ムカつくほど退屈なので、ありがちなデスゲーム運営で遊ぶ
@omochi555
第1話突然のダンジョン探索
「次の更新はありません」
桐野満貴(きりのみちたか)は、淡々と宣告を聞いた。
次の仕事探さないとな、としか感想が浮かばない。仕事でミスは犯したことは無い。
とはいえまだ25歳。どうにもならなければ、実家に帰ろう。
帰宅した後、夕食を摂りながら就職情報を検索するが目ぼしいものは無い。
今週中に一件は面接の約束を取り付けようと思いながら就寝。とはいえ、明日明後日にクビを切られるわけではない。
翌朝、出勤しようと玄関扉を開けると、外の景色が変わっていた。
見慣れた廊下ではなく、地下鉄の通路を思わせるタイル張りの歩道が、左右に伸びている。天井に埋め込まれた蛍光灯が周囲を照らしており、視界には不自由しない。
「あ……は?」
満貴は音を立てて扉を閉める。
スマホを取り出すと、圏外と表示されていた。ネットにも繋がらない。
すっかり狼狽した哲夫は、テレビ、PCと確かめるが結果は同じ。
(起動はしている……外に繋がらないのか!)
満貴は着ていたスーツのジャケットを脱いだ。
クローゼットを探している途中、背中が――玄関の反対にあるバルコニーが気になった。
窓には昼の景色が映っている。恐る恐る戸を開け、叫んでみた。
「おーい!」
反応はない。
此処から飛び降りれば出られるだろうか、躊躇われる。
バルコニーから降りる前に、安全かどうか確かめてみたい。
ゴミ箱を漁り、空き缶を手に入れ、バルコニーから放り投げる――景色が遠ざかった。
マンションの外が四角い一枚絵のようになり、周囲は黒い闇に包まれる。空き缶は闇に吸い込まれた。
(危ない危ない…)
満貴は本棚やクロゼットの中を漁り、私物の存在を確かめた。
同人誌やPCゲームが、段ボール箱に突っ込まれている。本棚には全年齢向けの小説や漫画が並ぶ。
失われている物は無い。冷蔵庫の中身も確かめるが、異常なし。
安心した満貴は扉の外、地下通路の探索に向かう事にした。
ショルダーベルト付きビジネスバッグにカロリーメイト2箱と、冷蔵庫から取り出した500ml麦茶をしまう。
他に必要そうなものが思いつかなかったので、玄関の脇に掛けてあったステッキを1本手に取り出発。
スマホと財布は部屋に置き、自宅の合鍵はチェーンで腰のベルトに繋いだ。ステッキの支柱部分は耐食アルミ、杖頭は樫。
武器代わりに実家から持ってきたが、このような形で役に立つとは。
(包丁の方が…いや、いいか)
当てもなく、通路の右手に進む。
満貴の部屋のドアは、通路の壁に埋め込まれている。
真っすぐ歩いていくと、視界の隅に短い階段が時折現れるが、地上への出入口は見当たらない。
人通りがなく、非常に心細い。通路の突き当りで、満貴は無人のベンチと、その上に乗った段ボール箱に出会った。
満貴はへっぴり腰でステッキの先を向ける。
すり足で距離を詰め、腰を入れて一突き。派手な音を立てて、段ボールに穴が空いた。
しばらく様子を窺うが、爆発などはしない。思い切って近づき、開けてみると、中には大量のポーチが付いたベストが入っていた。
ポーチを開けてみるが、全て空だ。
「うーん…ないよりマシか」
何がマシなのだろう、と口に出してから気付く。
まるでこれが必要な事態に陥っていると言わんばかりの口ぶりではないか。
たどたどしい手つきでベストを着込むと、サイズはピッタリだ。
(何なんだ、この状況?)
突き当りに出たので、右手側から順に分岐路を潰していく事にした。
ベンチから右手側に回り、最初の分岐路に入る。地図があれば、探索は更にはかどるだろう。
奥に進むまでも無く、始点から、壁に並ぶドアが見えた。そして初めての動く影。
相手を警戒させないようにステッキの先を降ろすが、身体を傾がせながら近づいてくるそれは、安全な人物か疑わしい。
「あのー!」
ステッキの支柱を握った手が落ち着かない。
人影は顔をあげると、勢いよく走ってきた。獣のように吠えながら上体を左右に振るその人の姿が、徐々に鮮明になる。
白濁した瞳、生気のない皮膚、真皮どころか筋肉の露出した悍ましい外見――ゾンビ。満貴の頭に、その語句が浮かんだ。
「と、止まれ!止まって!」
ステッキを構えたまま、制止を呼び掛けるが無視。
杖の間合いに入った瞬間、満貴は脳天目がけて、グリップを叩きつけた。
横っ倒しになるも、ゾンビはすぐさま起き上がり、腕を伸ばしてくる。のけぞった拍子に倒れ込むが、満貴は蹴りを繰り出し、体勢を立て直す。
二度、三度と頭部を打つと、腐った人影は倒れ込んだきり、動かなくなる。
「な、なんてことないな……ははは」
満貴は尻餅をつき、乾いた笑いをあげる。
膝に腕を乗せ、ふぅっと息を吐くが、不意に周囲を警戒。左見右見してから、横たわったゾンビから距離を取る。
壁に埋まる、閉め切られた扉から、威圧感が漂う。この中にもいるのだろうか?
開けた場所だったので対処できたが、密集した狭い場所で襲われたら、噛みつかれてしまうかもしれない。
(どうなるんだろう…やっぱり、ゾンビになるのかな?)
気持ちが沈んでいくのが、満貴に自覚出来た。
どうして自分がこんな目にあうのか……展望が崩れていくのが分かるが、心の片隅では面白く思っていた。
これほどの異常事態の原因、ゾンビの正体、この場所の正体。知りたい事は多々ある。
社会人になってからは、まるで感じたことの無い高揚感――近所を冒険していた小学生の頃は、こんな感覚も抱いていた。
通路の探索を進め、満貴はロッカーを見つけた。
通路の角に立っているそれをステッキで叩き、不審な動きがないか確かめる。背後を警戒しつつ、扉を一枚ずつ暴いていく。
予想していた通り、幾つか施錠されていない扉があり、中から大型のナイフ、簡単な処置のできる薬の入った箱、触ると温かい石、中型の自動式拳銃を入手。
弾が無いので使えないが、ツヤの無い銃身に、満貴は釘つけになった。
敵はゾンビだけではなかった。
獣とも人ともつかぬ、二足歩行の怪物。犬くらいの大きさのネズミ、電撃を放つ羽の生えた小人。
小人に話しかけてみたが、忍び笑いだけで返事は無かった。その頃になると、満貴もある種の諦めに達していた。
暴力を振るうという事。生きている者に対し、殺害だけを目的に凶器を振り下ろす。
収穫は拾った道具だけではなかった。
妙に好戦的なネズミに体当たりを浴びせられた時、逆に相手が吹き飛んだのだ。
困惑しているが、何度か戦闘を重ねるうち、攻撃が稀に反射される事が分かった。
(んだこれ?超能力?)
考えている通りなら劇的に生存率が上がるが、確かめるのはリスクが大きい。
反射をあまり当てにしないように考えるが、他にもあるかもしれないと満貴は思った。
これといった変化は感じないのだが――そこまで考えた時、甲高い悲鳴が耳に飛び込んできた。
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