第933話 心霊警察・爆発する想い(3)事件解決とスタジオ出演

 愛田さんは犬の頭を撫でて、僕達のそばにすうっと来た。


     この子達 可愛いでしょう


「そうですね。これは、医学部の?」


     実習で殺された子達よ

     自分が実習といって殺されたりしても平気なのかしら


「医学知識を身に着ける為とはいえ、確かに申し訳ない犠牲ですね。

 でも今後は、バーチャルでの実習が主流になると思います」

 言いながら、愛田さんというのは、動物保護の立場の人だろうかと推測していた。


     それでも この子達は浮かばれないわ

     焼却されて 供養塔に収められて

     形ばかり 供養式典をしても

     形式だけじゃない

     悪いとも思ってない

     痛いのも 苦しいのも わかってない

     痛みもわからない人に 医師になって欲しくないわ

     報いを受けるべきよ


 爆弾は、医学部か。

「直、そっちを頼む」

「了解だよう」

 直が医学部へ向かおうとするのを、動物が阻む。

 主に犬が直の正面で牙を剥いて唸り、吠えたてる。それに直の足が止まった。

「怜。これは、かわいそうだよう」

「だよなあ。

 愛田さん。死んだ動物をいつまでも現世に縛り、人を恨ませている方が残酷ではないですか」


     何ですって


 愛田さんの目が吊り上がった。

「生きている人間に爆弾を作らせて殺し、今度はそれで何人もを殺そうとしている。

 あなたの方がずっとエゴイストに見えますが」


     わたしを ヒテイスルナ

     ワタシハ タダシイ

     イノチハタイセツ

     アイツラハ シネ シネ シネ――!


「命が大切と言いながら矛盾だな」

 まずは直の前の犬達に浄力を浴びせかけると、かれらはキラキラと光って形を崩し、消えて行った。

 それを見て、直は笹岡さんの憑いた札を持って走って行った。


     コロシテヤル コロシテヤル!


 愛田さんは顔を歪めながら徐々に実体化して行った。

 その間に、浄力を広く広めて、動物達を成仏させていった。

 人間の為に犠牲にして申し訳ない。でも、ありがとう。そう思いながら、見送った。

「怜!鍋島さん達に会ったから、笹原さんを人型にして預けて来たよう!」

「じゃあ心配ないな!」

 それで心おきなく、僕達は愛田さんに向き直った。

「自分の主張に動物を利用するな」

「意見を通せないから殺すなんて論外だねえ、全く」


     ウルサイ ウルサイ ウルサイ!


 僕は刀を出した。

「爆弾はどこですか」


     シネバイイ!シネ!


「ダメだな。酷く歪んでる。祓うしかないかな」

「仕掛けた場所を聞き出したかったけどねえ。

 あ……無事に見付けて笹岡さんが解除したってさあ」

 直がイヤホンからの連絡を受けて明るい声を出した。

「じゃあ、逝こうか」

「はいよ」

 愛田さんが四つん這いで飛び掛かって来るのを、半身になって避け、刀を一閃させる。


     ギャアアアア!!


 愛田さんは形を崩して消えて行った。

「やり方を間違えたんだよな、この人は」

 僕と直は小さく愛田さんと動物達の先行きを願って、すぐに事件の方に頭を切り替えた。

「あとは笹岡さんに事情をもう一度聞いてから、成仏して貰っておしまいだな」

「甲田さん達への説明もしないとねえ。ピーとか、モザイクとかも」

「面倒臭い。広報の仕事だ。うん、そうに決まってる。広報に押し付けよう」

 僕と直はそう言い合って、皆と合流するべく歩き出した。


 言い訳編と爆発物事件は、録画したものをスタジオで高田さん達が見てコメントをするという形をとることになっており、出演者達は、リラックスしてスタジオで見ていた。

 言い訳編では笑い転げ、

「流石、鬼!」

「いやあ、他人の事ならリラックスして見ていられるからいいよね」

と好きな事を言っている。

 爆発事件編では、神妙な顔付きをしながら、

「動物実験とかなあ。かわいそうとは思うけど、なあ」

「せめてちゃんと、感謝して供養しないとね」

と言っている。

 そして、実際のひょうたんを持って、僕と直がスタジオに入る。

「これがひょうたんですよう」

 そう言ってカメラの前でもう一度説明し、開発秘話の再現ミニドラマを見る。

「現在全国に配備が進んでいます。さっきの言い訳のように、ごまかしは通用しませんから」

「霊を騙って言い訳にして、何かが起こっても知りませんよう」

 言うと、高田さん達は

「気を付けよう」

「言い訳したらよけい怒られるのは、嫁さんと同じ」

などと冗談を言いながらも、ごまかしは無理だというこちらの話に合わせてくれる。

「例の有名な開発秘話の番組を思い出すなあ」

「ユーヤ、ちょっとテーマソング歌えよ」

「でも、ひょうたんかあ。これでわかるのね。見かけは懐中電灯みたいなものなのに」

 えりなさんが言うと、待ってましたと僕達が言う。

「そう言われると思って、サンプルを用意しました」

「へ!?」

「昨日病院でスカウトして来ましたぁ」

 直が可視化すると、青白い顔付きで花柄のパジャマを着たお婆さんが現れた。そして照れたようにニッと笑うと、唇の端から血が流れた。

「出たぁ!!」

「では誰にします?お婆さんに選んでもらいますか?」

 出演者達は、

「やっぱりこうか!天然S型があれで終わるわけがないもんな!」

「今回はもう怖くないと思ったのにぃ!」

と言いながら、逃げ惑った。

 そしてそれを冷静にカメラさんが撮るのだった。

 ああ。甲田さんの指示とはいえ、面倒臭いな。





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