第20話桐野満貴の大攻勢
午後2時過ぎ、ルナシャイン60前交差点に突然陰りが差した。
歩道を渡っていたサラリーマンが不意に顔をあげる。その瞬間、彼は人の洪水の中、時間を忘れて立ち尽くした。
機敏な者は、それを見た瞬間に走り去ったが辿る運命は変わらない。
彼らの頭上を覆っていたのは、戦闘機めいた巨大な飛蝗――アバドンカーゴ。
音も無く滞空する腹が左右に開き、雹のように吐き出されたのは飛蝗と人間を掛け合わせたような生き物。
退化した羽根の代わりに銀に輝く装甲を身に纏う、アバドンアーミー。彼らは落下傘無しで次々と着地するや、満貴から受けた命令を遂行するべく活動を開始。
豊島区に滞在する者全員の殲滅。その為だけに、満貴は20000の武装した兵士と200の生体輸送機で豊島区の空を覆った。
殺戮劇が幕を開けた。
蝗害の具現のような魔の軍団は老人の背を、手にしたビームライフルで撃ち抜く。
その形状は切断された甲殻類の腕のようでグリップが下部から伸びている事、引き金を引く度に光弾が先端の鋏の間から射出される。
若い男の頭部を手刀で貫き、それにも飽きたらOLを引き倒し、身体のあちこちに齧りつく。彼らは食事を摂ることで、疲労回復、傷の再生力を高める性質を与えられている。
自宅にいようと屋外に出ていようと頓着しない。
グラウンドに入り込んだ者はサッカーをしていた学生達を次々と射殺し、団地に入り込んだ個体は窓を破り、テレビを見ていた年金受給者を鋭い爪で引き裂いた。
暴徒鎮圧の為に派遣された警官隊は、彼らに対する抑止力たりえなかった。
身体に貼りついた装甲は9x19mmパラベラム弾を容易く弾き、逆にアバドンアーミーの光弾は派遣された機動隊員を5人まとめて貫いた。
アバドンが降下を始めたのと同じ頃、常滑市の東海国際空港2階。
万を超す利用者は突如身体を折り、血の塊を吐く。老若男女の区別なく、一様に咳き込む姿は伝染病に見舞われたようだ。
原因は到着ロビーに鱗で覆われた3羽の鶏。
牛より大きく、全身を羽毛の代わりに鱗で覆った怪物――バジリスクが鶏そっくりの鳴き声をあげる。
その時には既に、到着ロビーを行き来していた人々は悉く絶命していた。このモンスターは血や肉だけでなく、視線や鳴き声にすら致死毒を宿している。
同種のモンスターは上階、下階に2羽ずつ放たれており、数分足らずで空港は制圧された。
距離を隔てた殺戮劇から少し経った午後3時ごろ、満貴は熱海警察署に出現。
3階廊下、男子トイレ前に現れた満貴を見て、偶然近くにいた署員は目を瞠った。
「ちゃっす」
満貴は目撃者に狼狽える事無く、小さく手をあげる。
同時に、満貴は署内全域にモンスターを放った。署員に抵抗する暇を与える事無く熱海署を制圧、その死体を1階ロビーに集めさせる。
満貴が命じる。集められた署員の死体がずるずると蠢き、一個の塊に変化する――その形状は卵に似ていた。
肉が液化し、骨が格子を形作る。
巻き込まれた着衣は酸性の液体に浸けられたように溶けた。
頂点が天井につくほど大きな卵の内側で生まれた新たな命が身体を丸め、誕生の時を待つ。
晃は焦慮の念を抱いたまま、学校での1日を終えると岡田達と連れ立って下校。
その間も香奈枝、信二とのやりとりは欠かさない。信二は辛くもボスからの逃走に成功、現在は香奈枝の近くで待機している。
バディは送還している間、緩やかにHPが回復していく。回復を待ってから、彼は再びボス討伐に出発するつもりだ。もっとも、今日はもう出れそうにないが。
岡田を含めた友人達は事件についてまだ知らないようだ。
これからの予定について暢気に話し合っている。危機を教えるべきだとは思うが口が動かない。
学校終わりに遊んで帰ろうというタイミングでボスだのモンスターだの、白けた空気になるのが想像できる。
皆が帰るまで、何事もなく終わればそれでいいのだ。それから香奈枝達と合流すればいいじゃないか。
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