第995話 チビッ子編 👻 初めてのお留守番(3)誰か来た

 あれがしたい、これがしたい、あれは嫌、これが嫌。晴の気まぐれに、怜も直もヘトヘトだ。いつもなら助け舟を出してくれる母がいないので、止まらない。

 晴にしても、言葉がまだ上手く出て来ないので説明できず、癇癪を起して泣くか怒るか投げつけるかという手段に出てしまう。

 こうして3人の留守番は、なかなかのハードなものになってきていた。

 と、ここでドアチャイムが鳴った。

「誰?」

 3人はピタリと動きを止め、寄り集まってじっと玄関の方を見た。

 再び、ピーンポーン、とチャイムが鳴る。

 と、晴が立ち上がり、インターフォンを押した。

『あ、こんにちは』

「あ!晴!ダメ!」

「でも、お母さん、いつも押してるもん」

 直が焦り、晴が不服そうにブスッとして言う。

「はい。こんにちは」

 仕方がないので怜が返事をした。

『世界の平和について祈る会の者ですが、ちょっとよろしいでしょうか』

 宗教の勧誘だった。

 が、怜も直も晴も、よくわからない。

「世界平和?」

「悪の組織と戦ってるの?」

「おばちゃんも変身する!?」

『ほほほ。ごめんねえ。変身は無理ね。お母さんはいる?』

「いないよ」

「お兄ちゃんと怜とおすすばん」

「お留守番だよ、晴ちゃん」

「おるつばん」

『じゃあ、お母さんが帰って来たらこれを渡して欲しいから、ちょっと開けてくれるかしら』

 その一言は、3人の眠っていた警戒心を叩き起こした。

 ちょっとここを開けて。オオカミもそう言ったではないか。

「お母さんが、開けちゃダメって言ったから、ダメ」

 直は言って、素早く画像を消した。怜は、鍵を開けに行こうとする晴を押さえる係だ。

「晴。ダメだろ。ここを開けてって言われて開けたら、オオカミが入って来たじゃないか」

 晴は言い聞かされた事が面白くないのか、

「嫌!もう!嫌!」

と怜を振り払い、おもちゃ箱をひっくり返してボールを取り出すと、壁に向かって投げて遊び出した。

「油断禁物だな」

「危なかったね、直。敵はなかなかやるね」

 怜と直は、まずオオカミの第一波をやり過ごし、安堵した。



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