第977話 留められた神(1)頼まれ事
今年も神々の総会、神有月がやって来た。
神も人の世界も、宴会は変わらない。飲んで、歌って、踊って。近況報告に顔つなぎ。新人は、酌をして、料理や飲み物を運び、時々何かお願いをされる。
「連れて来い、ですか」
「連絡が途絶えてな。来ると言っておったのに。今回秘蔵の酒を持参するって言ってたのにひどいだろ」
さきいかを噛みながら、八百万の神のうちの1人が言う。
本当は1柱と言うべきなのだろうが、こうまで人間臭い姿を見せつけられると、1人という感覚になる。
「どうしたんでしょうねえ」
町
「わかりました。早急に向かいます」
小野さんがそう言った。
小野さんは僕と直を連れて端へ行くと、クールな笑みを浮かべ、改めて言った。
「というわけだ。行って来て、ここまで引っ張って来てくれ。何か起こっていたら、対処をしておいてくれ。任せた」
僕と直は大人しく任されて、宴会場の中に戻る小野さんの背中を見送り、ぼそっと言った。
「神様って、気まぐれな人も多いんだよな」
「今回もそういう事かも知れないよねえ」
「面倒臭い」
しかしこれも新人の勤めだ。僕と直は、早速とりかかった。
総会に来なかったのは、東北にいる座敷童だった。いつもは総会に参加し、ほかの福をもたらす神と喋っているそうだ。
最近気に入って住んでいる旅館は岩手県にあり、引っ越したという話は聞かないという。
「岩手か。ちゃんと昼間に普通の手段で行くのなら、お土産も買うのにな」
「まあ、こっち経由で行けば、旅費ゼロでそこはありがたいんだけどねえ」
「しかしあれだな。昼間は陰陽部、夜はあの世で働いて、働きすぎだろ。働き方改革はどこに行った」
「これも改革かねえ?悪い方へ」
「疲労が残らないのが救いだな」
「だよねえ」
笑いながら、岩手の、旅館の近くに出た。
まだこの時は、誰も事態を重く見てはいなかったのだった。
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