第1024話 さまよえる廃屋(4)糾弾

 春山さんと椎名さんがそう言うと、彼らは落ち着きなく互いに顔を見合わせていたが、その中で2人が、震えながらじっと春山さんと椎名さんを凝視していた。

「はい、ちょっと待ってくださいね。

 春山さん、椎名さん。彼らがそうですか?」

「そうよ」

「間違いない」

 それに彼らは、焦った。

「ふざけるな!何で俺達だって!」

「そうだよ!俺達が殺したっていう証拠があるのか!?」

 彼らと来たメンバーだけが、わけが分からないでギョッとしている。

「殺した?言ってないのによくわかっているじゃないですか」

 僕が言うと、直はクスクスと笑う。

「語るに落ちるってこういう事かねえ」

 春山さんと椎名さんは、その2人の若い男に滑るように近付いた。

「この人に殺された」

「この人に首を絞められた」

 男2人は、汗をびっしょりとかいて春山さんと椎名さんを見ている。

「暴行されそうになって、抵抗したら殴られて、引っかいたら首を絞められた」

「あなたはそれを見て、こっちも口封じしないとって言って、首を絞めたでしょ」

「しょ、証拠は――」

「あなたの名前はシュウ。そのネックレスに、私が殴られた時に出た鼻血が飛んでる」

 春山さんの前の男は、ハッとしたように、ブランドもののネックレスに手を伸ばした。

「あなたはタクジ。私はあなたの手の甲を引っかいた。遺体の爪に残ってる筈」

 椎名さんの前の男は、今は傷も無い手を、慌てて背中に回した。

「お、お前ら、嘘だよな?」

 震えながら、仲間が言う。

「おい、シュウ!タクジ!何とか言えよ!」

 別の仲間が言うと、シュウは

「言いがかりに決まってるだろ!」

と言って、ネックレスをゴシゴシとこすり出す。

 それに、僕達は悠々と近付いて、バッジを示した。

「はい、待って。警視庁陰陽部の御崎と申します」

「同じく町田と申しますぅ」

「同じく氷室と申します」

「同じく美保と申します」

「同じく神戸と申します!」

 そして、シュウとタクジに目を据えながら言う。

「詳しい事を、場所を変えて聴かせていただきましょう。それと、ネックレスを鑑定させていただけますか。後、DNAの提出も」

 遺体の爪に皮膚片が残っていたら、鑑定しているはずだ。

 それにネックレスのチェーンは細かい。血液が検出される可能性はある。

 シュウとタクジはその場に俯いて座り込み、頭を抱えた。

「肝試しなんか来るんじゃなかった!」

「誰だよ、行こうなんて言い出したの!」

 それに、仲間がポツンと言った。

「トンネルは俺だけど、ここを見て行こうって言ったのはお前だよ」


 彼らに事情を訊くと、大学の時の仲間で、今日は一緒に飲んでいたらしい。それでこの先の「自分の死に顔が見えるトンネル」を見に行った帰りにここを見付け、「あの有名なグリーンハウスだ」と興奮し、入って来たという事だった。

 皮膚片のDNAとタクジのものが一致し、タクジが落ちた事で、シュウも落ちた。

 シュウの方は、シュウの指紋が春山さんの眼鏡に付着して残っていたので、証拠となった。

 5年前、2人はグリーンハウスに肝試しに来て、春山さんと椎名さんと鉢合わせた。そして乱暴しようとしたが暴れられ、殺してしまった。

 どうせ心霊スポットだし、誤魔化せるんじゃないか。そう思って、逃げたらしい。

 心霊スポットだろうが何だろうが、誤魔化せるわけがない。

「春山さん、椎名さん。遅くなって申し訳ありませんでした。でもこれで犯人は逮捕できました。安心して、旅立ってください」

 そう言って、僕達は頭を下げた。

 彼女らは初めて、ふわりと笑った。

「よかったわ。ね、しいちゃん」

「うん。これでスッとしたよね、はるちゃん」

 それで笑いながら、形を崩し、キラキラと光って立ち昇って行った。

「まあ、作戦は成功したけど、バツ印はちょっとねえ」

 直はそう言って、苦笑した。


 美保さんと神戸さんと氷室さんは、仲良く録画したものをチェックし合い、喜んでいた。

 そして、ニコニコしながら徳川さんに訴える。

「ぼくたち、お手柄ですよね?役に立ちますよね?」

「だから、陰陽部に不可欠ですよね?」

 徳川さんはそんな彼らを眺め、諦めたように嘆息した。

「骨を埋める覚悟なんだね。はいはい。

 でも、仕事は仕事。しっかりこれからも頼むよ」

 3人は揃って嬉しそうにガッツポーズをした。



 

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