第926話 クリスマス会(3)タクシーに乗る幽霊

 その事故現場は、空港からの高速道路を降りて少しは知ったところだった。普段から事故の多い所だった事に加え、クリスマスイブで車が多かったのが災いしたのか、年末で仕事を早く終わらせたいと焦るトラック運転手が原因か、ともかく8台の車が絡む事故が起こり、死者4名、重傷者5名という大事故となったのだ。

 そこに、霊がいた。

 1人はサラリーマンで、タクシーに向かって手を上げて乗り込んでは、先でふっとタクシーから降ろされて事故現場に戻されている。

 もう2人はカップルで、ひたすら道端でイチャイチャしていた。

 もう1人はOLらしき女性で、時計をチラチラと見ていた。

「あれかな」

「成仏してなければあれだねえ」

 僕と直は、サラリーマンに近付いて行った。

「陣川さんですか」

 彼は僕達を怪訝そうな顔で見て、


     どちら様ですか


と言った。

 なのでバッジを出して、ややホッとしながら名乗る。

「警視庁陰陽課の御崎と申します」

「同じく町田と申しますぅ」

陣川陽馬じんかわはるまさんですか」


     そうですが……


 警察官にこう声をかけられれば、理由がなくとも不安になるものだと思う。それは申し訳ない。

「お嬢さんの千陽ちゃんが、学校で陣川さんの到着を待っていまして。お手伝いできないものかと」

 それに、陣川氏はハッとしたような顔をした。


     ああ、千陽!

     出張から真っすぐ学校へ向かえば

     間に合うはずなのに

     どうしてか、ここから離れられないんです


「では、我々が学校までお送りします」


     ありがとうございます!


 陣川氏は頭を下げ、手の中の小箱をぎゅっと大事そうに握り締めた。

 それで、直の札に陣川氏を憑けて車に乗り、学校へ向かう。

 向かいながら、陣川氏に話しかけた。

「今日はクリスマス会なんですってね」


     そうなんですよ

     仕事が忙しいからって

     学校行事に全然参加してやれなくて

     物分かりがいい子と思っていましたが

     行けそうだと言ったら驚く程喜んでくれましてね

     いままで我慢させていたんだと

     胸が詰まりました


 言い難いが、言わないとなあ。

「陣川さん。空港からタクシーに乗って来られたんですよね」


     ええ


「高速を降りてから、何があったか覚えていますか」

 陣川氏はキョトンとしたように僕達を見、考え、段々その顔が強張って来た。

「思い出されたようですねえ」


     いきなり衝撃が……事故、ですか

     陰陽課……私は死んだのですね

     え?待って下さい

     千陽が待っているとは?


 心配そうな顔になる。自分の身に起きた事へのショックよりも娘の事とは、流石は父親だ。

「クリスマス会の日、千陽ちゃんも用水路に落ちて、事故死しています。

 でも、今も学校の体育館で、お父さんの到着を待っているんですよ」

 陣川氏は、それを聞いて泣き崩れた。


     何で……千陽はまだ4年生なのに

     何で……!


 しばらくそのままそうっとしていたが、学校が近付いて来たので、話しかけた。

「千陽ちゃんと一緒に、向こうへ行きましょうか。千陽ちゃんも、お父さんと一緒なら心配いらないでしょう」

 陣川氏は涙を啜ると、こっくりと頷いた。


     はい

     ああ 向こうに行けば

     親子4人揃います


 そして、笑顔を浮かべて見せた。


 

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