第936話 チビッ子編 👻 サンタクロース大作戦(3)さあ、眠れ

 当日である。子供用シャンパンというジュースにチキンを食べ、ケーキも食べた。チョコレートの家は司に、サンタさんのマジパンは怜にとケーキに添えられたが、半分あげると怜が言うので、サンタさんの上半身と家の右半分が司のケーキに乗せられた。

 父と母にもとサンタさんの頭と片足をもごうとしたので、サンタクロースバラバラ殺人死体遺棄事件になる前に、

「もういいから怜が食べなさい。かんぱーい」

と進めた。

 そろそろクリスマス会もおしまいだが、親や兄にとっては、ここから第3ラウンドだ。

 幼稚園のクリスマス会の報告を聞き、風呂に入れ、首尾よく寝かしつけ、ぐっすりと寝ているのを見計らって、枕元にプレゼントを置くというミッションがある。

 因みに第1ラウンドは、準備したプレゼントをいかに隠し通すか、である。

 しかしここで、御崎家の場合は問題がある。

 怜の不眠体質だ。健康に害はないと聞いてその心配はしなくはなったが、こういう日は困る。

 なぜこの日に「寝る日」が回ってこなかったのかと、両親と司は頭を悩ませていた。

「怜、寝ようか」

「眠たくないもん」

「でも、一応寝ないと、サンタさんもいつ入ればいいか困ると思うんだ」

 怜ははっとしたように、

「サンタさんが来ない!?」

と呟き、おとなしく部屋へ行った。

 司は両親とアイコンタクトをかわし、

「兄ちゃんがお話してやるからな」

と言って、それに付添う。

 怜を寝かせる作戦が、スタートした。


 怜は司の言う通り、目を閉じて、聞いていた。

「羊飼いは、連れて来た羊を、数え始めました。羊が1匹。羊が2匹」

 ゆっくりとした口調、適度な室温、ぽんぽんと軽く叩く手。これなら寝るんじゃないかと、司達が相談した手だった。

 羊が276匹に到達した頃、司はもういいかとそっと立ち上がった。怜は静かに目を閉じ、深い呼吸で、仰向けになっている。

 が、怜がパッチリと目を開けた。

「兄ちゃん。275匹目がとんだよ」

「……そうか。怜はもうそんなに数を数えられるんだな。偉いぞ」

「えへへ」

 ダメだった。


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