第14話 密談

「そろそろ三分なんで、元のデッキに戻すっすねwww」

「ちょ、ちょっと待って下さいっ! もう一回だけやらせてくれませんか? 一回では、なにがなんだか……」

「www、ダメっすwww。もう少しすれば大っぴらに出せるようになるんで、それまで待ってくれっすwww」

「そんな、殺生な……」

そうだよなあ、スサノオさん。

 せめてもう一度くらい戦わなきゃ分からないよ。


 ……と言うか、出し惜しみすんじゃねーよ。

 散々、心配させたし、迷惑も掛けたんだからさ。


「www。でも、まあ、自分の思い描いていた通りの結果だったみたいっすねwww。ジョーさんはUR曹操だったんしょ、軍団長は?」

「ええ……。俺の中では一番ステのいいデッキです。それなのにあんなにあっさり壊滅するなんて……」

「デュエルランキング1位の関羽使いいるっしょ? あれが多分ステじゃ最強っすけど、それでも耐えられないはずなんっすよねwww」

「ゴッドさんですか? 俺、デュエルでゴッドさんに当ったときに、突撃でギリギリHPが残ったくらいだったんですよ。そのゴッドさんでも?」

「当然っしょwww。そのくらい強くなきゃ、ランキング1位は張れないっすwww」

「たしかに、この負け方からすると、悪くてもランカーくらいはありますね」

悔しいけど認めてやるよ。

 無茶苦茶強いよ。

 マジでこんなの見たことがないし、当ったこともない。


 だけど、覚えている限りじゃ、おまえのデッキにはまだHRの武将が入ってなかったか?

 それに、上辺の真ん中に、見慣れないカードがあったような……?


「物凄いですね。こんな負け方初めてです。自慢のUR諸葛亮なんですが、反撃の余地もない。これでも二十枚弱は重ねているのですが……。なるほど、一撃で倒せばカウンターが入らないわけですか」

「そういうことっすwww。諸葛亮は元々ステのいいカードじゃないっす。だけど、それをカウンターと回復スキルで補って持久戦に持ち込むことで良さがでるんっすよね。だったら、超急戦に持ち込んでステの悪さに付け込めばいいんっすよwww」

「たしかに仰る通りです。ですが、今まで誰もそんなことを考えた人はいなかったです。いえ、考えても実行できた人はほとんどいなかった」

「さっき言った関羽使いは、似たような考え方っすね。なんっすけど、あれはただ単に強いのを並べてるだけっすwww。個々のカードの性能がいいのでそれでもランキング1位になっちゃったっすけど、あんなの自分は許さないっすよwww」

そうなんだよ。

 俺もあの関羽デッキは気に入らない。


 あ、いや、ユイさんを引き抜いたからじゃないぞ。

 根本的な考え方がキライなんだよ。


「まったりさん……。あの上辺の真ん中に置いたカードはなんです? 見たことが無いカードでしたが。それと、UR呂布を軍団長にするとは考えましたね。軍団長はステが三倍になりますから、UR呂布の長所が最大限に活きるということなんですね。驚きましたよ、あんな活かし方があるなんて」

「調べれば分かることっすから教えちゃうっすけど、あれはUR陳宮っすwww。陳宮がいなかったら、UR呂布は単なる木偶の坊っすよwww」

そうなんだよ、スサノオさん。

 俺も気になってたんだ、そのカード。


「UR陳宮? そんなカードありましたか?」

「www。かなり初期からあるカードみたいっすよwww。誰も使ってないっすけどwww」

「ああ、思い出しました。たしか、初期のイベント褒賞だったカードですね。その後、UR確定ガチャにだけごく低確率で出るようになった……。スキルは、一ターン目にデッキ内の武将すべてをバーサク状態にする……、でしたか?」

「そっすwww」

「ああっ! そういうことですか。バーサク、つまり攻撃力を飛躍的に高めるかわりにスキルが一切使えなくなるのを利用したのですか。バーサクの攻撃力アップは、六倍……。カンストしたUR呂布の攻撃力がどの程度か知らないですが、それが軍団長に入っていて三倍に……」

「計算すると分かるっすけど、大体200万ちょっとの攻撃力になるっすwww」

「に、200万ですかっ!!」

「www。突撃されたらどんな防御武将でも耐えられるわけないっしょwww。これだけ攻撃力があれば、他のスキルなんていらないっすしねwww。自分、なんでこの陳宮を使ってる人がいないのか、不思議で仕方がなかったっすよwww」

な、なんだとぉ?


