創世の先生 ~抗世の物語~

真白な雪

教師と生徒編

序章

序章 

 人間とは愚かなものである。自身が築き上げたものと他人が築き上げたものも判別が付かず恩と仇も区別も付かない。


 そんな人間だから人間を傷付けてしまうし、自身の行いを正義と言って悪になる。

泣き声や痛みの声に耳を傾けず、強者である自分に酔って弱者を甚振り正義を嘯く。


 正義を叫ぶ者はとても楽である。声高々に叫ばれた言葉は多くの場合で決定権を奪い取り、付き従う者達の寄る辺となる。故に力強く叫び続けた者が悪意を持って自分を正義だと叫んでいても誰もその悪意に気付くことはない。


 叫び声は周りを巻き込んで加速的に民衆の心を掴む。それが偽聖のものとも知らずに正義は我らにありと高らかに叫ぶ声……正義という甘美な響き、その魅力には逆らえない。


 その正義を違えないために人は法を設けて人であろうと律する。しかし上手く稼働し続ける事は難しい。一度先導者が道を違えればそれに倣って周りも付いてくる。


 そうなってしまえばルールなど無いに等しくなってしまう。しかし人は過ちを犯すものだ。それは人が不完全であるから仕方の無いことである。


 だからこそ人は過ちを犯した時のために罰を作った。にもかかわらず人は己の過ちが償いきれるものではないと解るとその罪を犯した人数によっては過ちを無かったことにする。それは己達が課した人としての責任を放棄する行為であり、自身を人ではないと認める行為だ。


 自分達は未来に向けて進歩しなくてはならないと言って【未来】を免罪符に罪を無かったことにする。あまりにも身勝手だが歴史は彼らを赦している。


 無意味に流される血肉はやがて怨嗟を産んで後々になって悲しい出来事であったと語られる。それは戒めの為ではなく自分達が犯した過ちが風化し始めた頃に自ら語ることによって罪を清算した気になるための手札の切り方に過ぎない。


 そうして形骸化した過ちはある種伝説のように語られ未来では物語となる。望まぬ終わりを押しつけられた者達は口を開く事も何かを残す事も許されずに散っていく。


 そんな悲しい世界だからこそ誰かが変わらなければならない。誰かが変えなければならない。そんなことを願っているばかりで何もしない人が殆ど、仮に何かを成そうとしても後ろ指をさされて笑われるだけ。


 そんな世界では誰だって救世主になんてなれやしない。


 だからこそ沢山の憎しみを持った者こそが、世界を壊したいと思う程の怒りを以て目的を果たそうとする者こそが必要なのだ。


 人は弱い。何かを切っ掛けにしなければ力なんて振るえない。だからこそ尽きることない原動力を持つ者が救世主になるのだろう。


 だからこそ、俺はこの世界の救世主になろうとするのだろう。


 世界は変わる。俺の手によって。世界は変わるんだ。

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