第982話 ゲスト出演(1)お化け屋敷の都市伝説

 暗い廊下を歩いて教室へ入ると、バン、という大きな音がして、思わず首を縮めて音のした方を見た。すると黒板に真っ赤な手形が浮き上がっているのが見えた。

「わっ!?」

 驚きはするが、予測範囲内のもので、そう怖くはない。

 後ろのドアから出る為に机の間を歩きながら、ドア脇の掃除用具入れのロッカーが怪しいと思っていると、不意に背後から声がした。

「今日の日直は?」

 反射的に振り返るが、誰もいない。

 なので体の向きを戻すと、すぐ横の席に座る、血塗れで無表情な半透明の女子生徒と目が合った。

「あなたの番よね」

 持ち上げた折れた腕にはナイフがある。

「うわああ!!」

 叫んで、後ろのドアから廊下へ飛び出した。

 すると今度は、すぐ目の前に猫が座っているのが目に入った。どこかふてぶてしい、野良猫のようだ。

 と、それが低く唸り、飛びかかって来る。

「ぎゃっ!?」

 横っ飛びに避けると、足元の頭大の石が人の顔に変わり、その恨めしそうな目と見つめ合う事になった。

「ギャアアアア!!」

 たまらず叫んで、逃げ出した。


 そこで徳川さんは付け加えた。

「でもこのお化け屋敷が怖いのは、そういう仕掛けじゃないんだよ。だれも用意していないのに、勝手に猫の霊が出て来るところなんだよ」

 徳川一行とくがわかずゆき。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。

「よく、お化け屋敷には本物が――って聞きますよね」

 御崎みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。

「これもそういうものですかねえ」

 町田まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。

「それが、実害があるらしくてね。客の足を実際に引っかいたり、暴れてセットを壊したりするそうで、営業妨害だって警察に被害届を出したんだよ」

「それじゃあ仕方ないですね。

 今、皆色々と割り振ってるし、僕と直で行こうか」

「そうだねえ。お化け屋敷かぁ。何か新鮮だねえ」

 こうして僕と直は、そのお化け屋敷に行く事になったのだった。


 



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