第977話 留められた神(1)頼まれ事

 今年も神々の総会、神有月がやって来た。

 神も人の世界も、宴会は変わらない。飲んで、歌って、踊って。近況報告に顔つなぎ。新人は、酌をして、料理や飲み物を運び、時々何かお願いをされる。

「連れて来い、ですか」

 御崎みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。

「連絡が途絶えてな。来ると言っておったのに。今回秘蔵の酒を持参するって言ってたのにひどいだろ」

 さきいかを噛みながら、八百万の神のうちの1人が言う。

 本当は1柱と言うべきなのだろうが、こうまで人間臭い姿を見せつけられると、1人という感覚になる。

「どうしたんでしょうねえ」

 町まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。

「わかりました。早急に向かいます」

 小野さんがそう言った。

 小野篁おののたかむら。平安時代の官吏で、夜な夜なあの世へ行って働いていたというワーカーホリックな人物だ。今風に短くカットされた髪と服装で、クールでスッキリとしている。僕達の直属の上司になる。

 小野さんは僕と直を連れて端へ行くと、クールな笑みを浮かべ、改めて言った。

「というわけだ。行って来て、ここまで引っ張って来てくれ。何か起こっていたら、対処をしておいてくれ。任せた」

 僕と直は大人しく任されて、宴会場の中に戻る小野さんの背中を見送り、ぼそっと言った。

「神様って、気まぐれな人も多いんだよな」

「今回もそういう事かも知れないよねえ」

「面倒臭い」

 しかしこれも新人の勤めだ。僕と直は、早速とりかかった。


 総会に来なかったのは、東北にいる座敷童だった。いつもは総会に参加し、ほかの福をもたらす神と喋っているそうだ。

 最近気に入って住んでいる旅館は岩手県にあり、引っ越したという話は聞かないという。

「岩手か。ちゃんと昼間に普通の手段で行くのなら、お土産も買うのにな」

「まあ、こっち経由で行けば、旅費ゼロでそこはありがたいんだけどねえ」

「しかしあれだな。昼間は陰陽部、夜はあの世で働いて、働きすぎだろ。働き方改革はどこに行った」

「これも改革かねえ?悪い方へ」

「疲労が残らないのが救いだな」

「だよねえ」

 笑いながら、岩手の、旅館の近くに出た。

 まだこの時は、誰も事態を重く見てはいなかったのだった。




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