 攻撃力200万って、そんなのあり得るのか?

 まあ、持久戦になってスキルで攻撃力が目一杯上がったりすると、たまに50万を越えることはあるけど、そもそもそんな攻撃力に耐えられる武将なんていやしないから、200万なんて実現不可能な領域だぞ。

 それを一ターン目から……。


 ……って言うか、そんなのに勝てるわけがないじゃないか!

 もし同じようにUR呂布とUR陳宮のコンビでデッキを作っても、他の奴のUR呂布はカンストしていない。

 いや、カンストどころか、半分のステがせいぜいだろう。

 だとすると、いくらスキルでバーサクにしても、まったりのデッキには遠く及ばない。

 つまり、あいつのランキング1位は間違いないってことか?





「誰も使わなかったのは、スキルが一切使えなくなるからなんですよ。持久戦になると攻撃力で追いつかれてしまいますし、そもそも回復スキルが使えないのでいくら攻撃力があっても勝てないからです」

「そういうことだと思ったっすwww。諸葛亮が初期から幅を利かせてたんっしょ、このゲームは。だから、スキルのいい武将が珍重されてたんっすね」

「初期の武将はどれも他のステにくらべて攻撃力が弱かったのもあります。だから、UR陳宮の良さが活きなかった。UR陳宮自体のステもよくありませんしね」

「ああ、なるっすwww。でも、自分は二周年イベントで呂布が出るのを読み切ってたっすよwww。三国志の中で、二周年に相応しい武将で今まで出てないのって、呂布くらいしかいないからっすwww。呂布は国士無双の豪傑っすから、大きなイベントで出るに決まってるっしょwww」

「ご賢察です。見事としか言いようがない……。最初から見通していたのは驚嘆に値します」

「www。それほどでもないっすけどねwww。だけど、古参のプレーヤーには完全に盲点になってたっしょwww。考え方は単純なんっすけどねwww」

いや……。

 単純でなんかあるものか。


 これは間違いなくまったりじゃなかったら出来ないデッキだ。

 ゲームの本質とUR諸葛亮に偏ったプレーヤーの心理。

 そして、それらを見極めた上での一時間睡眠と言う無茶な選択。

 すべて兼ね備えて決断しなきゃ、こんなデッキは出来上がらない。


 マジでハンパねえよ。

 正直、もう悔しささえない。

 ……と言うか、俺、今、猛烈に感動してる。


 三国志CVに、まだこんな強烈な可能性が残されていたなんて。

 しかも、そのデッキがこの創聖の勇者から誕生するって凄くねーか?


 それに、このデッキを単なる無課金が作り上げたんだぞ。

 共用垢でもなく、重課金でもない、ゲームをやり始めて半年も経ってない奴が……。





「……で、大体、自分の説明は終わりっす。これで納得してもらえたっすかね?」

「はい……。説明と言うか、あのデッキに負かされてすべて納得しました」

そうだよね、スサノオさん。

 俺も納得したよ。

 今までのまったりの言葉がすべて真実だってさ。


「それならよかったっすwww。それと、自分、ちょっとジョーさんと話があるんっすよ。申し訳ないっすけど、ちょっと他のチャットに顔を出してもらうわけにはいかないっすかね?」

「他のチャット、……ですか?」

「そっす。ここじゃ話しにくいことなんで、悪いけど来てくれっす。今、メールでURLとパスワード送るんで、よろっすねwww」

「はあ……。俺は構いませんが……。ですけど、ここじゃ話しにくいことってなんです?」

「www。それはあとで聞けば分かるっすよwww」

「……、……」

な、なんだよ?

 また、妙なことを言い出してさ。


「まったりさん……。それ、私も同席させてもらってはいけませんか? 物凄く気になるのですが……」

「www。悪いっすけど、ジョーさんにだけ伝えることがあるんっすよ。なんで、スサノオさんはあとでジョーさんから聞いてくれっす。なにをスサノオさんに話すかは、ギルマスのジョーさんが決めればいいことっすから」

「はあ……」

「www。スサノオさん、別に除け者にしようってんじゃないんっすから、悪く受け取らないでくれっすねwww。ジョーさんの個人的な話も入ることなんで勘弁してくれっす」

「そういうことなら諦めますが……」

「www、ありっすwww」

ギルマスが決めればいいこと?

