01-4 観察

 さて、ひとりでできるかな、と勢いよく飛び出した綾瀬の様子を横目に、中野所長ともに俺は素早く事務手続きを進める。


 迅速さが求められるインシデント対応に重厚な契約書の類など時間がかかるだけで、待っている間に事態が深刻化することもあるが、重要なことではあるので手堅く、迅速に行う。情報セキュリティ関連の案件の場合、顧客の機密情報や顧客自身が保有する個人情報など、センシティブな情報を扱うことがあるため、機密保持契約等の契約を書面で取り交わしたりする。


 中野所長が契約内容を確認している間、友橋から今回のインシデント案件の打診を受けたときのことを思い浮かべた。


「綾瀬の初陣としては今回の案件はどうだろうか」

 今回のインシデントの概要はその時に聞いている。

 綾瀬は配属されて2ヵ月経ち、サブとしてインシデント対応のいろはのようなものが少しずつインプットできていると思っていた頃だった。アウトプットしてみて、その中で自身の課題を認識してもらうことも必要であろうとも思っていたので、初陣にはよい頃かと思って手を挙げた。


 思い浮かべているうちに契約内容の確認が終わったようだ。

 さてと、今回はサブに回って必要に応じて手を出すことにして、ひとまず見守ってみることにしようか。

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