第13話 衝撃のデッキ

 まったりのイベントランキングは、すぐに創聖の勇者内でも話題になった。

 一番最初に気がついた俺が、なにも言わなかったのに。


 俺の次に気がついたのは、スサノオさんだった。

「私もかなり一生懸命回しているのに順位が上がらないもので、上位者がどんな顔ぶれでどのくらいのポイントを稼いでいるか気になったのです。それが、想定外のまったりさんがいるじゃないですか」

想定外と言いつつ、スサノオさんは妙に嬉しそうで、どのメンバーと話すときもこの話題を振って話し込んでいる。


 ただ、俺はあることに気づいた。

 まったりのランキングはたしかに驚異だが、不可能ではないのではないかと。


 ゲームは基本的に一人でやるものだ。

 だが、たまにいるのだ。

 一つの垢を数人で共有していたりする人が。


 たとえば友人同士だったり、既婚者は嫁さんに頼ったり。

 人によっては、バイト代を出して知人にイベント作業をやらせたりしている人もいるらしい。


 たかがゲームと言えど、上位者はそれだけ真剣なのだ。

 だから、普通では考えつかないようなことをしてでも成果を上げようとする。


 俺はまったりも同じようなことをしているのではないかと思っている。

 つまり、共有垢だから、傍目から見るとずっとイベント作業をしなきゃ残らないような順位にいるのではないかと。


 だってそうだろう?

 計算上は寝てないんだからさ。

 それどころか、仕事や食事の時間だってあるかどうか疑わしい。


 いくらなんでも、生活の全部をゲームに入れ込むなんて考えられないからな。

 それでは依存症だろう。


 いや、依存症の奴だって、そんなことはできっこない。

 もう、今日でイベントも終わりだからな。

 一週間フルでイベント作業をやり続けることなんてあり得ないのだ。

 いくら基地のまったりだって、そんなことはしっこない。





「いやー、7ちゃんでも騒然ですよ。まったりはついに無課金を止めた……、ってね」

「まあ、普通はそう思うでしょうね。目的が達成出来そうもないので、急遽課金したと」

「んっ? ジョーさんはそうは思ってないのですか? いくらまったりさんでも、課金しなくてはあの順位は無理ですよ」

「ふふっ……。スサノオさん、まったりさんがそんな単純な男だとでも思ってるんですか?」

「えっ? ですが、無理ですよ、無課金のままでは」

「それが、そうではないんですよ。俺も最初は課金したのだろうと思ったんです。だけど、方法はありますよ」

いぶかるスサノオさんに、俺は共有垢の可能性を指摘する。


「な、なるほどっ! そんな方法がありましたか。たしかにそれなら可能ですね。ただ、まったりさんらしくない方法ですね(笑)。あの人はなんでも自分一人でやりそうな感じがしますから」

「それだけどうしてもやらなきゃならないと思っているのでしょう。UR呂布なんていくら重ねても意味がないだろうけど、とにかくなんとか目標を達成したい一心かと」

「そうかもしれませんね。しかし、あのUR呂布ではなあ……。ジョーさんの仰る通り、どうにもなりませんなあ」

「ええ……」

そうなんだよ。


 いくらまったりがあがいても無駄なのだ。

 あのステがいいだけのUR呂布では。


 俺も6、7枚重ねたUR呂布を試しにデッキに入れてみた。

 だが、前衛に置いて、周囲からスキルで攻撃力を上げるくらいしか、使い途がないのだ。

 もちろん軍団長にも入れてみたのだが、持久戦になるといつかは相手のスキルで増大された攻撃が当ってしまう。

 それに、何枚もの回復武将を入れないといけないので、軍団長と前衛以外はステが低くなってデッキバランスが悪くなってしまうのだ。

 さらに、UR呂布自体に特別な攻撃手段があるわけではないので、奇策も使えない。


 こんな八方ふさがりなイベント褒賞なのだ、UR呂布は。

 誰が使おうと関係ない。

 どう見ても使えないとしか言いようがないのだ。


「でもね、ジョーさん。私はまったりさんが辞めてないので安心しましたよ」

「ああ……。スサノオさんは思い詰めてゲームを辞めてしまうことを心配してましたね」

「ええ……。課金しても、共有垢でも、私はいいと思うのです。とにかくまったりさん本人が納得がいくのなら」

「うーん? 俺はそうは思いませんが……。大体、イベント褒賞の性能なんて、予想がつくはずがないじゃないですか。それを勝手に思い描いて、大言壮語したんですからね」

「……、……」

「まったりさんが悪気で言ったわけではないのは分かっています。ですが、そのせいで晒しが起ってしまった。あと、引き抜きもまったりさんの言葉が原因と言えなくもない」

「ジョーさん……」

「俺だってこんなことは言いたくないですよ。ですが、やはり言った以上はキッチリその条件で達成しなきゃ男らしくないじゃないですか。もし出来なかったり条件を変えるのなら、皆の前でキチンと謝るとかすべきでしょう?」