 それに、俺の個人的な話だと?


 なんだろう?

 見当も付かないが、まったりが言うことだからなにか意味があるんだろう。


 ……って、俺、すっかりまったりを認めちまったなあ。

 あんなデッキを見せられちゃ、しょうがないけど。


 でも、基本的に基地なことは間違いないと思うんだ。

 いや、基地じゃなければあんなデッキできっこない。

 普通の頭じゃ、あんなぶっ飛んだこと考えるわけがないしな。


 だけど……。

 いるんだな、凄い奴って。

 想像もつかないような発想を具体的に形にするんだからなあ。


 これがあいつの言うところの、「本当のゲーム能力」ってものか。

 それにくらべて、俺はなにを今まで行き詰まっていたんだろう?

 あんなに色々考え抜いていたはずなのに……。

 こんな強烈な可能性を見落としていたなんてなあ。

 情けないと言うか、不甲斐ないと言うか。

 そりゃあ、ユイさんだって見限るよな。

 俺なりに頑張っていたけど、全然ダメなんだからさ。





「初めまして……」

一般のチャットルームって初めてなんだけど、こういうときって最初になんて言ったらいいんだろう?

 画像もなにもなく殺風景で、コメントが羅列されてるだけのサイトって、かなり異様な雰囲気だ。

 あ、ちょっと7ちゃんに似てるかな?

 だから妙に落ち着かないのかもしれない。


 まったりはなんだって俺をこんなところに呼び出したんだ?

 それに、話ってなんだよ?


「すまんっすね、わざわざ来てもらって。だけど、創聖の勇者内じゃ話せなかったんで勘弁してくれっす」

「あ、いえ……。ですが、もしかして話せないのは晒しがあるからですか?」

「違うっすよwww。さっきもちょっと言ったんっすけど、晒しはもう起らないから大丈夫っすwww」

「起らない? どうしてそんなことが言い切れるんです?」

「その辺も含めてジョーさんに話そうと思ったんっすよ。結構、長い話になりそうなんで、それも勘弁してくれっすwww」

「……、……」

「それと、もう一人来ることになってるんっす。他のゲームをやってるときの友人なんっすけど、重要な証言をしてもらうので呼んだっすよ。来るのにもう少しかかるんで、それまでに他の話をしておくっすね」

「重要な証言? まあ、なんでもいいですよ。分かりましたから始めて下さい」

やけに勿体ぶるじゃないか。


 それに、他のゲームの友人ってどんな奴なんだ?

 まさか、まったりみたいなのがもう一人来るんじゃないだろうな。





「じゃあ、まず、さっきの自分のデッキの感想を聞かせてもらえるっすかね?」

「ああ……。凄いの一言です。実は俺、まったりさんの言っていたことについて、悪いけど半信半疑だったんです。本当にランキング1位を取れるデッキなんか出来るのかなって。でも、実際に粉砕されてみると、認めるしかないかな……、って。ええ、取れると思いますよ、ランキング1位を」

「www。まあ、半信半疑で当然っすねwww。無課金がなに生意気なことを言ってるんだって思ってたっしょ?」

「あ、いえ……。でも、たしかにそう思わないではなかったかな」

「www。いいんっすよ、正直に言ってwww。自分、そういう反応に馴れてるっすからwww」

「じゃあ、率直に言います。まったりさんが創聖の勇者に入った当初は、全然信じてませんでした。ですが、あの防御特化のデッキを見てからは、もしかして……、と思いましたよ。発想が異質でしたのでね。俺にはあんな着想はありませんから」

