝国の魔法状勢が解らない以上隠遁の術が見破られる可能性も捨てきれなかったため俺に出来る事と言えば相手の動きに備え万全を期す事くらいなものだ。
帝国の影がちらついた頃はやり過ごそうとも考えていたが、こんな状況にもなれば逆に打って出る必要も出て来るだろうし自衛手段として軍備を整える必要もある。
いつだって脅威というものは隣を擦り寄る様について回るものだし、それにこの状況は元セブンスシェイズである俺をあっさりと飲み込んでやろうという意図があるようにも見えてあからさまに俺のことを挑発していた。我ながら短気なことにそんな下らないことに柄にも無く腹を立てていた。
とは言ってもここで無理に戦争を起こす必要など無い。最善は隠れきることであり、次点で撃退、最終手段に防衛戦を出来るように準備を整える。
存在をかき消すほどの隠れ蓑を、全てを穿ち砕く矛を、そして決して何者にも傷付けられぬ盾を用意すれば例えオディロンと言えども俺一人で片付けることだって出来る。問題はその三種の神器を如何にして作り上げるかだ。
俺は想像力が豊かな事と好奇心が強かったことがあったが為に金属に魔法を施した魔道具を作ったり、対魔獣戦用征伐兵器を作るなどしてその功績を称えられた。しかし本来国を豊かにする技術として開発されたそれらのものは軍の攻勢をさらに強めるものとなってしまった。
今度こそ平和のため、みんなのためにその実力をエンデルの為に発揮すれば良い。
俺は必死に考える。どんな盾こそ至高なのだと。どんな矛こそ全てを退ける牽制になるかと。しかし答えはまとまらない。広域に結界を張れば魔力の消耗は激しく、なおかつその力を上回る一撃で瞬く間に粉砕されてしまう。魔法結界では無く魔道具で結界を張っても良いがこの場合無差別に効果が発揮されてしまうため、内側からも手出しが出来なくなる。そうなればじきに町は疲弊し、侵略されてしまうだろう。
俺は考えた。考え続けたが、答えはでなかった。いっそ神にでもなれたら全てを思いのままに動かすことが出来るだろうに。そんなことを言っても仕方ないのだが。
埒があかないまま一週間が過ぎ、状況の改善を図るため情報収集をかねて隠遁の術で姿を偽って屋敷の外へ散策していると突然爆音が鳴り響いた。
町で何があったのか気になり、爆音の元へ駆けつけるとそこには見知った顔が……セブンスシェイズとして同席を連ねていた一人、覇王の二つ名を冠し、武器を使わず己の手足から繰り出される拳法のみでいくつもの戦場を勝ち上がった天賦の才覚の持ち主ローレンス・セルシオールが仁王立ちでそこに居た。
ローレンスは拳を天高く掲げると地面に振り下ろした。すると地面がひび割れ、轟音と共に土煙を上げた。
「聞け! エンデルの者ども! 我はローレンス、天賦の才を持ち武力の頂に立つ者である! 祖国の民は我を覇王と呼ぶ。その覇王が今貴様等に問おう! このエンデルにソテルという男はいるか! 知っているのならば我にその居場所を教えろ! 報告者は我が国で永遠の財貨を手にする事が叶うだろう! 箝口令が敷かれていたとしても報告は悪では無い。むしろこの町を救う正義の行為だ。民よ! 知っていることがあるのならばこのローレンスに報告せよ!」
勇ましい彼の姿を見てしまった俺はそっと逃げ出した。ここに居てはいけない。一刻も早く対抗手段を考えねばならない。そうでなければこのエンデルが滅ぼされる。
屋敷に向かって駆け出す。自分が進むその先の未来に何があるかも考えずに一心不乱に駆けている。ブリックスは、アリシアは、ステラは無事なのか? まさか屋敷に帝国兵が攻め込んでいるのではないか?
脳裏をよぎる最悪の光景を振り払い、守るべき人達の元へ駆けていく。
準備を始めるには遅すぎた。戦火の幕開けは既に切られていたのだった。
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