「……、……」

「俺は学生なんで組織とか団体とかってものはよく分からないですけど、世間ってそういうものじゃないですか、スサノオさん?」

俺は勢いで言ってしまった。

 本当は言うつもりはなかったのに……。


 スサノオさんがあまりにもまったりに甘いから、ギルマスとして言わざるを得ないと思ったのだ。


 いや、そうじゃないか。

 俺はまだユイさんが引き抜かれたことを引きずっているのだ。

 まったりが悪いわけではないのは分かっているが、どうしてもなにかのせいにしなきゃいられなかったのだ。


 だけど……。

 間違ったことは言っていないつもりだ。

 少なくとも、自分の言いたいときだけチャットに顔を出して、都合が悪くなると顔を出さないってのは絶対に納得がいかない。





「ちわっすwww。ジョーさんの言うとおりっすねwww」

「えっ?」

な、なんだと?

 こいつ、見てやがったのか。


 相変わらずうざい口調で入ってきやがって。

 しかも、ずっと顔を出さなかったくせに、突然なんだよ。


「今、過去ログを読んできたんっすよ。ここちょっと、チャットを見てる余裕がなかったんで、ご無沙汰ですまんっしたwww」

「まったりさんっ! 心配してたんですよ。急にチャットに来なくなってしまったので、どうしたのかと……」

「スサノオさん、すまんっしたwww。だけど、ちょっと誤解してるみたいなんで説明させてくれっすwww」

「説明? それに、誤解ってどういう意味ですか?」

まったく、余裕がないなんて言い訳しやがって。


 今も言っただろう?

 人間なんだから失敗や間違いはあるよ。


 だけど、そういうときは謝るのが筋ってもんじゃないのか?

 それを、説明だと?

 誤解って、なに言ってるんだよ。

 そんなわけないだろうが。


 見苦しいことをするなよな。

 スサノオさんなんかあんなに庇ってくれてるじゃないか。

 なのに、おまえがまた訳の分からないことを言ったら、納まるものも納まらなくなるぞっ!


「色々言いたいんっすけど、その前にちょっと聞いてもいいっすか?」

「はい。私でよければなんでも答えますよ」

「そっすかwww。じゃあ、遠慮なく聞くっすwww。もしかして、自分が顔を出さない間に、また晒しがあったんっすか? ……で、それが原因で引き抜きがあったんっすかね?」

「ああ、そのことですか……」

おまえ、なにも知らないのか?


 まあ、引き抜きの詳細はログから消しちまったからな。

 見てなきゃ知らないのは当然だけど、それにしてもおまえがどっぷり関係してる二度目の晒しまで知らないのかよ。


 スサノオさんが説明してくれているけど、この無神経さはどういうことなんだよ。

 おまえ、そういうことに察しがいい方だったんじゃなかったっけ?





「なるっすwww。そういうことっすか。だけど、もう晒しも引き抜きも起らないから大丈夫っすwww。心配要らないっすよwww」

「はあ……?」

「大体のことは分かったんで、今度はこっちが説明するっすね。まず、チャットに顔を出さなかったっすけど、二周年イベント中、自分はずっとインしてたっすよwww」

「えっ? では、共用垢では……」

「そんなセコイことしないっすwww。ゲームなんて、他力をあてにしてやるもんじゃないっしょwww。しょせん、自己満足なんっすからwww」

「では、ついに課金しだしたと言うことですね?」

「するわけないっしょwww。そんなことするくらいならゲーム辞めるっすwww」

「ま、まさか……! では、あのイベントポイントはなんですか? あり得ないでしょう?」

「イベントポイント? ああ、そんなのもあったっすねwww。でも、自分、そんなの眼中にねえっすwww。ひたすら呂布を重ねてただけっすよwww」

「じゃあ、イベントランキングで4位に入っているのも知らないんですか?」

「知らないっすwww。4位ってなにを貰えるんっすか? ああ、10位までUR確定ガチャチケット5枚っすかwww。知らなかったっすけど、結構美味しいっすねwww」

「ま、まったりさん……。あなた……」

呆れたのか驚いたのか知らないが、スサノオさんは絶句した。


 ……って、こいつなにを言っちゃってるんだ?