こいつ、どこでもこんな感じなのか。

 そりゃあ、普通は信じないだろうよ、言ってることがぶっ飛んでるんだからさ。


「なんでこんなことを聞くかと言うと、あのバーサクデッキをデュエルで使っちゃっていいか聞きたかったからなんっす」

「はっ? 使うために作ったデッキなんじゃないんですか?」

「www、それはそうなんっすけどねwww。なんっすけど、近々、ギルド戦があるっしょ。それまで秘密にしておいた方がいいかと思ったんっすよ」

「どうしてですか? あれだけ強いデッキなら、誰とやっても勝てますよ。デュエルで使ったって問題ないでしょ」

「普通はそうなんっすけど……。自分、呂布を重ねるのに行動力回復アイテムを使い切っちゃってて、ギルド戦で全力で戦えそうなの一戦だけなんっすよwww」

「ああ、なるほど。そういうことですか」

……って、そういうところはやはり無課金っぽいな。


 行動力回復アイテムなんて安いから俺はふんだんに使うけど、デュエルランキングの褒賞を貯めてるまったりには限りがあるのか。

 まあ、そうだろうな。

 いくら貯めても、一週間フルで使えばなくなるさ。


「ギルド戦って、自分はまだ未経験なんっすけど、一人あたり5つのライフをつぶし合うらしいっすね。自分、ライフをつぶされることはほとんどないと思うんっすけど、敵のライフをつぶすのにも行動力が必要になるんで、回復アイテムが少ないとあんま貢献できないんっすよ」

「そうですね。課金者は回復アイテムを使って、つぶされたライフをどんどん回復してきますしね」

「らしいっすね。だとすると、創聖の勇者がマークされるとギルド戦で不利にならないっすか? 朝、晩の二回ずつギルド戦があって、一週間だから全部で十四戦っすよね。いくら課金者でも回復アイテムには限りがあるっすから、弱いとことやるときは極力回復アイテムの消費を控えるはずなんっす。逆に、強いとことやるときは目一杯回復アイテムを使うんで、マークされると損をすると思うんっすよ」

「ええ……。その辺のマネジメントは重要です」

そうか。

 ギルド戦を意識していたのか。


 こいつ、超アバウトかと思うと、逆に妙に先読みしてあったりして、なにを考えてるのか掴み辛いな。

 ギルド戦未経験だって言うけど、イベントの概要を知っただけで要点を掴んでいるし。

 こういう奴が敵にいると厄介なんだよな。

 おまけにあんなデッキを持っているのだから、旨く機能すればたしかに大きな戦力になりそうだ。


「ギルド戦の前にデュエルで晒すと、もう一つ問題があるんっすよ」

「もう一つ……、ですか?」

「UR呂布って配ったばっかっすから、皆が持ってるっすよね? それに、UR陳宮もイベントで配られたんっすから、持ってる奴は持ってるっしょ」

「ああ、そういうことですか。つまり、まったりさんの真似をする人が出てくるってことですね?」

「そっすwww。イベント褒賞って、無課金でも結構重ねてることがあるんっすよ。だから、使い方を覚えると今まで戦力になってなかった奴が急に手強くなったりする可能性があるんっすwww。それって、自分は大丈夫っすけど、創聖の勇者の他のメンバーにとっては歓迎しないことっしょ?」

「なるほど……。あの防御特化デッキも、しっかり真似されてましたものね。ええ、課金者は諸葛亮デッキが圧倒的に多いので、ウチのメンバーもダメージを受けるかも知れませんね」

そこまで考えてあるのか。


 ああ、間違いなく真似する奴が出てくるよ。

 UR諸葛亮を重ねてない奴は特にな。


 まあ、知ってても俺は真似なんてしないけどな。

 おまえのデッキには及ばないけど、それでも俺のも一生懸命考えて作ったデッキなんだ。

 猿真似で放棄することなんて絶対にしないさ。


「じゃあ、やっぱギルド戦が終わるまでバーサクデッキは公開しないっす。その方がいいっすね?」

「そうですね。まあ、ギルド戦にそれほど拘る必要があるかどうかは分からないですが、そうしてもらえると創聖の勇者的には助かります。ですが、まったりさんは大丈夫ですか? 二周年イベントが終わったらすぐにランキング1位になるって言っていたのを晒されてるんですから」

「自分は大丈夫っすwww。それに、創聖の勇者はギルド戦に拘らなきゃいけない理由があるっすよ」

「えっ? どういうことです?」

「その理由があるから、ここに来てもらったんっす」

「……、……」

「ジョーさんには酷な話かも知れないっすけど、知っておいた方がいいと思ったんで……」

「俺に酷な話?」

こいつ、なにが言いたいんだ?

 さっきから俺に言いにくそうにしてるし。


 なあ、何なんだよ、まったり。

 俺、あのデッキを見ちまったんだから、大抵のことには驚かないぞ。

 まったりが勘違い野郎じゃないことも認識したしな。


 それと、他のゲームの友人がどうして来ることになってるんだ?

 もしかしてそれも俺に関係しているっていうのか?

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