第961話 憎しみと恋しさの間(2)緊急配備
えらいことになった。それが皆の共通する最初の感想だった。
僕達陰陽部のメンバーは、緊急招集をかけて集まっていた。
「坂巻早織さんは、美弥さんの事故死に対する判決に抗議か悲観をして自殺。夫の啓輔さんは、娘だけでなく妻も事故で殺されたものと、加害者の河原健二さんや判決を下した裁判官への怒りをあらわにしていたそうです」
「坂巻啓介さんは末期のすい臓がんで、余命4ヶ月を宣告されています」
千歳さんと美保さんがそう報告をする。
「封印されていた須藤捨男の方は」
訊くと、芦屋さんと下井さんが立つ。
「はい。女郎キクと客との間にできた子が、須藤捨男。生まれてすぐに妹に引き取られましたが、下男以下の扱いを、叔母一家と使用人から受けていたそうです。
捨てた母親や虐める女性を憎んでいたようですが、女性そのものを嫌悪するようになったようです。19歳の時にその恨みが爆発し、叔母、従姉妹、女性の使用人と次々に鉈で殺害。捨男が犯人だとして逮捕されそうになった時、皆の目の前で、凶器の鉈で自殺しました」
「以後、この須藤家に飾ってあった日本人形が夜になったら歩き出し、キクが突然客の目の前で被害者達と同じように頸動脈を切り裂かれて死ぬという不可解な死に方をしたので、人形を神社に持ち込み、これまで封印をしてきたそうです」
そこで、灰田さんが言い添える。
「人形を収めた箱に札を貼って、お仕置き部屋に並べてありました。小父――坂巻さんもその事は知っていました」
それに頷く。
「坂巻さんが自分を贄にしてまで願ったのは、恐らく河原健二だろうが、こっちは今、収監されている刑務所に近い所の霊能師が向かっている」
と、電話が入った。
出た榛名さんが、緊迫した声で報告する。
「行った時には、河原健二が頸動脈を切り裂かれて死んでいたそうです。時間的には、封印が解けてすぐですね」
これに、一同は重い息をついた。
「己を解放した坂巻さんとの契約通り、河原健二を殺したという事か。
これで自由になったか。となると……」
「次はやっぱり、事件の続きかねえ?」
「だろうな。殺人鬼が野に放たれたわけだ。何としても、一刻も早く封印をする。まずは居所を見つけ出す」
「はい!」
全女性が危険だ。急がなくては。
「あ、課長。ひとつ思い出した事が」
灰田さんが声を上げた。
「須藤が使っていた凶器の鉈ですが、どこかで祀られていると聞いた事があります。須藤はそれを手に入れに行くんじゃないでしょうか」
「その鉈がどこにあるか、所在を調べられるか」
「はい、やります」
「じゃあ、灰田さんと3課1係で、鉈の所在、須藤の親族の所在も調べてもらいたい」
「はい。
3課1係は集まってくれ」
沢井さんがすぐに人員の割り振りに入る。
「1課1係と2課1係は、取り敢えずエリアに分かれて捜索する。担当区域を決めるぞ」
地図を広げて、皆でその前に移動する。
そして、慌ただしく動き出した。
協会にも連絡し、パトロールに協力をしてもらっていた。
そのうち、鉈は事件のあった村の寺で供養されている事がわかったので、僕と直は急行した。
「鉈にこだわるかねえ」
直は懐疑的だった。
「こういう殺人犯は、特定の凶器やシチュエーション、ターゲット選びとか、何かこだわりを厳守するものだからなあ。
須藤の場合、被害者は、親族と、同じ家に住む使用人がターゲットになった。死んでからは、母親も殺している。凶器と殺し方は皆同じく、頸動脈を鉈で切り裂いての殺し方だ。
ターゲットに関しては、暮らしていた家の親族、使用人、母親だから、これだけなら怨恨もあり得る。でも、女性そのものを嫌悪していたらしいし、逮捕されかけていた時は、村の女性を狙っていたそうだから、女性全般がターゲットになり得ると思う」
「じゃあ、親族がもういなければ、鉈の近くにいる女性がターゲットにされる可能性が高そうだねえ」
言っているうちに、須藤の親族はもう絶えている事がわかったと連絡があった。
それを受け、鉈のある寺周辺に人員を配置。念のためにそれ以外の地域では、協会の霊能師にパトロールを続けてもらう事にした。
「あそこか」
寺に、ついた。
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