第19話ひょっとして紫の結晶体、やってらっしゃる?
追撃の兜割りを浴びる寸前、満貴は姿を消す。
武者は耳を澄ませる、その隙を狙うように空中から木の根が四方から出現。
男の胴回りほどの太さの木の根が頭足類の触手のように動き、武者を打つ。
武者は斬り捨てようとサーベルを振るうが、刃は半ばほどで食い込んで止まってしまう。
山犬の武者が左脛を打たれる。彼が呻くと同時に、満貴も悶えた。
「あ”…!?なぁにこれぇ、物理反射?ウザいんだけど、萎えるわぁ~。どうしてくれんの?」
「知るか。時間の無駄だ、姿を見せろ」
「嫌っすw、嫌っすwすいませんww」
満貴は武者の動向を注視しつつ、姿を現さない。
反射を警戒している為、攻撃しない。仮に反射されないなら、100を超える攻撃技を雨霰とお見舞いしてやるのだが。
「ふん。撃ってこないが跳ね返されるのが怖いか?」
「えw?ひょっとしてwどっちが強いかとか興味あるタイプぅww?すいません、トーナメントやりたいなら他所行ってくれますぅww?」
満貴は姿を隠したまま、武者を観察。
彼は刀を構えたまま、あちこちに視線を巡らせる。飛び道具などは持っていないのかもしれない。
「ところでお宅w、お仕事は何を?このあたりメシ屋とか無いけどww風船配りなら、駅前とか言った方がいいっすよww」
「お前もな。このゲームで収入を得ているのか?」
「人の命を金に換えられるわけないじゃないか!何を言ってるんだ、君は!?」
満貴は透明状態を維持したまま帰宅。
攻撃が反射される以上、まともに正面から戦ってなどいられない。
手立てが無いのだ、大人しく逃げるべきだろう。
ダンジョンに帰った満貴は、武者を倒す手立てを考える。
ゲームの存続に執着は無いが、捨てようと思うほど世界は楽しんでいない。
最低でも海塚市は炎上させなければ気が済まない。
満貴は反射能力の反応基準を知りたかった。
格闘攻撃はアウト、射撃攻撃はどうだろう。罠にも反応するのだろうか?
生み出したモンスターの攻撃はどうだろう、親にあたる自分にすら返すのなら厄介だ。
(あぁ……イライラする。なんであんな奴が)
しかし興味もある。
プレイヤーでなく、一般人でもないもの。自分が触れた紫色の結晶体が、あれ一つでない可能性。
「考え事ですか?私に相談してください、力になります」
満貴が身を起こしたベッドの傍らで、梨夏が上衣に袖を通していた。
下半身は暗色のフレアスカートに包まれ、紫のブラが目の前でシャツにより隠されていく。
此方を気遣う表情は、満貴が徹底的に歪ませた精神の産物。手の込んだ人形遊びに等しい関係だが、相手の人格には大して興味がない。
恋の駆け引きなるものにも少し興味はあるが、億劫だ。
「ありがとう。その時はちゃんと言うから心配しないで」
満貴のおざなりな返答で、梨夏は満足した様子だ。
囲っておくつもりだったので、戦闘力は殆ど無い。一般人を制圧するには十分だが、バディを相手取るには足りない。
もし投入するなら、モンスターとして更なる強化が必要だろう。手を切るのも勿体ないのだが、いつも少しばかり重い女達。
ベッドから抜け出した満貴は、立ち上げたPCで情報収集を行う。
2体の殺戮の模様がアップされていた。稼動状況を眺める。ゲーム参加者はかなり伸びていたが、減りは鈍い。
参加プレイヤー数:40018人、死亡プレイヤー数:611人。
満貴は他人の生き死にさして興味はない。命の取り合いではなく、他人が何を選び、何を捨てるのかがこのゲームの見所だと彼は考えている。
(けどこんな展開になるとはしくじった~)
何も考えずにボスを解放した。
そりゃあ騒ぎになる。邪魔が入るのは火を見るより明らかだ。
このまま暴れさせていた場合、ゲームどころではなくなるだろう。
一旦ひっこめるなどして中断させようかとも思ったが、満貴は逆にこの状況を利用してやることにした。
(騒ぎが海塚だけなのは、こじんまりし過ぎだよな)
満貴はまず師団規模のモンスターの群れを、東京に放った。
ただし、目標は官公庁ではない。行ったことの無い街を滅ぼす気はないし、反撃の暇すら与えないのはフェアではないだろう。
この混乱にどう収拾をつけるのか、アイスでも食べながら眺めたい。
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