第1015話 やりなおし(3)続ける
「ここもか」
「同じだねえ」
恋人の瀬田川浩さんも一人暮らしで、2駅離れたところにあるマンションに住んでいた。
こちらは、電話が通じない、ドアチャイムに応答がない、という事だったが、部屋の前に立ってみると、香坂さんの部屋と同じく、結界で閉じられていた。
「入りますね」
管理人と同行して来た刑事にそう言い、刀で結界を切り裂く。それから管理人がマスターキーでカギを開けた。
ドアを開けると、気配だけでなく、やかましい言い争いの声がした。
「お前のせいだ!お前がつまらない嘘なんてついたせいで!」
「そんなの知らないわ!死ねなんて私は言ってない!それに私を選んであの女を捨てたのはあなたでしょ!?」
「子供ができたなんて言われなければ、俺は華子と結婚してたのに!」
「私のせいにしないでよ!」
「お前がいなければ!」
男が女の胸を文化包丁で3度刺すと、女がクタリとその場に崩れ落ちる。それを見て、男は自分の首をためらう様子もなく斬りつけ、血が噴水のように勢いよく飛ぶと、男は膝をつき、バタンと横倒しに倒れた。
僕と直の背後で、刑事がポカンとしてそれを見ていた。
「あ、救急車!」
動こうとする刑事を、制止する。
と、女と男は立ち上がり、向かい合ってののしり合いを始めた。
「華子が、手首を切った!」
「ええ!?なんで!?」
「何で!?そんなもん、決まってるだろ!本当なら、ゴールデンウィークに華子の実家へ行くはずだったのに!お前が!」
「はあ!?私が何よ!」
「お前のせいだ!お前がつまらない嘘なんてついたせいで!」
そうして、先程見た同じシーンになる。
僕と直は、部屋へ上がって行った。
「お邪魔します。警視庁陰陽部の御崎と申します」
「同じく町田と申しますぅ」
「あなたは香坂華子さんとお付き合いをされている、瀬田川浩さんですね」
瀬田川さんと女は、ケンカをやめて、僕と直を見た。
「そちらは?」
「峰倉静香ですけど」
そうして、4人で向かい合った。
「瀬田川さん。あなたは香坂さんの自殺を知った。それで峰倉さんを殺し、自殺した。そうですね」
瀬田川さんと峰倉さんは目を見張り、よろりとしたが、すぐに思い出したらしい。
「あ……ああ……!」
瀬田川さんが頭を抱えて膝をついた。
峰倉さんは頭を掻きむしってから、瀬田川を睨みつけた。
「こんなはずじゃなかったのに!何で殺されなきゃいけないの!?」
瀬田川さんは、キッと峰倉さんを睨みつけた。
「お前のせいだろう!?」
「私は、そろそろ結婚したかっただけなのよ!元ミスキャンパスって言ってチヤホヤされたのも昔の話。美人で若い子はどんどん入社して来るし。同級生はどんどん結婚していくし。同期の子で上司になるのも出て来るし。
こんなはずじゃなかったのに!」
そう言って、うずくまって泣き出した。
そんな2人の足元には、腐乱し始めた男女の遺体がある。
「俺は、華子と結婚する予定だった。なのに、宴会の後、酔って、気付いたらホテルで峰倉と一緒にいて。酔った弾みって思ってたら、少しして子供ができたって言われて。結婚してくれないと、会社中に、もてあそばれて子供ができたら捨てられたって言ってやる。取引先にも言ってやるって。
それで華子に別れてくれって言ったのに。全部嘘。宴会の後も、別に何もしてなかったとか。
なんて女だ!お前のせいで、全部壊れたんだ!こんなはずじゃなかったのに!」
瀬田川は峰倉を睨みつけて怒鳴り、そして、泣き出した。
「香坂さんのところに、行きましたね」
瀬田川さんは頷き、鼻を啜り上げた。
「はい。電話があったんです。これから死ぬって。マンションで、独り寂しく死ぬからって。
慌てて行ったら、もう華子は死んでいて。怖くなって、そのまま鍵を閉めて帰って来たんですけど、来た峰倉に言ったら、ケンカになって。しまいには、妊娠どころか、関係まで無かったって言い出して。腹が立って」
僕も直も嘆息した。
「後悔、かあ」
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