 ずっと呂布を重ねてただと?

 それ以外のことはどうでもいいとでも言いたいのかよ?


「まったりさん……。もしかして、一週間ずっと、昼も夜も回しっぱなしですか?」

「そっすwww。このレイドボスって、三十枚以上重ねると急に出現率が悪くなるんっすよねwww。だから、結構、苦労したっすよwww」

「ま、まさか、寝てないとでも?」

「自分、普段からあんま睡眠いらないんっすよ。一日三時間も寝れば寝すぎなくらいっすwww。だから、一時間睡眠くらいできれば一ヶ月くらいもつっすよwww」

「い、一時間睡眠?」

「なんっすけど、メシは食わないと仕方がないんで、ずっとカップやきそばばっか喰ってたっすwww。だから、今、身体が超ソース臭いっすよwww。左手でマウス使いながらやきそばを食べるのって、結構難しいんっすよねwww」

こ、こいつ……。

 アホか?


 なにが一時間睡眠だよ。

 なにが三十枚以上重ねると出現率が悪くなるだよ。

 そんなの普通できるわけないし、出現率が悪くなったら諦めるだろう?


 それをクソ粘りして……。

 UR呂布なんかを重ねてどうするんだよ?


「まったりさん、お仕事は大丈夫だったのですか? 睡眠をとらないのも納得はいきかねますが、まあ、そういう体質の人もいるので分からなくはないです。ですが……」

「仕事はその前の二週間で片付けたっすwww。自分、勤め人じゃないんで、量さえこなせば誰も文句言わないんっすよねwww」

「は、はあ……?」

「どうせ、重ねると出現率が悪くなるだろうとは思ってたんっす。こんなステの武将をいっぱい重ねられたら困るっすからねwww。でも、それを成し遂げたら世界が変るっすよwww。革命が起きちゃうっすwww」

「えっ? と、言うことは……。一体、何枚重ねたんですか?」

「www。カンストしたっすwww」

「か、カンスト? それって……」

「そっす、+99っすwww」

ちょ、ちょっと待てっ!


 おまえ、UR呂布なんかをカンストしたのか?


 革命?

 起きるわけがないだろっ!


「さっきログを読んでて思ったんっすけど、皆、勘違いしてるっしょwww。この呂布は超使えるっすよ。自分の想定通りっす。だからカンストまで粘ったんっすよwww」

「は? はい……?」

「宣言通り、自分、デュエルランキング1位になるっす。まあ、口で言っても何なんで、二人には特別に自分の新デッキと戦わせてあげるっすよwww。マジで信じられないほど強いんで、覚悟して下さいっすねwww」

「……、……」

「あ、でも、事情があってまだ他の人には見せたくないんで、これから三分だけ新デッキにするっすから、ちょっと練習で戦ってみてくれっす」

「戦うのはいいのですが……。すいません、まだまったりさんの言っていることの意味が分からないです。UR呂布が使えるって、想像もつかないですし。それに、信じられないほど強いって仰いますが、まったりさんの持っている他の武将って……」

「www。まあ、スサノオさんが信じられないのも分かるっすよwww。でも、だからこそ戦ってみてくれっすwww」

「はい……。それは全然構いませんが……」

呂布が使える?

 想定通りだからカンストまで粘った?

 宣言通り、ランキング1位になる?

 信じられないほど強い?


 おまえ、頭大丈夫か?

 あまりにも寝てないんで、錯乱してるんじゃないか?


 だけど、一つだけいいことを言ったな。

 そうだよ、戦えば分かるんだよ。


 うん、戦ってやるよ。

 それで、おまえの妄想を全部打ち砕いてやるよ。

 俺の全身全霊を懸けて、おまえのデッキを粉砕してやるっ!





「こ、これって……。ジョーさん、どうでした?」

「……、……。いや、こんなのありですか?」

「ですよね。私は1ターンもちませんでした。完敗です」

「スサノオさんもですか? お、俺もです……」

ど、どういうことだよ?


 まったりのデッキはなにも仕掛けて来ない。

 なのに、ターンの最後に突撃し合った瞬間に、俺の軍団長であるUR曹操と前衛三人が全滅しちまった。


 なにをしたんだ、まったり?

 全然、わからねえ。

 ……と言うか、なにが起ってるんだ?


 おい、答えろっ!

 答えろよ、まったり!

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